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151.空蝉8 あなたに夢中


「あたしとしてはねー、結局のところ、いろいろ考えると最有力候補はてっちゃんかな」


「ちょ、ちょっとゆいなさんっ、やめてください!」


「優しいし誠実だし、努力家だよね。でも、うーん」


「気になる点は正直に」

 グラスを持ち上げて促す沙貴に肩をすくめて見せる。


「でも、常識がないってある意味致命傷だよねえ。こちらがフォローし続けるのも限界があるって言うか」


「……」

 思わず頷いてしまいそうになった鈴子を、哲也が不安そうに見ている。


「恒彦さんはそういう面ではバランスもいいし、頼りがいもあるし。でも、この男に共感性はないわ。辛さを訴えても鼻で笑われるような男とずっと過ごせる?」


「でも、の後が非常に勉強になるわね」


「はい」

 盛り上がる女子三人の輪の両端で、哲也と恒彦、男二人は賢く沈黙を守っているようだ。


「功成はね、まず見た目がいいよね。初恋よ初恋。あたしの。見た目が初恋泥棒。あと背後の実家の太さはポイント大きいよね。でも」


「でも、が来た」


「ドキドキしますね」


「……性格は大事」


「ひとこと!?」


 わっと盛り上がって明るい声が響いた。


 会話が途切れなく続く。あちらこちらに飛んだり混ぜっ返したり、文句を言ったり笑ったり、アイスティーのおかわりが三杯目になったりしたところで、ふと気づいた。だから言ってみる。


「ねえ、その功成は?今夜は、功成は来ないの?」


「……」

 とたん、しんと静まり返る。


「え、なに?どしたの」

 不審に思って沙貴を見ると、彼女も瞬きして見返してきた。


「私は聞いてないけど……ここには、鈴子ちゃんに呼ばれて来て……そういえばそうだね。あいつはどうしたの?」


「さ、沙貴さん、功成くんには何も言ってないですよね?」


「うん、鈴子ちゃん。そもそも聞かれてないしね」


「が、外泊許可を取ったことはし、知られてないですよね?さ、沙貴さん」


「え?哲也くん?あ、うん。そうだと思うよ」


「鞘子には言ってねえか?ここに来ること」


「ええ?ヒコちゃんまでなに?誰にも言ってないよ、だって鈴子ちゃんが誰にも言わないで来てくださいねって最初に……」


「あ。わかった」

 唯奈はぽんと手を叩く。そしてきょとんとしている沙貴を指した。


「この人のために三人で計画したんでしょ。功成に内緒で」

 正解だったらしく、戸惑う沙貴に三人がかわるがわる説明し出した。


「ちょっとな、あのなんて言うか、あいつ粘着質なとこあんだろ?この前の夜、それこそ一晩中沙貴さんに釈明の言葉を送り付けそうになってたしよ」


「沙貴さんとゆっくり話せるの、グループになってるスマホの中だけだもの……。いつ会っても隣には功成くんがいるし、色々邪魔して、えと、遮ったりしてくるから、なかなかじっくり会話もできないし」


「だ、だから、お、オレたち、一度くらい、オレたちと、さ、沙貴さんだけの時間を過ごしてみたいなって」


 唯奈は割り込む。

「あたしもいるけど?」


「き、きみは、ゆ、ゆいなは、いつもいるじゃないか。いつもあのカフェの入り口にいるじゃないか」


「は?」

 聞き返すが、それよりも気になることがある。唯奈は呆れて首を振った。


「まあそれはいいとして、じゃあさ、これバレたらまずいんじゃん?あたし短い付き合いだけど、功成が嫉妬深いのはわかるよー」


「ちょ、ちょっと功成くん抜きで話したかっただけだし!」


「そ、そうそう。オレなんかなかなか会わせてももらえないし、こうでもしなきゃいろいろな意見を交わすことすらできないからっ」


「まあなあ。とにかくあいつ、自分以外の男に会わすの嫌がるしなあ」



「みんな」



 不意に沙貴が周囲を見回して微笑んだ。

「ありがとう。私のために……嬉しいよ」


 でもね。

 微笑んだ表情のまま、沙貴が遠い目をする。


「みんなまだまだ甘いわよ」



その瞬間、着信音が響いた。

「……」


 一瞬でテーブルが静まり返る。重い沈黙に耐えられなかったのか、恒彦が嫌そうに言った。

「出ろよ。沙貴さん、あんたのスマホだ」


 沙貴はゆっくりと首を振って拒否を示す。

「この絶妙な間合い。会話の内容を見切ったような瞬間。そしてみんなが今夜のことを白状したとたんに鳴らしたかのような、性格がにじみ出るかのようなタイミング。見なくてもわかる、相手の名前」


 真っ青になった鈴子が喉を鳴らした。

「……今夜は鞘子ちゃんとの約束があるって言ってたし、ちづるさんにアリバイ作りも協力してもらったのにっ」


 着信音は数回鳴り唐突に切れた。安堵の空気が漂った瞬間、今度は別の音がけたたましく鳴る。


「いやっ、あたしのスマホ……な、なんで一緒にいることが分かるのっ」

 怯えて震える鈴子が床に落とすと、すぐにまた違う音楽が流れた。


「わっ。お、オレのスマホに珍しく着信っ」

 哲也のものは一度鳴って切れ、そして別の振動が続く。


「……俺もか」

 恒彦がゴミをつまむ仕草でスマホを持ち、テーブルの片隅に押し遣る。ついでにと指を擦り合わせてため息を吐いた。


「ここにいるメンバー全員正確に把握してんなあいつ。嫌がらせが好きってとこもガキっぽいしな」


「あ、あたしはそんなこと思わないけど。……でも、ちょっと最近、高校の最初のときのイメージが崩れると言うか、沙貴さんのことだけ異様に神経質って言うか……しつこい……ううん、暗い……じゃなくて、ええと」


「おい鈴子、はっきり言えよ。ぶっちゃけ時々沙貴さんのこと気の毒な人を見るような目で見てんじゃねえか」


「ひ、ヒコ先輩だって!沙貴さんが夜逃げしたくなったら俺のトラックで運んでやろうかなとか笑えない冗談言ったり」


「ちょ、ちょっと待ってふたりとも。ま、まだ、場所はバレてないわけだし、まずは冷静にっ」


 この三人ははまだまだ甘いな、と沙貴の呟きが聞こえた。顔を伏せる彼女を見て、唯奈は首を傾げる。

 いらっしゃいませ、ああはい、どうぞこちらです、とどこか遠くで会話が交わされている。

 個室のドアが開いた。



「すごく楽しそうだね。誰の悪口ですか」


 にっこり微笑む功成。


 ほらね、と眉間を揉む沙貴を挟んで、三人がため息を吐いたのが見えた。


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