番外編
人によって味覚は違う。
砂糖の甘さが好きな奴、唐辛子の辛みが好きな奴、ゴーヤの苦味が好きな奴、ツンとする山葵が嫌いな奴、生クリームが嫌いな奴……。
そして何を蜜と感じるかも人それぞれだ。
僕の場合はそれが復讐だった。
あいつらは皆、それぞれで勝手に堕ちて行った。 僕はその為の、ほんの少しのきっかけを与えただけ。
僕のした事を誰かが知れば、きっとこう言うだろう。
『復讐なんて実にならないことはやめておけ』
『そんな事をしても何にもならないぞ』
『間違った事はするな』
それが一般的な常識論だろう。
だが、それがどうした。 くだらない。
僕にとっては正しくもなければ間違ってもいない。 それしか選択肢がなかったのだ。
あれから五年が経ち、僕の視界も生活も百八十度変わった。
大学を卒業後、企業には就職しなかった。
高校時代に貯めた金を元手に大学在学中、仲間達と数人で小さな事務所を借りて会社を立ち上げた。
元々、仲間達とはそんな事ができたらいいね、と将来を語り合っていたので、実現への一歩を踏み出せた時は喜びでいっぱいだった。
仕事は厳しさと楽しさと戸惑いと、それでも時には大学で勉強するより有意義な時間で。
当然、仲間達も卒業後は会社の一員だ。
確かにリスクを伴うし、仲間達を巻き込んで大失敗の恐れはあったが、チャレンジしてみたいと思ったから後悔はない。
そして卒業から一年経過の本格始動の今、これから発展途上の会社。 時に喧嘩や仲間割れをしながら、頑張る日々だ。
後押しをしてくれているのは、母親の再婚相手である義父の存在。
義父には面倒を掛けてばかりだ。
父親の件では知っていて被ってくれた。責任と罪と。
父親達の会社に行った時、義父はただその場に居ただけで何もしてはいない。
ああいう人間達は、その場に義父のような人間がいるだけで存在感が強烈に意識の中に残る。だからこそ、だ。
そもそも正当性のある復讐なんて存在しない。多くは間違ったやり方だ。
僕のそれも汚い方法だった、父親の部屋にカメラを仕掛けて録画して。
ただ、それを使って義父の力で何とかしようとしても無理な話だから手出しは無しで存在してくれるだけでじゅうぶん効果的だった。
女は言ったらしい。
自分は知らなかった、男に騙されたのだ、と。
だが、会社側は女の言葉を一切信用しなかった。
それは当然だ。 僕と母親は、女が言うであろう会社への言い訳とは真逆の話を訴えたからだ。
会社側は義父の存在にすっかり騙され、僕達の話を信じた。
だからどれだけ女が自分の正当性を訴えたとしても後の祭りだ。
そもそも本人達以外、誰もその関係を知らなかったのだ。 信じるわけがない。
それほど、僕の復讐心は強かったという事だ。
そして未だに誰も、僕達の話を疑う者はいない。
僕はもしかしたら俳優にでもなれるのでは、と内心では思ったりしないでもない。
義父もある意味、悪徳弁護士になれるかもしれないが。
ここで、その後のあいつらを記しておこう。
二番目のあの女。
悪あがきというか、逞しいというか。 なんとタレントになったらしい。
あれだけの事件を起こしておいて、ふてぶてしさが際立つ。
転んでもただでは起きないとはああいう女を言うのかもしれない。
父親からはたまに思い出したように連絡が来る。 母親ではなく、僕に。
だが僕は今でも覚えている、父親が言った事。
自分には子供はいない、と言ったのだ。 あの女にも他の女にも。
独身だと偽っていたのだから無理もないが、それでもだ。
『もし俺に子供がいたら息子だけは欲しくない。 つまらない』
その言葉が僕を駆り立てたのかもしれない。
そして家族となった元彼女は、あの彼と大学卒業を前に別れてしまった。
別に、どちらかが浮気をしたとかそんな話ではない。
ただ僕としては申し訳なさでいっぱいだ。
二人が別れる事になった原因がどうやら僕にあるらしいのだから。
彼は僕と彼女の関係を疑ったのだ。 血の繋がらない家族とはいえ、あまりに仲が良すぎる、と。
だから実は何かあるのではないかと疑うようになったらしい。
彼女がどれだけ説明しても、彼の一度感じた疑惑が消え去る事はなく、最終的にはすれ違いからそうなってしまったようだ。
僕はただ家族として仲良くしたかっただけなのに。 人生も人間も、なかなかうまくいかない。
まぁ、だからおもしろいのかもしれないが。
もしもまた復讐する機会があったら、するだろうか?
それはわからないが、できるだけしたくない。
ただ、どうしてもしなければならなくなったら、やはりするだろう。
人間はいつでも蜜を欲しがる生き物だから。
お読み頂き、ありがとうございました。
ここで完結となります。
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