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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第3章.青い花をめぐる思惑

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7.ヴァルムント伯爵家

一旦、宿へ戻る頃には、日が登りきっていた。


扉を開けると、ハナがすぐに顔を上げる。

「おかえり。遅かったね」

「ちょっと色々あってな」


椅子に腰を下ろしながら、今あったことを順番に話していく。

昨夜の二人と街で再会したこと。

ユリウスの名前を引き出したこと。

青い花そのものを狙っているらしいこと。


そして。

伯爵家からの招待。


ハナの目が丸くなる。

「伯爵家?」

「せや。俺もびっくりや」


一拍置いて続ける。

「この後、迎えが来るらしい」


ハナは少し黙ったあと、小さく言った。

「……本当に行くの?」


その声には、不安がにじんでいた。

嫌な予感。

そんな言葉を飲み込んでるように見えた。


「行かんと、話が前に進まへん」

そう答えながらも、胸の奥には同じようなざわつきがあった。


正直、俺にも分からん。

でも、ここまで話が大きくなった以上、行かんわけにもいかへん。



夕方。


宿の前に、一台の黒い車体が止まった。


車輪の周囲に淡く青白い魔法陣が浮かび、車体の前方には大きな魔石が埋め込まれている。


ハナが小さくつぶやく。

「……何これ」

リゼルが静かに答える。

「魔導車でございます」


車体の側面には銀の紋章が刻まれていた。

ヴァルムント伯爵家の家紋やろう。


道行く人が自然と道を開けていく。

視線が集まる。


この街での権力の大きさが、それだけで伝わってきた。


俺は自分の服を見下ろす。

病院服。

手には棍棒。


……さすがに、この格好でええんか。


リゼルが微笑む。

「問題ございません」


一拍。


「伯爵は結果を重んじるお方ですので」


……ほんまかいな。



魔導車に揺られてしばらく。

街の中心部を抜け、これまで足を踏み入れたことのない区画へ入る。


高い塀。

整えられた庭木。

白い石造りの大きな屋敷。


「……でか」

思わず声が漏れる。


ハナも隣で固まっていた。


屋敷の中はさらに豪華やった。

赤い絨毯。

高い天井。

壁に飾られた絵画。


いかにも、って感じや。



通された部屋の奥。

大きな椅子に、男がふんぞり返って座っていた。


年の頃は五十代くらい。

ふくよかな体。

深い緑の豪奢な服。

指にはいくつもの宝石の指輪。


指輪だらけの手が、肘掛けをゆっくり叩いている。

その音だけで、部屋の使用人たちの肩がわずかに強張った。


その伯爵がようやくこちらを見る。

「……なんだ、その格好は」


一拍。


「冒険者風情とは聞いていたが、まさか病人をそのまま連れてくるとはな」


やっぱりそこか。


こっちは呼ばれて来た側やぞ。

礼の一つもない。

最初に出た言葉が、それか。


俺が黙っていると、鼻で笑った。

「まあよい。使えるなら何でもよい」


その言い方に、胸の奥がざらつく。


次の瞬間、伯爵がワインを口に含む。

眉が動いた。


「……まずい」


そのままグラスが床へ叩きつけられる。


甲高い音が部屋に響いた。


黒い給仕服を着た若い使用人が、

割れた破片を見た瞬間に膝をついた。


慣れている。

そう分かってしまう動きやった。


伯爵は一瞥すらしない。

「こんなものを出すとは、首を飛ばされたいのか」


……なんやこいつ。


伯爵の言葉に、ほんの一瞬だけ、リゼルの視線が“上から”滑った。

そして、静かに一礼する。

「エドワード・ヴァルムント伯爵様」


こいつがこの街の支配者か。


胸の奥で、じわじわと熱いものが膨らんでいく。



伯爵が椅子にもたれたまま口を開く。

「青い花を見つけたそうだな」

俺はうなずく。


伯爵は面倒そうに指輪をいじる。

「民が何人死のうと構わんが、街が荒れれば税収に響く」


部屋の空気が凍る。

ハナの顔がこわばるのが分かった。


伯爵は構わず続ける。

「魔物が増えれば商人も寄りつかん」

「市場が止まれば面倒だ」


……人の命やなくて、金か。


イラつきが喉元までせり上がる。



伯爵が俺たちを見下ろす。

「正式にはギルドへ依頼を出す」


一拍置いて、続ける。

「発見地点まで案内し、原因を突き止めろ」


命令口調やった。

依頼というより、押し付けや。



俺が黙ったままでいると、伯爵が薄く笑った。

「無論、拒否という選択もある」


一拍。


「その場合は、街の治安を乱した危険人物として手配するだけの話だ」


ハナが小さく息をのむ。


伯爵は指輪を弄びながら続ける。

「罪状など、いかようにも作れる」


胸の奥が熱くなる。


……いや、ちゃう。

押し付けですらない。


最初から、断らせる気なんかあらへん。


……脅迫や。


伯爵は俺の反応を楽しむように笑う。

「冒険者ギルドも宿も、罪人を庇いはせん」


逃げ道は、最初から塞がれていた。




伯爵が横を見もせず言う。

「リゼル、お前も同行しろ」


リゼルは静かに頭を下げる。

「承知いたしました」


……いよいよ、あの廃墟都市に戻ることになるんやな。


青い花。

ユリウス。

伯爵家。


全部の線が、またあの場所へ戻っていく。


胸の奥で、昨夜とは違うざわつきが広がっていた。

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