1.違和感の整理
朝の光が、薄いカーテン越しに部屋へ差し込んでくる。
柔らかい明るさが、ベッドの端をゆっくり照らしていた。
目を開ける。
(……朝か)
昨日の疲れが、まだ少しだけ体に残っている。
でも、不思議と重くはない。
むしろ、体は少し軽い。
ふと、昨夜のことが頭をよぎる。
ギルドを出たあと、そのまま街の食堂に入った。
木のテーブルいっぱいに並んだ料理。
香草焼きの森鶏。
海鳴り貝の白ワイン蒸し。
火竜ソーセージの盛り合わせ。
ハナが目を輝かせながら、
「今日は豪遊だね!」
って笑っていた。
俺もつられて笑っていた。
せっかくの大金や。
少しくらいええやろって。
軽い果実酒も頼んだ。
琥珀色の液体がグラスの中で揺れて、
現実ではしばらく味わっていなかった
“飲む”という感覚が妙に生々しかった。
(……ほんまに、昨日はいろいろありすぎたな)
楽しかった。
でも。
楽しかったはずやのに、
朝になっても胸の奥に何かが引っかかっている。
「おはよう」
横から声がする。
顔を向けると、ハナがもう起きていた。
ベッドの端に座って、窓の外を見ている。
「おはよう」
軽く体を起こす。
「よく寝れた?」
「うん」
ハナが小さく笑う。
「なんか、久しぶりにちゃんと寝た気がする」
思わず少し笑う。
「昨日いろいろありすぎたからな」
ハナも苦笑する。
「ほんとに」
少しだけ間。
「お金、すごかったね」
思わず口元が上がる。
「せやな」
「一気に金持ちや」
ハナも少し笑う。
「昨日は楽しかった」
その笑みが、少しずつ真面目な表情に変わる。
「……でも」
視線が少し揺れる。
「やっぱり、報酬高すぎたよね」
空気が、少しだけ変わる。
短く頷く。
「せやな」
「普通の採取クエストの額ちゃう」
ギルドカードの数字が頭に浮かぶ。
一夜で一気に大金持ち。
普通じゃない。
「なんで、あんなに高かったんやろな」
ハナが少し考え込む。
「薬とか?」
「何かに使う材料なのかな」
短く息を吐く。
「あの花そのものに、何か意味があるんやろな」
ハナが小さく頷く。
「うん」
少しだけ考え込む。
「みんな、花が咲いてた場所も知りたがってたよね」
思わず少し口元が上がる。
「せやな」
昨日のギルド。
受付の微妙な反応。
そして、廃墟都市で襲ってきた男。
「あいつも、あの場所を知られたくない感じやった」
全部、そこへつながる。
「……それにしても」
視線を少し落とす。
「なんで、あそこにだけあの花が咲いとるんやろな」
部屋が少し静かになる。
ハナも考え込む。
「たしかに……」
「他の場所では見つからないのかな?」
短く息を吐く。
「それも気になる」
昨日の出来事が、頭の中でばらばらに浮かぶ。
青い花。
高額報酬。
場所の詮索。
襲撃。
それに、
廃墟都市にいた二人。
あの男を一撃でやった何か。
まだ繋がりきってはいない。
でも、別々でもない。
そこで、ふと考えが止まる。
(……待てよ)
少しだけ視線を落とす。
「……そもそも」
思わず口から漏れる。
ハナがこちらを見る。
「俺、なんで最初からあの廃墟都市やったんやろ」
一瞬、部屋が静かになる。
ハナの目が少し開く。
「……あ」
「たしかに」
そこや。
昨日のクエストだけやない。
もっと前から、おかしかった。
「普通のスタート地点やなかった」
「最初から、何かおかしかったんだね」
短く息を吐く。
「偶然にしては、出来すぎとる気がする」
少しだけ考え込む。
「花を探しとるやつがおる」
「場所を探っとるやつもおる」
「知っとるのに隠しとるやつもおる」
昨日の光景が順番に浮かぶ。
ギルドの受付。
廃墟都市で襲ってきた男。
そして、カイルとミーナ。
でも。
まだ、答えには届いてへん。
「……何か、見落としてる気がする」
ハナがこちらを見る。
「うん」
小さく頷く。
「私もそう思う」
少しだけ息を吐く。
「気持ち悪いけどな」
「こういうの、嫌いやない」
口元が少しだけ上がる。
「……おもろなってきた」
ハナが少し呆れたように笑う。
「そこ、楽しむんだ」
「謎解きみたいやろ」
ハナも少し笑う。
でも、その目は真剣や。
「じゃあ、まず何する?」
そこはもう決まっている。
「まずは街で情報集めやな」
「花が何に使われるんか」
「誰があの依頼を出したんか」
ハナが小さく頷く。
「うん」
少しだけ考えてから、こちらを見る。
「そのついでに、魔法屋と装備屋も行こっか」
思わず少し笑う。
「せやな」
「昨日の金もあるし」
「装備も更新したい」
ハナの目が少し明るくなる。
「魔法ももっと見たい!」
その反応に、少しだけ肩の力が抜ける。
「ほな、決まりやな」
立ち上がる。
窓の外では、街がもう動き始めている。
人の声。
荷車の音。
朝の匂い。
今日は答えを探しに行く日や。
扉へ向かう。
胸の奥に残る違和感は、もうただの不安やない。
輪郭を持ち始めた疑問や。
(……偶然にしては、出来すぎとる)
二人で部屋を出る。
今日一日で、
何か一つでも答えに近づける気がしていた。




