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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第3章.青い花をめぐる思惑

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4.花を追う視線(ハナ視点)


ギルドの扉を押す。


昼を少し過ぎたせいか、中は昨日より少し落ち着いていた。

受付の前まで歩く。


昨日対応してくれた、淡い水色の制服の受付嬢が、

こちらに気づいて顔を上げる。


髪は今日もきっちり後ろでまとめられていて、

丁寧な笑顔も崩れていない。


「こんにちは」


私は軽く頭を下げる。

ダイキがすぐに本題へ入った。

「昨日の花のことで、ちょっと気になる話を聞いてきたんや」


受付の女性の表情が少し変わる。


ダイキが錬金屋で聞いた話を、順番に伝えていく。


瘴気。

魔物の活性化。

過去の事例。


それから、花そのものが極めて珍しく、古い文献にしか記録が残っていないこと。


話しているうちに、受付の女性の顔が少しずつ真剣になっていく。


一通り聞き終えると、女性はすぐに問い返した。

「……その花が咲いていた場所は、どちらですか?」


昨日より、明らかに踏み込んでくる。


私は思わずダイキを見る。


ダイキは少しだけ間を置いた。

「前にも言うたけど、森の外れの方や」


受付の女性は視線を外さない。

「森のどの辺りでしょうか」


空気が少し張る。


ダイキが小さく首を振る。

「詳しい場所までは、よう覚えてへん」


嘘ではない。

でも、本当の場所も言っていない。


受付の女性は少し考えるように目を伏せた。

「少々、お待ちいただけますか」


そう言って、奥へ消えていった。


思ったより、大事な話だったのかもしれない。

私は少しだけダイキを見る。


ダイキも、さっきより少し表情が引き締まっていた。


しばらくして戻ってくる。


「情報共有、ありがとうございます」


声のトーンが変わっている。

「こちらでも確認のうえ、必要であれば改めてご連絡いたします」


即座に何かが起きるわけではないらしい。

でも、ギルドの中の空気が少しだけ変わった気がした。



ギルドを出る。


さっきまでの緊張が少しだけほどける。


「結構、場所聞いてきたね」

私が小さく言う。


ダイキが前を向いたまま答える。

「そら、そうやろな」


一拍。


「でも、今はまだ全部話さん方がええ気がする」


私も小さくうなずく。


その時だった。


何かが引っかかる。


胸の奥が、ぴんと張る。

思わず足が止まった。


「……ハナ?」


私は小さく辺りを見回す。


通りを歩く人たち。

荷車。

露店。


人混みの中に、ひとつだけ違う感覚がある。


一定の距離。

離れすぎず、近づきすぎず。

ずっと同じ位置でついてくる。


「どうした?」


少し迷ってから口を開く。


「……誰か、ついてきてる」


ダイキの表情が変わる。

「……気配感知か?」


一拍。


「つけられとる?」


私は小さくうなずく。



ダイキが歩く速度を少し落とす。


私は隣で、意識を後ろへ向ける。


やっぱりいる。


通りの向こう。

少し距離を空けて、同じ人が動いている。


「……いる」


小さくつぶやく。


ダイキが軽くうなずく。

「次の角、曲がろか」


私たちは少し早足で路地へ入る。


角を曲がった瞬間、その人がこちらへ近づいてきた。


思わず息を呑む。


でも、現れたのは想像していた尾行者ではなかった。


細身の男。

上質なローブ。

やわらかい笑み。


商人、だと思った。



男がゆっくり頭を下げる。

「失礼。少しお話を」


柔らかい笑み。

でも、目だけが妙に冷たい。


「私、黒書商会のユリウスと申します」


一拍。


「ダイキさんと、ハナさん……ですよね」


背筋が冷える。


ダイキの目が細くなる。

「……なんで知っとる」


ユリウスさんは笑みを崩さない。

「商売柄、情報には少々」


さらりと言う。

でも、その軽さが逆に怖い。


ユリウスさんは続ける。

「昨日、ギルドで高額報酬の花が持ち込まれたと耳にしまして」


「もし、まだ同じ花をお持ちでしたら、ぜひ譲っていただきたい」


空気が少し張る。


ダイキの目が細くなる。

「……いくらや」


ユリウスさんは迷いなく答える。

「昨日の報酬の三倍で」


思わず息を呑む。

高すぎる。


ユリウスさんは少しだけ身を乗り出す。

「まずは、一度見せていただくだけでも構いません」


その言い方に、少し違和感が残る。

売りたいというより、確かめたいみたいだ。


ダイキが低く返す。

「もう納品した」


ユリウスさんの笑みが一瞬だけ止まる。

ほんのわずかに。


でも、すぐ戻る。


「……そうですか」


そう言いながら、ユリウスさんの目は私の方を見ていた。


「珍しい花ですからね」

「一輪だけで終わるとは、なかなか思えません」


胸の奥が、ひやりとする。


私は思わず息を止めた。


まるで、まだ持っている前提で話しているみたいだった。


ユリウスさんはさらに穏やかに続ける。


「採取された際、予備として残される方も多いものです」


「もし手元にあるようでしたら、こちらとしても相応のお値段をお約束します」


思わず視線が揺れそうになる。


ダイキが一歩前へ出る。

「ない言うとるやろ」


声が低い。


でも、ユリウスさんはそこで初めて小さく笑った。


……試された。


そんな気がした。



ユリウスさんは小さく頭を下げた。

「失礼しました」


そのまま人混みの中へ消えていく。


でも、まだ人がいる。

少し離れた場所に。


私は小さくつぶやく。

「……まだいる」


ダイキの声が低くなる。

「……宿までつけてくる気やな」


胸の奥が、またざわつく。


夕方の街を歩く。


人の流れに紛れても、

その気配だけは消えない。


少し離れた同じ距離で、

ずっとこちらを追ってきていた。


私は思わず、感知へ意識を向ける。


一人。


……違う。


もう一人いる。

さらに、その先にも。


背筋が、ぞくりと冷えた。



「……ダイキ」

声が少し震える。


「一人じゃない」

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