8.青く灯る花
視界から消えた男が、次の瞬間にはハナの目前に滑り込んでくる。
低い姿勢から伸びたナイフが、迷いなく喉元を狙う。
「ハナ!」
考えるより先に体が動く。踏み込みながら割り込み、棍棒の柄で刃の軌道を押し上げる。
金属音をさせながら、弾く。
「……は?」
男の動きが一瞬止まる。
「ナイフ弾くとか、なんだそれ」
眉が歪む。
「その棍棒、何で出来てるんだ?」
すぐに踏み込み直してくる。ナイフが連続で突き込まれる。
速い。棍棒で押し上げ、もう一撃を弾くが、三撃目はずれる。
肩に走る。熱い。
「っ……!」
次は首。棍棒で軌道を逸らすが、そのまま腕を裂かれる。
浅い。でも確実に入ってる。
(……全部は止められん)
さらに踏み込まれる。横に流しても追ってくる。止まらない。
受ける。弾く。間に合わない。棍棒ごと押し込まれる。
(近い……この距離やと押し返される)
ナイフを逸らす。
続けて来る。
踏み込みに合わせて先に振る。
ぶつかる。
止まる。
(速さでは勝てへん……無駄がなさすぎる)
(でも、突っ込んでくるタイミングは分かる)
もう一度来る。
合わせて振る。
弾く。
一瞬、流れが止まる。
ナイフを逸らした流れのまま棍棒を横に振り抜き、踏み込みを強引に止める。
ナイフが一瞬だけ引く。
その隙に一歩下がる。
距離が、やっと空く。
(このまま受けてたら持たへん)
(合わせるしかない)
――その直後。
「水の力よ、ウォーターボール!」
男の声と同時に、空気が一気に冷える。
水が集まる。
次の瞬間、弾けるように飛んでくる。
「っ!?」
横に跳ぶ。
ギリギリで避けるが、背中に冷たい飛沫が当たる。
「今の……なに?」
「魔法や……!詠唱、短っ!」
言いながら、もう次が来る。
「水の力よ、ウォーターボール!」
さっきより間がない。ほとんど連続で撃たれている。
「ちょ、待って――!」
避ける。
着地。
また来る。
間隔が詰まっている。
「ダイキ、これ……」
「近づけへん!」
距離を取ったはずなのに、詰める隙がない。
(あの詠唱の短さやと、次の魔法までの隙がほぼないやんけ)
(近づく前に止められる)
「私もやる!」
ハナが前に出る。
「流れ集まれ、水の力。ウォーターボール!」
詠唱が始まる。長い。
その間に、男が動く。
「水の力よ、ウォーターボール!」
男の魔法が先に完成する。
水が弾け、ハナに向かって飛ぶ。
「ハナ!」
必死に割り込む。
棍棒を振り上げ、軌道にねじ込む。
ぶつかる。水が弾け、冷たい飛沫が広がる。
ハナの魔法は、まだ撃てていない。
「ごめん、間に合わない……!」
(詠唱してる間に、向こうが先に撃ってくる)
(このままやと、間に合わん)
今度はこっちから仕掛ける。
踏み込む。距離を詰める。棍棒を振る。
避けられる。
「遅いな」
男が笑う。
(振るのが一拍遅い)
もう一度踏み込む。振る。
また避けられる。
(振る頃には、もういない……!)
ナイフが返ってくる。
ギリギリで受ける。
ナイフを受けた反動のまま、一歩大きく下がる。
間合いが開く。
追ってこない。
しかし、距離が出来るとさっきと同様、男の詠唱が始まる。
「水の力よ、ウォーターボール!」
空気が冷える。
水が集まり、弾けるように今度はハナへ飛ぶ。
「ハナ!」
横へ出る。
棍棒を振り上げ、軌道にねじ込む。
ぶつかる。
水が弾け、冷たい飛沫が広がる。
「私も、詠唱短くしてみる!」
ハナが構える。
「水の力……ウォーターボール!」
短い。
だが、敵の方が速い。
「っ!」
もう一発も弾く。
ハナの魔法はその直後に小さく形になるが、遅い。
相殺にも届かない。
「くっ……でも、出た!」
その隙に踏み込まれる。
狙いはこっち。
ナイフが一直線に来る。
体をわずかにずらす。
刃が頬のすぐ横を掠める。
近い。
もう一歩入られたら、刺さる。
(このままやと削られる……!)
反射的に、ダッシュスキルを入れる。
半ば無理やりや。
――動きが止まらず、そのまま横に流れる。
距離が、わずかに開く。
(今の……スキルが繋がった……?)
(回避のあと、そのまま次が出た)
(そんなこと……出来るんか?)
もう一度来る。
同じように避ける。
すぐにダッシュを入れる。
今度は意識して。
外へ抜ける。
さっきより距離が取れる。
(回避のあと、そのまま次を出せる……)
(なら――ダッシュだけやない)
(踏み込みにも、攻撃にも繋げられるんか?)
一瞬、脳裏に過る。
このゲームをやってた頃、こんな動きは見たことがない。
(基礎スキルを繋げられるなんて、聞いたこともない)
また踏み込んでくる。
だが今度は、少し余裕がある。
(いける……この繋がり、使えば戦える)
ナイフが連続で迫る。
速い。
回避する。
ダッシュを繋ぐ。
それでも詰められる。
もう一撃をずらすが、次が来る。
肩に走る。
浅いが数が多い。
(このままやと押し切られる)
「ヒール」
背後からハナの声。
柔らかい光が包む。
熱が引く。
傷が、わずかに閉じる。
(回復……)
だが、間に合わない。
次の一撃でさらに削られる。
回復より速い。
「ダイキ……!」
ハナが叫ぶ。
こちらの傷を見る。
顔が強ばる。
そのまま男を睨む。
「もうやめて!」
男の目が、初めてハナを正面から見た。
しかし、ナイフは止まらない。




