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3.その子の名は 1

体内で好き勝手やりつつも、みんなの事が大好きなジョビーさんを表現しています。

体内に宿った一筋の黄金の気が、ちんまりとした未熟な肉体を優しく、脊髄を中心に通り力強く満たしていく。――その過程で、手足が少々痙攣を起こした。

(ふん……意図した動きではない。肉体が未熟な動物に起こる生理現象、いわゆる【脊髄反射】というヤツだな)


身体の反応を冷静に分析する私を余所に、外からは呑気な声が響いてくる。


『あ! また動いた! 絶対いま、私の手に挨拶したよね!?』

『ちがうよー! 俺の手にキックしたんだよ!』


……外では相変わらずステフたちが大騒ぎしている。この力強い鼓動と熱気を感じながら、私は深く息を(吸っている気になって)整えた。

(ふん……配下に加えてやるのも悪くはないが、それにしてもこの暗闇、そろそろ退屈になってきたぞ)


外の喧騒が遠くなり意識がうとうとと微睡むたび、我はかつての仲間たちのことを思い出す。

ローズの小うるさい説教、ベルゼのぎこちない喋り方、あのおばばとの激闘……。奴らは無事だろうか。いや、あの優秀な副官と手練れの部下たちだ。お婆を適当にいなし、この情けない(?)転生劇を影で見守っているに違いない。


(今頃、『無事に赤子になれたでしょうか』などと目頭を押さえているのかもしれんな)


そんな想像をして一人でフフンと鼻を鳴らそうとした、その時だった。


――ドクン。


母体の奥深く、我の魂の根幹に「何か」が触れた。


『……――様。聞こえますか、――様……』


(ッ!? この声は……ローズ!?)


脳内に直接響いてきたのは、聞き覚えがありすぎる副官の声だった。微弱で、今にも途切れそうな念話の波動だ。


『……お気付きですか。無事に人間に取り込まれたようで安心いたしました。こちらはあの後、お婆をなんとか一撃入れてから撒きました、現在は潜伏してジョビー様の誕生を待っているところです』


(ローズ! お前たち無事だったか! 案ずるな、我は今、人間の腹の中で快適なぬくもりを満喫……いや、苦戦しておるところだ!)


必死に魂の波動を返そうと試みた。だが、赤子の小さな身体と未熟な魔力回路では、声にならない小さな泡のような振動しか送れない。


『……ふふ、応答しようと必死に手足をバタつかせているのが伝わってきますよ。外の人間たちが『あらあら、今日も元気ねぇ』と大騒ぎしておりますよ』


(くっ……! 見えておるのかローズ! えーい、恥ずかしいところを見るな!)


『ベルゼが作った通信経路ですから、長くは持ちません。 ――様、一つだけお伝えしておきます。人間として生まれるということは、悪魔としての記憶や魔力は大半がお身体が持たないので封印されるかもしれません。それに成長するにつれ、我々の顔すら忘れてしまうかもしれません』


急に真面目なトーンになったローズの言葉に、胸(魂)がキュッと締め付けられた。

忘れる? お前たちを……?


『ですが、ご安心ください。我が主がどこの誰として生まれ落ちようと、我ら配下は必ずあなた様を見つけ出します。……ですから、どうか安心して、人間の赤子としての生を全うなさってください』


『――様……元気な赤ちゃんで生まれてくる、です。また遊んでやる、です』


不意にベルゼの声も混ざり込んできた。


(お前たち……! 誰に向かって物を言っている! 配下の顔を忘れるような愚か者に見えるか! 忘れるどころか、生まれた瞬間に『私こそは元悪魔である!』と産声を上げてやるわ!)


『……ふふ、期待しておりますよ。それでは、またお会いしましょう。我がロード――』


プツン、と念話が切れた。


静寂が戻った暗闇の中で、小さな手足をきゅっと握りしめた。

忘れるものか。人間の血が混ざろうが、肉体が縮もうが、私が私であることに変わりはないのだから。


ふふふ、見よ。魂の底から引きずり出した『芯たる力』の輝きよ!

たとえ人間としての未熟な肉体に閉じ込められようと、この魂までは縛れぬのだ!


(魔王め……首を長ぁ~くして洗って待っているがいい。次に相まみえる時は、この黄金の気の一撃をその鼻柱にぶち込んでやるわ!)


己の体内で巡る循環システムを確立させ、完璧な達成感に浸っていた、まさにその時だった。


――ぐにゃり。


突然、これまで優しく包み込んでいた柔らかい壁が異様な圧力を伴って締め付けてきた。


(む……っ!? なんだ、この圧は!?)


暗闇の向こうから、かつてないほど眩い「光」の気配と、巨大な波のようなうねりが押し寄せてくる。

先ほどまでの『芯』の練成で研ぎ澄まされた第六感が警告を鳴らす。一定のリズムを刻んでいた母体の鼓動が急速に激しくなり、今まで自分を守っていた世界が、力強い圧力となり後押しをするように身体を出口へ導き始めていたのだった。

周囲の事を気にかけつつ、葛藤しておりますが徐々に記憶が薄れているというテンポでございます。名前はまだです。やばいのレス

この先に待ち受けるのは、出産か、名づけか、はたまた閑話なのか!?

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