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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第2章. 廃墟都市に灯る青い謎

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10.終わっていない街

「……今の声、なに?」


ハナが廃墟の奥を見る。

崩れた建物の先は暗く、何も見えない。

風が抜ける音だけが、やけに耳に残る。


少しだけ考える。


(……分からん)

(あかん、情報足りへん)


「ダイキ」

「行こう」


迷いのない声だった。


「放っておけないでしょ」


やっぱりそっちか。

思わず小さく息が漏れる。


「……せやな」

「分からんままも気持ち悪い」


ハナを見る。


「危ないで」

「うん」


「無理はせん」

「うん」


少しだけ口元が上がる。


「ほな、確認しに行こか」

「うん」




廃墟の奥へ進む。

静かすぎる。


崩れた屋根の隙間から、白い空が見えている。

ところどころ天井が抜け、陽の光が瓦礫の上にまだらに落ちていた。


足音だけが石畳に響き、瓦礫を踏むたび乾いた音が長く尾を引く。


「さっきの人……」

ハナが小さく言う。

「襲われてたよね」


「……せやな」


血の跡が続いている。

まだ新しい。


「こっちや」


ほとんど駆けるように進む。

距離は遠くない。


走りながら耳を澄ます。


けれど。


足音も、瓦礫の崩れる音も聞こえない。


さっきまで聞こえていた叫び声が嘘みたいに、廃墟は静まり返っていた。


数秒もしないうちに、足が止まる。


「……あ」


死体があった。

逃げた男や。


ハナが少し近づく。


「……この人、さっきの」

「この人って、ロボットの人なのかな」


「んー……」


少しだけ考える。

「多分な」

「プレイヤーやったら、もう消えてる」


視線を落とす。

「残ってるってことは……NPCやな」


ハナがじっと見る。

「そっか」

「じゃあ、生き返らないんだ」


少しだけ声が落ちる。

「……悪い人だったけど」

「可哀想だね」



小さく息を吐く。


「まあ、しゃあない」

「ここ、そういう場所や」


周囲へ視線を流す。


崩れた柱と瓦礫の山が視界を細かく遮っている。

少し離れれば、すぐに見えなくなるような死角ばかりや。


しかし瓦礫はほとんど崩れていない。

逃げ回った跡もない。


「……一瞬でやられとるな」


しゃがみ込む。


傷を見る。


深い。

何本かがまとめて抉ったように、斜めに深く裂けている。

まるで、大きな爪で一気に引き裂かれたみたいや。


一撃や。

逃げる暇も、振り返る暇もなかった。

叫び声も、ほとんど一瞬や。


(……強すぎる)


さっきまで俺らとやり合ってた相手が、

ここでは何もできずに終わってる。


ハナが小さく息を呑む。

「そんなに……?」


「抵抗する暇もなかったんやろな」


その瞬間。

抜けた天井から差し込む光が、ふっと揺れた気がした。


背後で、石が小さく転がる音がした。


反射的に振り向く。

瓦礫の上。


いつの間にか、男が立っていた。


三十代前半くらい。

日に焼けた肌に、短く切った黒髪。

擦り切れた革鎧を着て、手には細長い槍を持っている。


街の冒険者とは違う。

装備は古く、手入れも最低限。

けれど、立ち方だけは妙に鋭かった。


「誰や」

棍棒を構える。


その後ろに、若い女性が一人。


二十代半ばくらい。

肩まで伸びた栗色の髪を、雑にひとつに結んでいる。

外套は汚れているけれど、目元には妙な明るさがあった。


「……止まレ」

低い声が廃墟に落ちる。


横で女が顔をしかめる。

「ちょっと兄ちゃん、怖すぎ」


男の視線が、一瞬だけこっちの棍棒に落ちる。

「……その武器で、ここまで来たのカ」


軽く持ち上げる。

「最初はただの木の棒やと思っとったけど、案外使えるねん」


女が少し驚いて言う。

「あれって……」


「黙っとケ」

「はいはい」


少しだけ空気が緩む。


「……俺はカイル」

「こっちはミーナ」


「ダイキや」

「ハナです」


ハナが軽く会釈する。


カイルの視線が死体へ向く。

「そいつをやったのは、お前らカ」


「戦ったんは俺らや」

「けど、最後は別や」


カイルの視線が死体へ落ちる。

「……そのようだナ」


短く言って、一拍置く。

「お前たちも、この死体を見たなら分かるだろウ」

「ここは危なイ」


「帰レ」


ミーナが死体を見て、ほんの少しだけ目を伏せる。

「……また、遅かった」



ハナが一歩だけ前に出る。

「……ここ、何なの?」


小さく、でも真っすぐな声だった。

「なんでこんな街になってるの?」

「他にも人はいるの?」

「さっきの人をやったのって、何?」


ミーナの表情が少しだけ曇る。

「……知らない方がいいよ」

「ここは、本当に危ないから」


それだけだった。


ハナが少しだけ顔を上げる。

「……ねえ」


小さく続ける。

「さっきの声」

「“逃げて”って言ってた人と……同じ、だよね」


カイルは答えない。

ミーナも何も言わない。


沈黙。

それで十分やった。


カイルが低く言う。

「関わるナ」

「それが一番ダ」



「あと」

カイルが言う。

「ここを人に教えるナ」


理由は言わない。

ハナはすぐ頷く。

「分かった」

「言わない」


迷いがない。


ハナが小さくダイキを見る。


「……この人たち、自分たちのためだけに言ってる感じじゃない」

「本当に危ないって思ってる」


ダイキはカイルを見る。


言葉は少ない。

けれど、追い払うための嘘をついている顔ではない。


何かを知っていて、それを言えない。

そんな空気だけは、はっきり伝わってくる。


今ここで問い詰めても、答えは返ってこない。


少しだけ息を吐く。

(……今は聞き出せんか)


「……分かった」


少しだけ間を置く。


「よほどのことがない限り、ここのことは外で話さん」

「ほんまにどうしようもない時だけや」


ミーナが少し笑う。

「それでいいよ」


カイルも短く頷く。


「行こう」

ハナが小さく言う。


「うん」

背を向ける。

数歩進む。


ふと振り返る。

もう、二人の姿はなかった。


「……消えた」

ハナが小さく呟く。


静かな風が、瓦礫の隙間を抜けていく。

ほんまに、この街で生きとるんやな。


その実感だけが、胸の奥に静かに残った。


帰り道。


足音だけが石畳に響く。


しばらく黙っていたハナが、小さく言う。

「……これ、ギルドに言うの?」


足が止まる。


約束。

死体。

あの二人。


そして、あの断末魔。

少しだけ息を吐く。


「……さて」


口元が、わずかに上がる。

「どうしたもんかな」


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