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全身麻痺の俺は回復のためにVRMMOの世界で最強を目指す  作者: 和泉大輝
第2章. 廃墟都市に灯る青い謎

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5.ちゃんと戻ってくる

森の中を進む。


しばらく歩くと、ふっと視界が開けた。

木々が途切れ、円を描くように空間が広がっている。


周囲を見渡せる。

けど、開けすぎてもいない。


俺は足を止め、木々の間へ視線を巡らせた。


「ここなら、周りも見えるしええやろ」

少し考えてから、地面へ棍棒を置く。

「今日はここで休むか」


「うん」

ハナも辺りを見回してから頷いた。


乾いた枝を集め、火を起こす。

小さな炎が立ち上がると、張っていた空気が少しだけ緩んだ。


森の匂いに、乾いた薪の匂いが混ざる。


ハナは焚き火の前へ座り、自分の手を見ながら指先をゆっくり動かしていた。


「ねえ、ダイキ」


「ん?」


「ウォーターボールなんだけど」

ハナは少し迷いながら続ける。

「前より、やりたいことがそのまま形になる感じがするの」


指先に意識を集めるように、手を開く。


「こう動いてほしいって思ったら、そのまま水が動くっていうか」

少し照れたように笑う。

「うまく言えないけど」


「すごいやん」

俺は素直に頷いた。

「その感覚が分かってるなら、詠唱なしでも使えるようになるかもしれへんで」


「え、ほんと?」

ハナの顔が明るくなる。


「慣れたらな」


「やってみる!」

嬉しそうに手を見つめ、もう一度指を動かし始める。


楽しそうなハナを見ていると、こっちまで嬉しくなった。


俺は視線を落とし、自分のステータスを開く。


レベル十四。

基礎スキルが並んでいる。


《打撃 Lv16》

《打ち下ろし Lv4》


(……ええやん)


ちゃんと強くなっている。

動きも軽いし、攻撃を当てる感覚にもずれがない。


レベルの上がり方は、やっぱり普通やない。

スキルも、覚えるのが早すぎる。


けど、今のところ困っているわけではない。

むしろ助かっている。


視線を下へ動かす。


《職業 なし》


(問題は、こっちやな)


昔のゲーム知識を頭の中でなぞる。


属性を持たないままでは、レベルも基礎スキルも二十で頭打ちになる。

そこから先へ進むには、属性に合う上位スキルを取り、それに見合った職業へ就く必要がある。


つまり。


(このままやと、俺の成長は止まる)


軽く息を吐く。


正攻法で進むなら、何らかの属性を得るしかない。

けど、後から属性を得る方法なんて、昔のゲームでは聞いたことがなかった。


(ほんまに、ないんか?)


分からへん。


それでも、ここで立ち止まる理由にはならない。


まずは、今できることを全部やり切る。

レベル二十まで上げる。


基礎スキルも、取れるだけ取る。

その上で、属性を得る方法を探せばいい。


順番は、それでええ。


口元が少しだけ上がる。


(分かりやすいやん)


やることは決まった。


火が、ぱちっと鳴った。


「……きれい」

ハナが空を見上げる。


俺もつられて顔を上げた。


木々の隙間に、星が広がっている。

街から見た空とは違い、光を遮るものが何もない。


空が近い。


(こんな見え方、するんやな)


しばらく、二人とも何も言わずに空を眺めていた。


「ねえ」

ハナが静かに口を開く。


「ん?」


「さっきさ」

少しだけ間を置く。

「ダイキが死んじゃうと思った」


火が、また小さく鳴った。


「怖かった」

ハナは空を見たまま続ける。

「この世界で死んだら、どうなるの?」


「プレイヤーなら、教会で生き返るで」


そう答えると、ハナが俺を見る。


「ダイキも?」


「そのはずやけどな」

俺は少しだけ肩をすくめる。


属性もない。

国家にも所属していない。

ギルドの登録すらできなかった。


そんな俺が、ほかのプレイヤーと同じように生き返れる保証はない。

けど、今それを言っても、ハナを不安にさせるだけや。


「じゃあ、ロボットの人は?」


「NPCな」

思わず笑ってから、すぐに答える。

「NPCは死んだら終わりや」


ハナが黙った。

火の音だけが残る。


「……そっか」

小さく呟く。


それから、まっすぐ俺を見た。


「ダイキは死なないでね」


一瞬だけ、言葉を探した。

軽く流せる重さやない。


「……約束する」

はっきり答える。

「無茶はする。けど、死ぬようなやり方はせん」


ハナの目が、少しだけ揺れた。


「ちゃんと戻ってくる」


「ほんと?」


「ほんまや」

俺は少しだけ距離を縮める。

「守るで」


短く、でも途切れさせないように言った。


ハナはゆっくり頷く。


「……うん」


少しだけ、安心した顔になった。


火がまた小さく鳴る。

二人でもう一度、空を見上げた。


目が慣れてくると、さっきより星が増えて見えた。

白だけではない。


かすかに青い光。

赤みを帯びた光。


細かな光が、空一面に散っている。


一筋、すっと線が走った。


(……すごいな)


木の影が風に揺れ、いくつかの星を隠す。

その隙間から、また別の光が現れた。


「すごいね……」

ハナが小さく言う。


「せやな」


それ以上、言葉はいらなかった。


火の音。

風の音。

広がる星空。


それだけで、十分やった。


___


焚き火の光が届かない、少し離れた木立。


男は太い幹の陰に片膝をつき、二人を見ていた。


痩せた身体を古びた外套で包み、腰には細身のナイフを差している。

頬を走る傷跡が、わずかな星明かりに浮かんでいた。


「やっと見つけた」


小さく吐き捨てる。


「……苦労させやがって」


焚き火の向こうでは、二人が並んで空を見上げている。


男の視線が、ハナのそばに置かれた青い依頼書へ落ちた。

次に、寝間着にも見える妙な服で、粗末な棍棒を持つダイキへ移る。


「あれが、属性なしの男か」


口元がわずかに歪んだ。


「国家所属なし。ギルド登録もなし」

声を殺して笑う。

「死んでも、どこの国も責任を取らねえ」


男にとって、それは警告ではなかった。


何をしても、大事にはなりにくい。

誰も守らず、誰も捜さない。


都合のいい獲物やった。


「しかも、あんな棒一本で護衛気取りかよ」


鼻で笑い、視線をハナへ戻す。


焚き火に照らされた横顔を、値踏みするようにゆっくり眺める。


「女の方は、悪くねえな」


目が細くなる。


「男さえ消せば、女一人から聞き出す方法はいくらでもある」


腰のナイフへ、指をかける。

けれど、すぐには抜かなかった。


二人が花の場所を本当に知っているのか。

属性なしの男が、どれほど戦えるのか。


確かめてからでも遅くない。


男は笑みを残したまま、木の陰へ深く身を沈めた。


国家にも。

ギルドにも守られていない男が一人。


その隣には、まだ何も知らない女が一人。


夜が明けるまでには、まだ時間があった。

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