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歓喜の復讐

 そのアパートにはインターホンがない。 と、なるとドアをノックするだけだ。

 こんな聖夜の夜に訪問なんてサンタクロースでもあるまいし。

 何なら窓から入ってみるか?


 そんな事を考えていると、ノックに反応する声が部屋の中から聞こえる。


 男の声だ。 父親だ。


「はい、どなた?」


 ゆっくりとドアが開いて父親の姿が明らかになる。

 グレーのスウェット上下、髪も顎髭もボサボサ。 ロマンチックが台無し、色気も何もない。


「こんばんは」


「……え?」


 どうしてここに、そういう顔をしている。

 僕がここの場所を知っていたとしても、来た事はないはずだと思っているのだ。

 一度も顔を見せた事はないのだから。


 家の方にも年に数回程度のみの帰宅だけで、ほとんど電話での会話ばかりだ。


 だから自分の息子が目の前にいる事実を受け入れられないようだ。

 ドアノブを手にしたまま、固まっている。

 ドアを開けた瞬間は完全に我が家の団らんを邪魔するな、と言わんばかりの応対だったのに。


 もしかしたら父親の呼吸も止まったかもしれない。 いや、止まってしまえばいいのに。


「お前ら……」


 父親がやっと絞り出すように言う。


「久しぶりね」


 そう、僕一人ではない。 今回は母親も連れて来た。

 それだけではない、弁護士も一緒なのだ。


「入っていいよね」


 僕達をドアの外に押し出そうとする父親の身体を押し返して、中へと入り込む。


 すると、そこには突然の訪問者に困惑する若い女の姿。

 こちらは一応、それなりにお洒落な部屋着を着ている。 だが、この女がどんな態度を取ろうと関係ない。

 問題なのはこの父親の方だから。


 そして、その後の結論を言おう。

 母親は離婚の同意を要求した。

 そもそも父親は浮気しまくりながら、独身を騙っていたのだから一切の拒否権はない。


 女は泣き出した。

 独身と信じていたからこそ同棲し、いつか幸せを夢見ていたのだから。

 だが、そんな事には興味ない。 知った事か。

 気付かなかったアンタが悪い。

 他人の家庭を壊した事実に変わりないのだから。


 そして二人にとって、さらに衝撃の事実。

 僕は父親と女の会社それぞれにあらかじめ今回の件を報告しておいた。

 その結果、父親については年明けに無職となる予定。 女の方は転勤か、或いは降格といったところだろうか。

 だが、この部屋は退去になるはず。

 今まで散々騙して来たのだ。 今後二人がどうなろうと僕達には何も関係ない。

 これくらいしなければ気が済まないというものだ。


 そしてここからが肝心。


「私、再婚するわ。 相手はこの人よ」


「は?」


 実はこの弁護士、僕の同級生の元彼女の父親だ。 そう、あの時の彼女だ。


 母親は僕の紹介で、この弁護士に相談する内に互いの気持ちがその方向に向かったようだ。


「良かったわ、貴方が離婚に同意してくれて。 おかげでやっと再婚できるもの」


 馬鹿だね、父親。


「だ、だが! この男だって独身ではないだろう」


「あら、彼も離婚してるのよ」


 そして、僕からも言わなければならない。


「金はいらないよ。 これから無職で大変だろうしね」


 本当はそんなの貰わなくても、自分で稼げるから必要ないのだ。


 これから、父親はどう生きるだろうか。

 まぁ、せいぜい好きなだけ女を作って生きればいいさ。



 ☆ ☆ ☆



 復讐した相手にはその後、様々な不幸が待ち受ける事になったようだ。


 まず一人目の男。

 あいつの取り巻きの父親達は、会社での横領をネタに脅されていたらしい。 あいつの父親に。

 それを知ったあいつが、それを利用しないはずがない。

 あいつの父親によって、横領は表に出ていないのだから。


 そして、あいつ自身がどうなったかというと……。

 そもそも稼ぐ能力ゼロに植え付けたのだ。 返せるはずがない。

 そうなると、どうなるか?

 想像する必要もないし、興味もない。


 三人目の、あの教師はどこかでひっそりと生きているだろう。

 もう二度と教師に戻る事はないはずだが、これも興味ない。


 僕が興味あるとしたら、これからの未来を生きる僕に必要な人達の事だ。

 僕に不必要な人達はどうでもいい。 復讐は完了したと思っているから。


 だから元彼女と、あの彼が再び付き合い出したのは本当に嬉しかった。

 新たな家族としても、喜ばしい事だ。


 母親も新たな夫と仲良く過ごしている。

 もちろん、僕達子供とも。


 だが考えてみれば、あいつらには感謝しなければいけないだろう。

 僕に復讐する機会を与えてくれて。



 ☆ ☆ ☆



 僕の部屋の引き出しの中にはビデオカメラが数台、役目を終えて休んでいる。


 僕が稼いだ金で買い、父親のアパートの部屋に仕掛けたものだ。

 部屋の隅の各所に置いていたのだが、結局最後まで一度も見付からなかった。


 まぁ、このカメラの録画のおかげで全てが明るみに出たのだからよく頑張った。


「楽しかったな、復讐」

これにて完結です。

番外編はできるかどうか、まだわからない……。


評価等、お待ちしています。

よろしくお願いします。

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