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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第3章.青い花をめぐる思惑

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5.見えているはずのない夜(ガレス視点)


宿の裏手は静かだった。


街の喧騒も、ここまでは届かない。

ガレスは壁にもたれながら、窓を見上げる。


三階。

例の二人の部屋。


弟のギルが小さく笑う。


暗がりでも分かる派手な金髪。

こちらと同じ黒い潜入服を着ているのに、

どうにも軽く見える。


「兄貴、こんなん寝込みの荷物漁るだけやろ」


ガレスは低く返す。

「お前、その油断で何回怒られた」



ギルが肩をすくめる。

「今回は楽勝やって」


ガレスも、半分はそう思っていた。


聞いている話では、相手は昨日この街に来たばかりの新人冒険者。

多少警戒していたとしても、こちらには関係ない。


二人とも気配遮断スキルを使っている。

夜の潜入でこれを見抜ける相手など、そうはいない。


ユリウスからの指示は単純だった。


花。

荷物。

手がかり。


見つかればそれでいい。



足音を消す。


呼吸を落とす。

スキルが身体に馴染む。


存在感が、闇に溶けていく。


これで気づかれたことはない。


窓の下までたどり着く。


ガレスが工具を取り出す。

刃先を差し込む。


ほんのわずかな音。


その瞬間だった。


部屋の中から、低い男の声がした。


「玄関はこっちやないで」


ガレスの手が止まる。


ギルも固まった。


……は?


ありえない。


スキルは発動している。

気づかれるはずがない。


次の瞬間、少女の声。


「そこに二人いる」


背筋が凍る。


正確だった。

位置まで、ほとんど狂いがない。


ギルが思わず声を漏らす。

「ガレス兄、なんで分かっとんねん」


ガレスの喉がひくりと動く。


見えているはずがない。


こちらは窓の死角だ。

気配遮断も使っている。


なのに、完全に位置を把握されている。



窓が勢いよく開く。


ダイキが立っていた。


暗がりの中でも、その目だけははっきり見えた。


「夜分遅くに熱心やな」


静かな声。


怒鳴りでも威嚇でもない。

それが逆に怖い。


ハナはベッドの上から、こちらをまっすぐ見ていた。


暗闇の中。

でも、その視線は迷いなくこちらへ向いている。


ギルが小さく舌打ちする。

「どうする」


押し入るか。


一瞬で計算する。


侵入成功率。

騒音。

宿の他客。


割に合わない。


ガレスは即座に判断する。

「ギル、引くぞ」


ギルが小さく文句を漏らす。

「マジかよ」


「黙って走れ」


二人は一気に身を翻した。


足音を殺して路地へ飛び降りる。


心臓の鼓動だけがやけに大きい。



路地裏へ戻る。

そこでユリウスが待っていた。


「早かったですね」

いつもの笑み。


ガレスは首を振る。

「失敗だ。……気配遮断を見破られた」


ユリウスの笑みが、初めて止まる。


ギルが横から口を挟む。

「いや、兄貴、あれおかしいって。こっちの位置、ぴったり言い当てやがった」


ガレスは低く続ける。

「しかも二人いると、正確にだ」


沈黙。


ユリウスの目が細くなる。


ギルが肩をすくめる。

「新人冒険者って話、盛ってたんじゃねえの」


ガレスは小さく息を吐く。


違う。

あれは新人とかそういう話じゃない。

少女の方だ。


あの視線。

あれは普通じゃない。


ユリウスが小さく笑った。

「……面白い」


その笑みが、逆に不気味だった。


ガレスは胸の奥の冷たさを拭えなかった。

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