5..次なるおっさん 2 初めての手紙
私の心に残ったのは手紙です。
手紙はいいですね~。ジーンと残ります。
街でのあのお使い事件から数日後のことである。
我が家に一通の羊皮紙が届けられた。
それも両親が言うには私宛らしい。
少しドキドキしながら封を開ける。
(もしやラブレターだろうか。)
差出人は——近所に住む一つ上の少女、ミックス。
(よし、女の子だ!)
そこには、幼い手つきの拙い年頃の文字でこう記されていた。
『はたしじょう ルシファルへ。あしたのひる、むらのみなみにある大きなきのしたで、しろとくろをつけましょう。にげたらおしりペチンペチンよ ミックスより』
『——ぶふっ!?』
あまりの愛らしさと物騒さのギャップに、私は部屋の床で盛大にずこーん!とズッコケた。
(……っ【果たし状】!?)
この私に対し宣戦布告とは、いい度胸だ。要はあのお使い事件の際、私と彼女の立ち回りは拮抗していたが、どうやら……いつまでも私から下に見られている立場が嫌になったらしい。
『フフフ……面白い。受けて立つぞ、ミックス!』
翌日の昼下がり。
風が吹き抜ける村のシンボル、聳え立つ大木。
そのふもとには、木切れを手に静かにたたずむミックスの姿があった。立会人のステフとアガーも
【なになに!? 喧嘩!?】
と目を輝かせて見守っている。
対する私は、この前に見かけたおっさんの魔術を参考に、麻紐の強度と伸縮性を魔力で極限まで高めた『改良型・三節棍』を構える。
『ミックス、私に挑む愚かさをその身に刻み、これからも励むといい!』
『……ホント、戯言が多いわね。いくよ』
煽りも虚しく、ミックスは無表情のままぽつりと呟くと同時に踏み込んできた。
(——速いッ!?)
パルクールで培った重心移動の滑らかさ! 彼女は地を滑るようなステップで間合いを詰めてくる。振り下ろされる木切れの軌道には一切の無駄がなく、的確に私の急所を狙い迫ってきた。
『バチンッ!』
私は三節棍の節を締め、最小限の軌道で【直前ガード】を合わせる!
攻撃を弾かれたミックスの身体が一瞬固まる——狙い通りの完璧な【隙】だ!
(もらったッ! 確定反撃のお尻叩き一撃だ——)
そう確信した瞬間。
ミックスは弾かれた反動を踏ん張るどころか、その勢いをそのまま利用して身体を横回転させ、私の追撃をことごとく空転させた。
(なにっ!? ガード硬直を軸の回転動作でキャンセルしただと……!?)
『へへ、ミックスすごい! ルーシーの変な棒攻撃をかわした!』
アガーが歓声を上げる中、ミックスが反撃に移る。
攻守が目まぐるしく入れ替わる【切磋琢磨】の死闘。
手の中で柄を滑らせてリーチを変える私の三節棍に対し、ミックスは最小限の身のこなしでジャスト回避を連発して距離を詰めてくる。お互いの息が上がり、地に汗が落ちる。
(くっ……可愛い顔してなんて圧倒的なバトルスタイル! センスが狂ってやがる……やっぱり惚れちゃうかも!)
私は三節棍を縦一文字に構え、空中回転打撃の仕込みに入る。
ミックスもまた、全身のバネを凝縮させて最後の一撃を放つ構えをとった。
勝負は次の一閃で決まる——【一触即発】の空気がジリジリと場を支配した、その時。
外野に不快なノイズが混じる。
『へへへ……やっぱりいたぞ! こないだの生意気なガキどもだ!』
『マーキングしておいて正解だったなぁ!それに丁度いい場所だぁ』
広場の木陰から、ドタバタと空気を読まず汚い足音を響かせて現れたのは——先日、街の路地裏で追い詰めてきたあの【下衆極まる変態男たち】であった!
執念深く私たちの村まで足取りを追ってきたのだろう。
手には鈍く光るナイフとロープを握りしめている。
『な、なにあいつら!?』
『な、なにアイツら……』
声をそろえるステフとアガー。
勝負のクライマックスを無神経にぶち壊された私の脳内で、何かがブチリと弾け飛んだ。
(……おい、いいところで何のつもりだ……)
ふと横を見ると、ミックスもまた、氷のように冷たい無表情のまま、握りしめた木切れをギリリと力任せに絞り上げていた。
静かに、しかし沸点突破で激怒している。
『ルーシー……後回し』
『同意だ、ミックス。聖なる果し合いに水をさした愚者どもに、【言語道断】の制裁を下す!』
私たちは示し合わせたかのように同時に地を蹴った!
『へッ? ガキが突っ込んで——』
『遅いッ!!』
ターゲットはナイフを持った先頭の男。
私は三節棍の節をスルスルと最長まで伸ばし、男の視界に穂先をぴったりと重ねた。
(槍術の奥義——距離感の隠蔽!)
『えっ、間合い——!?』
そして男が距離感を錯覚した瞬間、三節棍の節を魔力で弾くように可動させ、男の顎へしならせた先端を叩き込む!
『ガツンッ!』
『ぶふぇっ!?』
衝撃で男が脳揺れを起こして沈む! そこへ——
『ドカッ!!』
すささっと男の懐へ潜り込んだミックスが、パルクールで培った体幹の捻りを乗せた必殺の正拳突きを、男のみぞおちへ叩き込んだ!
『ガハッ……!?』
間髪入れず、二人目の男が襲いかかる。
『このガキどもがぁぁ!』
『ミックス、跳べ!』
『ん!』
すくい上げるように足元へ振り抜いた私の三節棍をさらに踏み台にして、ミックスが男の背丈より高く跳躍! 空中と地上からの【縦横無尽】の連携コンボへ移行する。
太陽を背に受けて二人で回転し、三節棍の追撃で男の意識を上へ誘導した瞬間
『う、眩しぃ!!』
男がひるんだそこへ。
空中から遠心力を極限まで乗せたミックスの回転かかと落としが、二人目の男の脳天を正確に撃ち抜いた!
『ドゴォン!!』
『ひぐぇぇっ!?』
残された三人目の男は、地面に転がる仲間二人と、着地して静かに構え直す【平均年齢5歳】の怪物幼子二人を見比べ、顔を真っ青にさせた。
『ええい! この村の子供は化け物か!?』
男は悲鳴を上げながら、脱兎のごとく村の外へ逃げ去っていった。
『……ふぅ。野暮な乱入者だったな』
三節棍を肩に担ぎ、息を整える。
横を見ると、ミックスが自分の小さな服についた土をぽんぽんと払い、いつもの無表情で私を見つめていた。
そして、すっと小さな握りこぶしを差し出してくる。
(……フフ、好戦的なやつだな。)
私もニヤリと笑い、自分の拳を彼女の拳へ『コツン』と突き当てた。
『おいおい……ルーシーもミックスも、凄すぎて俺たち置いてけぼりじゃねえか……』
呆然と立ち尽くすアガーとステフの声を背に受けながら、私は密かに確信していた。
言葉はなくとも、戦いの中で深まる絆。
パルクールと格闘術、そして三節棍の連携——私とミックスのコンビネーションは、もはや大人程度では束になっても敵わない域へと達しつつあった。
(フフフ……良い経験値稼ぎになった。だけどミックス、私たちの決着は……楽しみはまた次回にお預けかな。)
夕暮れの広場で、私達は破顔して高らかに笑い声をあげるのだった。
てなわけで、手紙を初めて受け取った。雰囲気と久しぶりにバトルシーンをちょこっと入れつつ
赤いリーダー格が言いそうなセリフを入れてみました。
どうにょ・・・ろ?




