31 コーポ川沿のツァラトゥストラ
「そういえば創汰は何を悪だと思ったの?」
陽奈に訊ねられ、創汰は首を捻る。
――何だったけかな。
当初倒すべき悪に設定したのは、少なくとも魔王や虫ではなかったはずだった。
「長谷川ー!」と後ろから声をかけられ、創汰は思い出す。
「そんな隅っこにいないでこっち混ざれよ!」
リア充の輪の中心で、手招きする晴人がいた。
「光城さんまで一緒になっちゃ駄目じゃん!」とスズメに突っ込まれ陽奈は頭を掻いている。陽奈はそもそも創汰を呼びに来たらしかった。
創汰は悪を考える。
――清掃部晴人が悪だという判断は間違っていない。
あり得ないことではあるが、晴人は本当はいい奴だったなどと考えを改めることになれば、これまでの長谷川創汰が全て否定されることになる。晴人は本来クラスの中心にいるべき魅力を備えていたにもかかわらず、単に自分がねたんだりそねんだりして、それを認めようとしていなかっただけという結論が導かれることになる。
――ないない。
創汰は失笑して、首を振る。
だけど。
評価というものを正しくくだせる自分でありたい、とは思う。
ずぶ濡れになりながらスズメを助けに駆けつけたあの日の晴人を、評価できない自分になるべきではないとは思う。非能力者でありながら単身北西高校に乗り込んだ晴人を、認めてやれない自分になるべきではないとは思う。そしてスズメと晴人が並んで笑いあう光景を素直に認められる自分がいるならば、その自分を評価してやるべきなのかもしれないと思う。
「ね、創汰もあっち行こう」
促す陽奈に、創汰は答える。
「俺は、ここでいいよ」
陽奈は呆れる。
「んもう。創汰は本当に意地っ張りねぇ」
――俺がぼっちなのは、だからかもしれない。
「じゃあ、わたしもここでいっか」
――だから、それもありだと思うんだ。




