二人目
登場人物名は一切出て来ません。
計画を立てた当初、まだ金額は大した額ではなかった。
互いに高校生だからという意識もあったのだろう。
ところが二年に進級して僕がアルバイトを始めたと知ると、徐々に変わってきた。
人間はその昔、風呂がなかった時代には川で身体をザブザブ洗う程度だったはずだ。 春も夏も。
ところが長い年月の中で生活も進化し、桶に水を溜める発想を思いついた。
そして冬でも身体を洗いたい欲から大きな湯船に火を炊いて温めるという発想に発展したはずだ。
それが時代と共に変化し、それぞれの家で当たり前のように苦もなく、湯を張る事ができるようになったのだ。
便利さがすっかり身についた人間が不便な生活を強いられたら、どうなるだろうか。
受け入れるだろうか? それとも拒否して、なんとしてでも便利さを手に入れようとするだろうか?
僕は後者だと思っている。
便利さは武器だ、凶器だ。
一度、甘い密を吸い、その味を覚えたら手離さずにはいられない。
だから、あいつもそうなのだと思った。
僕がアルバイトで金を手に入れると、今までよりさらに要求する額が増えていったのだから。
普通なら殆どの人間が渡したくなくて、拒否するだろう。
だが、僕は喜んで渡した。 額ももちろん増やす事に同意して。
それは何故か? あいつを破滅させるためだ。
ただ、この一年は本当にきつかった。
アルバイトの金はそっくりそのまま消えていったのだから。
それでも僕が平気でいられたのは、もう一つの隠されたアルバイトのおかげだ。
その金額はあいつに渡す為の、表のアルバイトとは比較にならない。
そして三年に進級してからは渡す額をさらに増やした。
貸せと言われたら、とりあえず恐怖に歪む顔をして恐々渡すのだ。
もちろん、渡した額を毎回ノートに書き込む作業は忘れない。
実は渡す額を増やしたのは僕の提案だ。
あいつを唆したのだ。
『最近、使う額増えてない? 僕、あまり持ってないよ。 勉強もしないといけないし……』
すると、あいつは言った。
『お前は黙って寄越せばいいんだ。 逆らうならもっと寄越せ』
キレやすいあいつは僕が逆らえば、さらに額を増やすとわかっていたから。
あいつは本当に馬鹿だ。
楽に金が入るのだから、わざわざアルバイトして他人に頭を下げるなんて馬鹿馬鹿しいと思っているのだ。
この調子が卒業時まで続く事になるなんて、やはり僕の思った通りの馬鹿な男だった。
☆ ☆ ☆
僕には嫌いな女がいる。
実は一年の時に告白された事がある。
別に、その女とつき合ったわけではない。
そいつとは正反対で、ごく普通の、真面目で素朴な可愛さを持つ女の子。
男女がつき合えば、当然ながら身体の関係も発生する。
そして彼女の部屋に誘われ、事に及ぼうとしたところで突然泣き出された。
僕がどうしたのか問うと、彼女は小さな声で言った。
『貴方に告白するように言われたの。 言う通りにしないと男達に言って私を襲うって……』
僕は腹が立った。 いや、彼女にではない。
彼女にこんな嫌な思いをさせたあの女に、だ。
言う事を聞かないと襲われるかもしれないという恐怖が頭をよぎれば、女の子なら誰でもそうするしかない。
僕はとりあえず、その場は話だけで時間を過ごした。
家に帰り、その日の夜中に腹立たしさから考えた。
どうして彼女に嫌な思いをさせるのか、どうしてそれが僕だったのか。
おそらく、あの女にいじめられているのだろう。
これが彼女に関係ない僕だけの事ならいいが、そうもいかない。
そこで思いついた。
あの女の目的と弱味を握ろう、と。
それからというもの、形だけではあったが彼女とつき合った。
もちろん、身体の関係は一切ない。
ただ、僕があの女にいじめられているわけではないので、彼女の心情を想像すると時間は掛けられなかった。
だから念入りに、早急に調べたのだ。
わかったのは、あの女の底意地の悪さと執着心から来る、逆恨みだった。
そして決まった。
僕の復讐相手、二人目に。
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