3.その子の名は 2
この回で生まれます。
『誰が?』
それはもう主人公たる──です。
外の騒がしい人間たちの声が一気に大きくなる。どうやら、この狭くも快適だった揺り籠からの立ち退きの時間が来たらしい。
(よし……! 出陣の時だ! 人間ども、そして愛しき我が配下たちよ! 転生からの第二幕、とくと目撃するがいい――ッ!!)
『アデーラ! 息を吸って……吐いて! そう、上手よ!』
『頑張れアデーラ! あと少しだ!』
壁の向こうから、聞き慣れた人間たちの緊迫した声が、かつてないほど間近に響いてくる。ステフやミックス、アガーの幼い歓声は引っ込み、代わりに大人たちの必死な励ましの声が充満していた。
『痛っ……! うぅ……ッ!!』
母体――アデーラの苦痛に満ちた呻き声がダイレクトに伝わってくる。私が体内で完成させた『気の循環』が、彼女の負担を和らげるように臍の緒を通じて母体へと逆流し、陣痛の苦しみをわずかに和らげていくのが分かった。
(フン……言ったであろう? 不義理はせぬのが私の道だと。ここまで健やかに育て上げたのだ、最後くらい安産で生ませてやるのが母への慈悲というものよ!)
自ら芯の気を全身に巡らせ、骨盤という名の狭いゲートへ向かって滑り込むように体勢を整えた。力任せに破るのではない。母体を傷つけぬよう、滑らかに、かつ力強く――!
『あ、頭が見えてきたぞ! すごい、自分で降りてきてる……!?』
『アデーラ、最後の一踏ん張りよ!!』
『―――んぐううううっ!!』
アデーラの魂の叫びとともに、全霊を込めた最初の産声をあげるべく、私は光の射す方へと身を躍らせた。
眩いばかりの【光】が私の視界である瞼の裏を焼き尽くすように当たる。冷たい乾いた空気が、生まれて初めて皮膚をヒリヒリと撫で、重力という概念が、容赦なく私の小さな身体に覆いかぶさってくる。
五感が、世界が一気に弾けた。
『生まれたーっ!! 元気な男の子だ!!』
『アデーラ、やったわね……! 綺麗な赤ちゃんよ!』
降臨を称え、平伏するがいいと、私は世界へ向けて高らかに大爆笑しようと口を開いた。
(ハハハハ! 聞け! 降臨を称え、平伏するがよい――ッ!!)
しかし、未熟な声帯から放たれたのは、威厳に満ちた声などではなく――
『おぎゃああぁぁぁぁぁぁっ!!?』
『うわぁぁん! 元気いっぱい泣いてるー!』
『可愛い~! アガー、お兄ちゃんだよ!』
客観的には、ただの元気な大号泣であった。
血と愛と温もりにまみれた私の身が、優しく布で包み込まれる。そして、ゼーゼーと息を切らせながらも、温かい涙を流して私を愛おしそうに抱き上げる一人の女性――アデーラと、視線が交差した。
『……ようこそ、私のおじいちゃんそっくりな可愛い赤ちゃん……あらぁ? 男の子だからお鼻はもうちょっと伸びるわよねぇ?』
(おじいちゃん……!? っえ? それに鼻だと……!?)
一瞬で全能感が崩れ去った私だったが、そのアデーラの温もりと、周りを取り囲むステフ、ミックス、アガーたちの溢れんばかりの破顔を目にした瞬間、言葉を失った。
彼らの瞳に映っているのは、恐怖すべき悪魔などではない。待ち望み、愛し、守るべき「新しい家族」の姿だった。
(……まったく、調子が狂う。人間というやつは、本当に……)
疲弊した小さな身体をアデーラの胸元に預け、渋々目を閉じた。
かつての記憶と【芯たる力】を秘めた私の、人間界での騒がしい第二幕は、こうして幕を開けたのだった。
赤子のリアルを追求したいのですが、
こんな感じかなぁっと表現してみましたがいかがでしょうか?
やはり今まで守られていた部位が空気とか光に当たることで、過敏に反応してしまうのではないかと思うのですよ。
名前は・・・そうですねぇ
次回の私に期待しまっしょい




