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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第3章.青い花をめぐる思惑

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6.昨夜の影


朝の光が、宿の窓から差し込んでくる。

昨夜のことを思い出して、小さく息を吐いた。


「さすがに、もう一回は御免やな」


窓の留め具。

簡単な鈴。

ロープ。

最低限、出来ることはしておきたい。


ハナはまだ部屋で休んでいる。


「ちょっと道具屋見てくるわ」

そう声をかけて、俺は一人で宿を出た。


朝の通りはもう人で賑わい始めている。


パンの匂い。

荷車の音。

露店の呼び声。

せやのに、昨夜のことが頭から離れへん。



ふと、昨夜のことが頭をよぎって、無意識に人の流れへ目を走らせる。


……あれは。


思わず足が止まった。

人だかりの向こう。


昨夜の二人や。


しかも、今度は誰かを囲んどる。


長い銀髪の女性。

上質な黒のメイド服。


背筋はまっすぐで、

絡まれている最中だというのに、所作に乱れがない。


朝の光を受けて、銀の髪が静かに揺れていた。


体の大きい弟分のギルが軽い口調で言う。

「だからさ、少し話を聞かせてくんねーかな?」


女性は静かに返す。

「申し訳ありません」

「そのようなお話は、私の口からは」


ガレスは何も言わん。


黒い短髪。

地味な革鎧。

無駄な飾りはひとつもない。


ただ、逃げ道を塞ぐように立っている。


喋らない分だけ、こっちの動きを見ている目が嫌に鋭かった。



俺は人だかりを抜けて前へ出た。


「昨夜はえらい早う帰ったな」


空気が止まる。


ガレスの目が細くなる。


「……てめぇ、ダイキ!」

ギルが吐き捨てるように言った。


俺は視線を外さへん。


俺は小さく口元を上げる。

「昨夜、商会の旦那がえらい熱心やったもんな」


ギルが反射的に顔を上げる。

「は? ユリウスの旦那が――」


……かかった。


ガレスが低く吐き捨てる。

「ギル」


ギルがようやく口をつぐむ。


俺は小さく笑う。


「なるほどな」

「やっぱりユリウスの差し金か」



さらに踏み込む。


「狙いは何や」


二人とも黙る。


「青い花か?」


ギルの目がまた揺れる。


分かりやすい。


俺は続ける。


「花そのものか、それとも場所か」


ギルが思わず鼻で笑う。

「場所? んなもん聞いてどうするんだよ」


空気が止まる。


ガレスの目が細くなる。

「ギル」


……やっぱりや。


場所には興味がない。

花そのものが目的。


昨夜ギルドが聞いてきた話とは、明らかに違う。


ガレスが初めて口を開いた。

「……答える義理はない」


低い声。


せやけど、もう十分や。


「なんでそこまで欲しがる」


ギルがぼそっと漏らす。

「俺たちだって知らねえよ。旦那が欲しがってるだけだ」


ガレスが小さく舌打ちする。

「黙れ」


やっぱりな。


こいつら自身は中身を知らされてへん。

ただ動かされとるだけや。



ガレスが銀髪の女性を一瞥する。


その視線に、ほんの少しだけ警戒が混じる。


「行くぞ、ギル」

ギルは不満そうにしながらも兄の後を追う。


人混みの向こうへ消えていった。



二人の姿が見えなくなってから、女性がゆっくりこちらを向いた。


長い銀髪が、朝の光を受けて静かに揺れる。

整った所作で一礼する。


「助けていただき、ありがとうございます」


綺麗な声やった。

落ち着いてる。


「ヴァルムント伯爵家に仕えております、リゼルと申します」


伯爵家。


なるほど。


朝の光の中で、銀髪が静かに揺れる。


リゼルは一瞬だけ、俺の顔を見つめたあと、静かに続けた。


「もし差し支えなければ……先ほどの“青い花”のお話、少し詳しくお聞かせいただけませんか」


その声は穏やかやった。

でも、ただの興味本位やない。


「伯爵家としても、状況を確認する必要がございます」


一拍。


リゼルが静かに頭を下げる。

「もしよろしければ、この後、お礼も兼ねて屋敷へお越しいただけませんか」


屋敷。


思わず言葉が止まる。


……話が、一気に大きなってきたな。


青い花。

ギルド。

ユリウス。


そして、伯爵家。


昨日までただの違和感やったものが、

今、はっきりと一つの渦になり始めていた。



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