3.その子の名は 5 大好きなのは回転といちご
赤ちゃんパートまだまだ続きます
お付き合いください。
120日目を過ぎた頃、私の肉体は目覚ましい進化を遂げた。
――【寝返り】の習得である。
体を捻り、重心と遠心力を利用して回転する。最初は頭の重さが仇となり揺りかごのようにブラブラしたり、頭を床に打つという手痛い失敗を重ねていたが、666回目の挑戦でついに糸口を見つけることに成功し、私は満足げに微笑んだ。
(勝った……! 私はついに、自力で移動する術を得たぞ!)
調子に乗った私は、寝返りを連続させれば遠心力によってさらに加速できることに気が付いた。そして、部屋の端から端へと移動する『ローリング移動』を開発。土ボコリを上げながら床の上をゴロゴロと音を立てて高速回転する私を見かけ、母親が声を荒げた。
『きゃー! ちょっと目を離した隙に壁まで行ってる!?』
フフッ、驚くがいい! これが第一段階の機動力だ!
……のはずだが、なんだか世界がやたらと回って見える。
(ああ、世界とは……こんなにも回るものだったのか……)
赤ん坊の弱小な三半規管が限界を迎えたらしく、その場にパタリと倒れ込んだ。床は冷たく、少しばかり埃っぽい匂いがした。
すぐさま、母親が慌てた様子で駆け寄ってくる。誰かにそんな心配そうな顔を向けられるのは、随分と久しぶりな気がした。
『大丈夫!? 回りすぎて酔っちゃったの!?』
(っぬ……心配するでない、これは一時的な三半規管の過負荷d……げぷっ)
敗北感と眩暈に苛まれながらも、私の肉体は着実に成長を続けていった。
そして180日を迎える頃、ついに【離乳食】という新たな扉が開かれた。
ドロドロにすり潰された野菜粥。見た目は微妙だが、これも身体に栄養を蓄えるためのトレーニングとするべし。私が無心で口に運ばれるものを咀嚼していると、ついに【奴】が現れた。
すり潰され、原形はわからないが、ほんのりと甘い香りを漂わせた赤い果実――。
似た話では芳醇な香りで誘い寄せた生き物をぱくりと食べる赤い植物といえば、食虫植物だ。あの赤い見た目でなんと恐ろしいことか。確か大きくなれば食人植物と化し、家畜すら丸呑みにすると聞く。……そんな恐ろしい奴の胃袋を思い浮かべ、身震いする。
――だが、私の鼻と空腹は素直だった。グゥ〜とお腹が鳴る。
(──ゴクリッ! いや待つのだ、だからこれはブラフだ)
私に【食べてはいけないもの】を教えようとする罠ではないか? あえて目の前に甘い匂いでおいしそうなものを置き、【実は食べてはいけないものでした~っ!】という展開。なんでも口にしてはいけませんよ~っと言う躾だな。読めたぞ。どこからか父親が、大きな文字で【どっきり大成功】と書かれた木の看板を掲げながら登場する、あれだ!
(どこだ……どこに潜んでいる……!?)
周囲を警戒していると、母親が嬉しそうにスプーンですくってこちらに運んできた。
口を真一文字に結び、そんな母親を疑いの眼差しで見つめる私に対し、なんとそれを自分の口に入れて食べて見せたのだ。
毒の成分でも入っていそうな、ドロリとしたそれを、なんとも美味しそうに食べるではないか。
(――なるほど。あれほど美味しそうに食すということは……っぬ、【毒も少量なら薬となる】という言葉があるくらいだ。相応の豊富な栄養が含まれているに違いない……!)
恐る恐る口を半開きにすると、その隙を見逃さずスプーンが滑り込んできた。
その瞬間、私の脳内に電撃が走った。
(な……なんだこの甘酸っぱさは……!? 頬が蕩ける〜♪ ……いや待て、もしやこれに、あの【ミルク】を合わせたらどのような相乗効果が生まれるのだ……!?)
未知なる美食の可能性に、思わず身体が停止した。
『あ、いちご好き? もう一口食べる?』
母親は私の好感触に満足し、次々とスプーンですくって差し出してくる。
我に返った私は無言で、、必死に口を開けスプーンを催促する。
プライドなど捨てた。
(いちごだ。いちごを寄こせ――ッ!!)
ギャグありなので、どこまでぶっ飛ばすか悩みながら書き込んでいます。本格バトルシーンはまだ先になりそうです~




