3.その子の名は 9 ルーシー
2歳を過ぎたところになります
ご近所ではいったいどんな子に育ったのかっていうくだりです
月日は流れ、私が生まれ落ちてから2歳を過ぎた頃。
生まれ育った村は、どこを見渡しても風が吹けば崩れそうな土壁と、色あせた藁葺き屋根が身を寄せ合う貧しい集落。その中央にある土の広場では、今日も子どもたちの歓声が響いていた。
近所に住む3つ上の少女ステフと、同齢の少年アガーが、拾ってきた木切れを手にチャンバラごっこに興じている。
『へいへい! アガー、動きが甘いよ!』
『くそっ、ステフ、待てよ!』
ステフは3歳上ということもあり、この年代にしては体格が大きく素早い。対するアガーは必死に食らいついているものの、完全にステフの手のひらの上で転がされていた。
無邪気に枝を振り回す姿を、私と1つ年上の少女ミックスは木陰から高みの見物……とするつもりだった。
(……くっ、いかん身体が……血が騒ぐ……!)
だが、身体に刻まれた男の子の本能——いや、私の奥底に眠る武術の習性がウズウズと激しく疼き出していた。戦いの理だけは魂に焼き付いて離れない。
心をざわざわさせながら
ふと足元を見れば、彼らが拾い集めた数本の硬質で無骨な木切れ。
そして少し離れた大樹の枝には、かつて童らの揺籃やブランコを支え、時の摩耗によって擦り切れて落ちた麻縄の残骸が転がっていた。
私は幼い手足でそれを手繰り寄せた。指先はまだおぼつかないが、結び目の補強や構造の組み上げは、頭で考えるより先に魂が覚えていた。ぎこちなくも手際よく、木切れと麻縄を固く繋ぎ合わせていく。
――完成だ。即席の武具、【三節棍】!
節(関節)瞬時に固定・解除することで、変幻自在の軌道を描く特殊な長物だ。
『ねえ。私も混ぜてよ』
私がぽつりと声をかけると、ふたりの動きが止まった。
『えっ、ルーシー? まだ小さいのに大丈夫ー?』
【ルーシー】というのは私のあだ名である。
本来の名である【ルシファル】は幼子には長くて呼びづらいらしく、近所の子どもたちが勝手にそう名付けたのだ。
アガーが打ち合いにすらならないのではないかと、心配そうに眉をひそめて声をかけてくる。優しい奴だ。
半面、ニヤリと不敵な笑みを浮かべたのはステフだった。
私の手に握られた、棒切れを紐で縛っただけの不揃いな物体を見下ろし、『棒にひもを絡ませてるだけでかわいくもない武器ね』と言わんばかりの態度をとっている。
ステフは躊躇なく、大振りな上段の構えをとった。
(……っぬ、上段に構えた分、ただでさえ大きい身体がさらに巨大に見えるな)
まだ幼い私の視界からは、見上げるような圧倒的圧迫感。
だが、心に恐れはない。
距離が縮まり、両者の間合いは【一触即発】の領域へと突入する。
普通なら逃げ出すか、怯んで攻撃を喰らうかの二択。
しかし、私の辞書に逃走の二文字はない。
『えーいっ!』
気合いとともに振り下ろされるステフの木切れ。
私は落ち着き払って三節棍の節を合わせ、最小限の軌道で、ステフの木切れの根元へ【バチン!】と合わせた。
理由もわからず脳裏に閃いた極意――【直前ガード(ジャストガード)】である!
『えっ……手首が、重っ!?』
妙な武器だと高をくくり、気を抜いていたステフの顔が驚愕に染まる。
攻撃のエネルギーを完璧に受け流され、反動を直接手首に受けたステフの身体は、【フレーム不利】を起こしてその場にピタリと固まった。
完璧な硬直【スキ】。
無防備な背中が目の前に晒される。
私は手の中で三節棍の柄をスルスルと滑らせ、瞬時に間合いを変化させた。
遠心力を乗せ、三節棍の先端をしならせると、ステフのお尻へ【ポンッ】と鋭い一撃を叩き込んだ。
『あだっ!?』
ステフは悲鳴を上げてその場にしゃがみ込んだ。
よし、まずは一人。
うまく技が決まったことに胸の中で小さくガッツポーズを決める。
だが、感心している暇はない。次は男のアガーだ。
『ちゅぎは、アガーくんだね!』
舌足らずな発語になってしまったが、戦意は十分。
間髪入れず、アガーが全速力で突進してきた。
横なぎの鋭い一撃が私を襲う。
私は反射的に三節棍を持ち上げ、アガーの攻撃を受け止めようとした。
しかし——
『プチッ!』
鈍い手ごたえとともに、急造の麻紐があっけなくちぎれ飛んだ。
(んなっ……!?)
三節棍はあっという間に、ただの【二節棍】へと成り下がってしまった。
まずい。麻紐の耐久度計算を見誤った!
節がひとつ減ったことで、間合いの計算が狂う。
このまま次の突進を受け止めようとすれば、リーチの差でこちらのガードが一歩遅れ、体勢を崩されるのは目に見えている。
(……フッ、ならばこのピンチ、格好の【罠】として利用させてもらうまで……!)
私は瞬時に思考を切り替えた。
反撃さえ決まれば、逆転の必中の一撃を繰り出せるはずだ。
私は二節棍となった棒を縦一文字に構え、腕をぐっと前方へ突き出すように伸ばして、アガーの接近に備えた。
(こうして【隙】を晒せば、ここを狙ってくるはず……!)
案の定、アガーは棒が壊れたのを見て【勝てる!】とばかりに、したり顔で同じように横なぎの振りを叩き込んできた。
アガーの木切れが、二節棍の関節部【残った麻紐の箇所】に接触する——その瞬間!
私はわざと伸ばしていた腕をぐっと手前に引き、攻撃の勢いを殺さずに滑らせるように利用した。
そのまま体幹の軸をブレさせることなく、ふわりと上にジャンプ!
空中へと身を躍らせた私は、くるりと身体を慣れた横回転で、二節棍の遠心力を極限まで高めた。
ターゲットは完璧に捕捉している。
【百発百中】の精度で繰り出される、完璧な【確定反撃(確反)】!
『パパンッ!』
空中からの回転打撃がアガーの肩と脇腹を的確に打ち抜いた。
『うわぁっ!?』
地表に着地した私の前で、アガーは勢い余って土煙を上げながら転がり、ステフの隣でひっくり返った。
年上のふたりは、何が起きたかも分からないといった様子で地べたにひれ伏し、目を白黒させている。
『ふぅ……』
私は息を吐き、手に残った壊れかけの木切れを見つめた。
麻紐の強度不足という課題は残ったものの、間合いの誘導と空中回転打撃の理論は正しかったことが証明された。
ふと視線を感じて振り返ると、少し離れた木の根元で、ミックスが佇んでいた。
彼女は驚くでもなく、歓声をあげるでもなく、ただその光景を静かに、じっと見つめていた。その瞳には、幼い少女とは思えぬ不思議な観察眼が宿っているよう。
夕暮れ時の小さな広場で、2歳の私の小さな胸は、未来の切磋琢磨への期待で静かに躍っていた。
はい、御覧の通り成長させすぎました。
ルーシーは強く育てますよ~~。
それでも身長的には85cmVS105cmの想定です。
っえ?身長じゃなくて言葉?とか歩く?ましてやジャンプ?
戦闘センスなどは魂に宿るのです!
なるほど、次は細かい年齢を入れるの控えます




