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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第3章.青い花をめぐる思惑

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2.未鑑定の巻物(ハナ視点)


宿を出る。

朝の空気は少しひんやりしていて、頬に心地いい。

昨日の話が、まだ頭の中に残っていた。


青い花。

高すぎる報酬。

あの廃墟都市。


ダイキは昨夜、全部を順番に並べて、一つずつ整理していた。

私はただ聞いていただけなのに、話を聞いているうちに、昨日の出来事が少しずつ繋がって見えてきた。


やっぱりすごい。

こういう時のダイキは、本当に頼もしい。


でも。

頼ってばかりじゃ嫌だ。

今日は私も、何か役に立ちたい。


「まず、ギルドの方行こか」

ダイキがそう言って歩き出す。


「うん」

私は小さくうなずいて、その隣を歩いた。


しばらく進んだところで、ふと足が止まる。

「あ」


視線の先に、見覚えのある看板。

昨日の魔法屋だ。


少しだけ迷う。

今は情報集めが先。


でも、昨日の戦いを思い出す。

最後に私が撃った水弾。

ちゃんと当たった。


あの時、少しだけ、自分にもできるかもしれないって思えた。


思わずダイキを見る。

「ちょっとだけ、寄ってもいい?」


ダイキが少し笑う。

「……情報集めの途中やしな」

「ちょっとだけやで」


思わず顔が明るくなる。

「うん!」


そのまま、扉を押した。



鈴の音が鳴る。

昨日よりも、店の中がよく見える。


棚いっぱいに並ぶ魔導書と巻物。

瓶に入った素材や魔石。

見ているだけで少しわくわくする。


「わぁ……」

思わず声が漏れる。


昨日は必死だった。

でも今日は違う。

少しだけ、楽しむ余裕がある。


「こんなにいっぱいあるんだ」

「せやろ」


ダイキが棚を見上げる。


水槍。

鈍化。

大治癒。

防御増幅。


覚えた水弾より、ずっとすごそうな魔法ばかりだ。


昨日も対応してくれた、青いローブの女性店主さんが静かに近づいてきた。

「お客様」


少し声を潜める。

「昨日、大変珍しい素材を納品されたと伺いました」


ダイキの表情が少しだけ変わる。


店主さんはそのまま奥の棚を開けた。

中には、一つの巻物。


深い青色の封印紐。

表面には、水の波紋みたいな模様が揺れている。


「これは?」

ダイキが聞く。


「未鑑定巻物です」


思わず目を丸くする。

「未鑑定?」


「はい。

高位の水属性、もしくは空間系統であることまでは判明しております」


「しかも、こうした未鑑定巻物は、この辺境の街では滅多に出回りません」


思わず巻物を見る。


「通常であれば、同等ランクの魔法を個別に習得するより、かなり割安です」


「ただし、中身までは私にも分かりません。

次にいつ入荷するかも不明です」


その瞬間。

ダイキの目が少しだけ輝いた気がした。


「ええやん」

「え?」


思わず声が出る。


ダイキが笑う。

「こういうの、めっちゃおもろいやつやん」


「……いくらですか?」

私が聞く。


「2,800,000 Jennyです」


「……高っ」

思わず声が出た。


ほぼ全部だ。


それなのに。


「買おうや」

ダイキは、ほとんど間を置かずに言った。


「え、でも……

中身、分からないんだよ?」


「せやからええねん」

楽しそうに笑っている。


「こういうんが一番おもろいんや」


思わずダイキの手元を見る。

棍棒。


昨日もずっとあれで戦っていた。


「ダイキの装備は?」

少し罪悪感が混じる。


でもダイキはあっさり言った。

「装備はまた稼いだら買える」


軽く棍棒を肩に乗せる。


「でも、こういう一点物は次ないかもしれん」


少しだけ目を細める。


「しかも高位魔法やろ」

「ハナが強くなる方が、今は絶対でかい」


その言葉に、少しだけ心が揺れる。


確かに。

次はないかもしれない。


ゆっくりうなずく。

「……うん」


「これ、ください」



巻物を受け取る。

封印紐を解く。


その瞬間、青い光がふわっと広がった。

文字が浮かび上がる。

水みたいに揺れて、空中へほどける。


「わ……」

思わず息を呑む。


次の瞬間。

光がそのまま、私の手の中へ吸い込まれた。


同時に、巻物が青い粒子になって崩れていく。

砂みたいにほどけて、空気へ消えていった。


「……消えた」


その瞬間。

何かが、頭の奥へ流れ込んでくる。


視界とは違う場所で、人の気配が揺れた。


店の中。

外の通り。

壁の向こう。


なんとなく、人がいる場所が分かる。


「……え?」

思わず目を瞬かせる。


「これ……

人がどこにいるか、分かる……?」


一瞬、沈黙が落ちる。


「……攻撃魔法じゃ、ないんだ」

思わず口から漏れる。


ダイキも少しだけ首をかしげる。


店主さんが静かに言う。

「……気配感知系統、ですね」


少しだけ首を傾げる。

「かなり希少な空間認識系統ですね」


「人や生物の位置を把握する補助魔法だと思われます」


私はもう一度、外へ意識を向ける。


通りを歩く人の位置が、ぼんやり分かる。

一人、二人、三人。


……いや、違う。


分かりすぎる。


店の中。

外の通り。

壁の向こう。

少し離れた路地。


人がいる場所が、一度に頭へ流れ込んでくる。


「っ……」


思わずこめかみを押さえる。

少しだけ、頭の奥が重い。


「ハナ?」

ダイキの声が近くなる。


「……なんか、気持ち悪い」

正直にそう言った。


「人がいる場所が、一気に入ってくる感じで……」


店主さんが静かに目を細める。

「慣れるまでは負荷がかかるのかもしれませんね」



通りを歩く人の位置が、まだぼんやり分かる。


でも、正直、少し地味だ。

水槍とか、大治癒とか。

そういうすごい魔法を想像していた。


少しだけ肩を落としかけた、その時。

ダイキが笑った。


「いや、これめっちゃ使えるやつやろ」


ダイキが少し身を乗り出す。


「敵の待ち伏せも分かるし、

人数差も見える」


「慣れたら、こういうんが一番えげつないねん」


その言葉に、少しだけ救われる。


……そうかもしれない。

まだ、分からないだけかもしれない。


店を出る。


ダイキがギルドカードを見て笑う。

「……見事にすっからかんやな」


思わず申し訳なくなる。

「ごめん……」


でもダイキは笑ったままだ。

「なんでや。

めっちゃ当たりやん」


本当にそう思ってる顔だった。

少しだけ胸が軽くなる。


その時。

通りの先に、小さな看板が見えた。


薬瓶と花の紋章。


「あ」

昨日の青い花が頭をよぎる。


ダイキも足を止めた。

「……ちょうどええな」


「このまま、花のことも聞いてみよか」


私はうなずく。

「うん」


今度こそ。

私も、何か見つけたい。


二人で、その店へ向かって歩き出した。

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