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マフィンの不思議で不可思議な物語  作者: キョナ
season3 怪物だけの新たな運命
28/30

ようこそ、不思議で不可思議な物語へ。

声は出ない。

それでも息をしている感覚はある。

体は動かない。

それでも筋肉は鈍っていない様だった。


ここは、どこだろう。

私は、誰だろう。

分からない。なにもかも全て。

勿論今の現状だって。


しかし目を開けると私の前には大きな大きな扉があった。

全てを吸い込み、そして全てを吐き出すような不思議な扉だ。

そして、その前には少女が一人その扉に触れながら立っていた。

私が唖然としながら彼女を見つめていると、ようやく彼女は私に気づき何かを言いながら私の元へ歩いてきた。その顔には笑顔が張り付いている。

彼女はそこで私にこう言った。

「不思議ね、貴方と会うのがどうしてか懐かしく感じるわ」

私は首を傾げてこう言った。

「私と、貴方は知り合いなの?」

彼女は淋しそうに首を横に振った。

「いいえ、残念ながら知り合いじゃないわ。でも私は貴方の名前を知ってる」

彼女は微笑んで私に言った。

「だけど私は貴方の名前を貴方に伝えないわ。だから、これからは別の名を名乗りなさい」

「別の名って?」

彼女は考えるそぶりをして私に言う。そう言う彼女の瞳は輝いていた。


「オリガ・レモネードというのはどうかしら」


「オリガ・レモネード?」

「そうよ、貴方の名はこれからオリガ・レモネード。素敵な名前じゃないかしら?」

少女は満足そうに笑ってこう言った。私は反論するように叫ぶ。

「私は本当の名前を名乗りたいの。教えてくれないかしら」

「だめよ、貴方が自分の名前を知った時、貴方は全ての記憶を取り戻してしまうから」

「それの、何が駄目なの?」

彼女は下を向きながらこう言った。

「貴方が本物を知ったら、この物語は終わってしまうから」

「え?」

彼女は私の手を取った。そして顔を近づけてこう言った。

「今から言うことを真剣に聞いてくれないかしら?一度しか言わないわ、いや、時間的に一度しか言えないが正しいかな」

「どういうこと」

「貴方は私の希望なの。もう二度と世界に戻ることのできない私のただ一つの希望。そして正直私だって貴方の存在が分からないんだ。だって、私自身の事だってわからなかったんだもの」

少女はそう言って下を向いた。そこで私は話を切り出した。

「じゃあ私は誰だって言うの?この世に存在するはずのないモノだったり?」

「それは無いでしょう。だって貴方は存在してるもの」

「なら私は何なの?」

私は胸に手を置いて話した。

「私はこの世界の住人じゃあないんだ。もっともっと、遠い世界の住人なんだと思う。でも、私はこの世界に来たからには何かの指名が必ずあると思うんだ。自惚れているのかもしれないけど、私にしか果たすことが出来ない指名が」

「だから、それを私は今から伝えようとしているの。貴方に果たしてほしいの、私が前世でやり残したことを」

「それが私の指名なの?」

「そうなんだと思う。私には貴方が分からない。だからこそ、私の願いを叶えてほしいの」

私は首を傾げて言った。

「それは私に叶えられる物なの?地獄のように過程の辛い指名は嫌よ」

「そんなものじゃないわ。もし効率がよければ終了は瞬きするように一瞬よ。でも、反対に効率が悪ければこれは永遠の時を必要とする。そんな指名」

「分からないわ。だから実際にその指名の内容を教えて。必ず成功させてみせる」

彼女は微笑んで私から離れた。そして後ろで手を組んで私に言った。

その声は、すごく素敵な音色のようだった。


「私の大好きな男の子に、謝ってほしいの」


「その男の子って?」

私がそう聞くと、彼女は淋しそうに首を横に振った。

「分からないの。忘れてしまった。最も忘れてはいけない事だったはずのに私は運命に抗う事が出来なくて忘れてしまったの」

「貴方はこの世界にどうやって来たの?」

彼女は下を向きながらこう言った。

「それだって覚えていないわ。覚えているのは自分の名くらい。折角彼氏の名前を思い出した直後だっていうのに、忘れてしまうなんて私ってやっぱり馬鹿なんだわ」

「そんな事はないわ」

私は震える彼女の手を握り占めてこう言った。必死な瞳で、私は彼女を見つめる。

「運命は、きっと抗えない物なんだと思う。でも、人は抗う。定められし運命にそのまま生きて行くなんて私だって我慢できないわ」

私は手を話さぬまま続ける。

「貴方はそれでも抗った。結果も知らずに、その幸せな未来を求めてただひたすら貴方は光を求めたんでしょう?なら心配することはないわ。きっと、その心が夢を伝って貴方の恋する少年まで届くはずだから」

私は必死に言ったつもりだが、彼女は淋しそうに首を横に振るだけだった。

「それならいいね。でもそんなにも世界は簡易な仕組みに出来ては無いわ」

彼女の言葉は正しかった。勿論記憶のないままはったりの慰めをかける私の言葉と異なって。彼女はまるで私の言うはったりに気づいているようだった。

「ごめんなさい、私。何も知らないのに」

「え、何言ってるの。慰めてくれて嬉しかった。私だってそうやって淡い夢を信じている時だってあったもの。懐かしい時だけどね」

彼女は空を仰いだ。

「その時は幸せだった。夢を追い掛けている間は私は過去の重い鎖を外している気分になれたの」

私がオロオロしていると、彼女は小さく吹き出してこう言った。

「心配しないで、今までずっと幸せだったわ。沢山の友達と、愛する彼氏と一緒にいられる間は空に浮いてる様だった。だから今は退屈ね。虚空の中で私は歩くだけだもの。だから貴方と会えて私はすごく嬉しいの」

「私だって嬉しいよ?だけど貴方のお話は淋しいものだらけ。もっと楽しかったならもっと沢山面白い話をしてくれたらいいのに」

彼女は黙った。そして私は続ける。

「私は今からどこに行くの?」

彼女は私と視線を合わせてこう言った。

「マジカルワールド。又の名を、不思議で不可思議な世界と言うわ」

「不思議で不可思議な世界…?」

「知らないかしら。とにかく、おかしな世界よ。残酷で、人はあらゆる場所で容易に死ぬわ。そして、死んだら次はない、最期の世界よ。しかしこの銀河には、もっともっと素晴らしい世界があるわ。死なない世界。永遠に夢が叶いつづける世界。好きな人と永遠を幸せに過ごす世界。確かにそんな世界は素敵よ。でも、おかしな話かもしれないけど私にとっては簡易に人が死ぬ世界が一番素敵に思えたわ。勿論、今もそう思っている」

私は言葉を失うこともせずただ相槌をうっていた。自分でも何故ここまで冷静で入れるのかが不思議だった。

案外私も目の前の彼女と同じかもしれないと思った。

「心配しないで、私は狂っていないわ。ただ幸福だけじゃ人間はいつかはそれを日常と見なしてしまうでしょう。その幸福を幸福と感じなくなってしまい、結局は新たな幸福を求めるのよ。それこそが、人間の心理。まあ、私が人間を語ること自体が不吉なのだけどね」

私は精一杯首を横に振った。

「たしかに人間はそうだって私も思うわ。でも、永遠に新たな幸福を求め続ける人生も素敵だと私は思う。私は人間が好きよ」

「私だって勿論人間が好き。だから怪物だけの世界を造ろうとする彼に少々不満があったこともあったんだよね。でも、人間と怪物が共存できる世界なんて存在しないって分かってしまったから」

彼女は淋しそうに言った。

「私はずっと怪物と人間が共存できる世界を求めていたの。だから不思議で不可思議な世界で過ごした共存生活は私にとって輝いているものだったわ。人類は燃えないゴミだって教育されていたけど、あの皆は全員優しかった。私が想像していた人類の正反対の存在だったわ」

私と彼女の間を冷たい風が通り過ぎた。彼女はその風に揺られる前髪を片手で抑えながら言った。

「結局、夢は夢だったのよ。想像は想像で、なにも今になろうとしない。本当に不思議よね、現実というものは」

私は頷く。そんな私を見て、彼女は口元に手を当てて言った。

「この世界は不可思議よ。この視界は不思議よ。運命は、矛盾なの。素敵よね、この世界は。なんだか私はその世界にいたと思うだけで誇りに思うわ」

私は笑って言った。

「そこまで覚えているのに、記憶は蘇っていないの?」

「そうね、もし覚えていたら全て話してあげたいわ。私の素敵な彼氏の事や、わたしの大切なお友達の事も」

「すごく聞きたかったわ、その話」

「だけどもう時間ね。貴方は行かなければならないわ」

彼女は淋しそうに言う。それでも私は首を横に振って言った。

「きっとまた会えるわ。その時に、だから今度会うときにはお互い驚くような土産話を出し合いましょう」

そう言う私を彼女は満足そうに見つめると、ドアの元に歩いて行った。

さっきから存在感を消していた巨大な扉だったが、もう一度見るとかなりの違和感を纏っていた。私はその扉について聞く。

「これがその不思議で不可思議な世界に繋がっているのよね?」

彼女は頷いてこう言った。

「出来ることなら、私が戻りたいわ。直接彼に会って、頭を下げたい。でも、その世界は最期の世界だから戻ることは出来ないの。残念ね」

彼女はそれでも笑っていた。

「でも心配いらないわ。私は貴方に思いを授けたもの。貴方が伝えられなかったって構わない。きっとこの愛は彼に届くはずだから」

私は頷いて言った。

「きっとそうよ。自分の心を信じて。その思いは、貴方の彼氏に必ず届くと思うから」

そこで扉は中に溜めていた光を周囲に送りながら開いた。それは幻のように不思議なものだった。


「ようこそ、不思議で不可思議な世界へ。きっと想像するような素敵な出会いが君を待ってる」


そう言う少女は笑っていた。



「オリガ、何も食べないのか?」

気がつくとマフィンが心配するように私に話し掛けてきた。みんなは各々メニューを決めたらしい。

「あ、食べます。…美味しいもの」

「ふふ、オリガちゃんは不思議ちゃんだね。ならマスター、彼女に最も高価なステーキを」

「畏まりました」

私が注文する前に勝手にエクレアという女の子が注文していた。値段をちらりと見ると、そこには一食で家が買えそうな程の値段が書いてあったのでメニューを裏返した。

「もう一度、君達とこうやって食事が出来るなんて夢にも思わなかったよ」

「僕らはずっとこの日々を求めて旅をしていたからね。夢には思ったことがあるよ」

「それにしても、オリガちゃんは本当に不思議ちゃんだよね。今日出会ったばっかりの少年少女について来るなんてね」

私は首を横に振った。

「不思議ではないですよ。それにオリガで構いませんエクレアさん」

「なら私もエクレアでいいよ」

「で、オリガたん。オリガたんは運命を信じるか?」

ふざけた呼び方をするセリヤを少し睨みながら返事を返した。

「運命…ですか?あまり信じた覚えは無いですが」

「俺は信じるんだ」

セリヤは真面目な瞳で私を見つめた。私は唾を飲み込む。

「運命は、残酷さ。だけど残酷だからこそ僕は運命を信じるんだ。君と会えたこともきっと運命で、僕がこいつを探していた事もきっと運命なんだと思うんだ」

「運命って素敵なものですね」

「ああ、僕は残酷ならではの美しさが存在すると思うよ」

エクレアがその言葉に深く頷いた。セリヤはそんなエクレアを笑って見つめながら言う。

「俺達は残酷な運命を睨みながら生きてきた。時には運命の波に乗り、ある時には俺達を沈まそうとする波に手足を動かして足掻いたさ。そうやって、俺は今ここにいる。俺らはここに立っているんだ」

「オリガ、貴方と会えたことを私は幸せに思うよ。これから、一緒に頑張っていこうね。それがセリヤの言う運命というものだから」

私は頷いてこう言った。

「私こそ、皆さんと会えたことを光栄に思います。私には、しなければならないことがあるんです。それを思い出すために、皆と一緒にいたい。ただ、そう思います」

「つまり俺達は利用されているということだね。君に」

「そ、そんな訳で言ったのではありません。逆に私を御自由に利用なさってください」

セリヤはそう言う私に笑って言った。

「なら俺の欲求不満を満たしてもらおうかな。いいだろ?自由に使っても」

私は顔を真っ赤にしながら下を向いた。するとすぐ前でマフィンがセリヤの頭を強めに殴る音がした。セリヤの笑い声がレストラン中に響き渡る。

「今日あったばかりの少女にセクハラ発言は止めろ、セリヤ」

「いや、少しからかっただけじゃないか。それにしても反応かっこ笑」

(笑)まで丁寧に発言したセリヤにエクレアは鋭い視線を向けながら言った。

「最低ね、セリヤ」

「おいおいなんか俺のジョークを笑い飛ばしてくれない雰囲気に成ってね?こういうの苦手なんだけど」

「なら言うなよ!」

そう言うマフィンの服装は真っ白なホストスーツだった。この店はあまりに高級過ぎるせいか男性はスーツ、女性はドレスでしか入場出来ないようで、男性陣は容易に着替えた様だったが、私は少し厳しかった。その理由を話すと少し長くなるのだが、いわばエクレアと私の胸のサイズが合わず身長は大丈夫ながら苦労したのだ。

その後ようやく見つけて来てくれた水色のドレスを見に纏い、四人でこの空間に来ることになった。

「エクレアは相変わらず白いドレスが似合っているね。まるで美麗な白鳥の様」

「まあ、マフィンったらお上手ね。だけどこのドレスは今まで一度着たことがあるわ。私はこのドレスがお気に入りなの」

「マフィン、私は?」

私は思い切ってエクレアを褒めたたえるマフィンの前に顔を近づけた。マフィンは素敵な笑みを浮かべてこう言った。

「可愛いよ、やはりドレス姿は肌白さが一層美しく輝く」

「…そう」

なんだかマフィンにそう言われると私の体が暖かくなったように感じた。それは私にとって不思議な感覚だった。

「あら、やっぱりオリガはマフィンに一目惚れかしら?」

「ち、違う!馬鹿にしないで」

「まあ、マフィンは怪物の男の子の中でもかなり人間に近い性格を持っているから人間が好意を持ってもさぞかし間違いでも無いわね」

「だから、違うって!」

私が必死に首を横に振ると、ようやくエクレアは諦めたように笑った。そんな時頬を膨らませる私にセリヤが深刻そうに声をかけた。

「オリガ、もう一度聞こう。君のような素敵な存在が俺達の元に来るなんてまだ信じられないんだ。もし、無理しているなら今言ってくれ。殺しなんてしないさ、お前はいい奴だからな。でも、だからこそお前を救ってあげたいんだよ。ここから先はこんな今日のように愉快な日々じゃない。いつ俺達の体に穴が空くなんか分からない。いつ俺達の皮膚が剥がれ落ち、いつ俺達の息の根が止まるか分からないんだぞ」

私は彼が心配してくれているのが嬉しかったが、それでも首を横に振った。

「大丈夫です。もしここで貴方達を裏切り、一人で平穏な日々を過ごしたとしても続くのは価値のない人生に過ぎません。私は果たしたいのです、親友の約束を守るために、私はどんな苦難も乗り越えて見せます」

セリヤは私の言葉を聞いて頭を抱えた。それでもその表情は笑っているようだった。

「なかなか面白い奴がいるじゃねえか、この世界にも。まだまだ人生、捨てたもんじゃないな」

「では、改めてよろしくね、オリガ。私達はナイトに過ぎないけど、ナイトは戦場を支配するのに必要な駒でしょう?貴方の存在が何かは分からない。貴方の駒が何かなんて分からないわ。でも、貴方の役割はここで私から伝えさせて。貴方の使命は、私達を導くこと。怪物はすぐに暴走するわ。私は怪物じゃあ無いけど、力に埋もれて暴走することがある。貴方はそれを防いでほしいの。私達には出来ない、大切な使命ね」

私が頷くと、エクレアは嬉しそうに微笑んだ。それと同時に私達の元にグラスが届く。中には透き通った紫色の液体が満タンの半分くらい入れられていた。

「…ゴブリッチェ」

マフィンが懐かしそうに声を上げた。エクレアは小さく頷いた。

「あの時と、同じ飲み物ね。セリヤが勝手に攻めてきた、あの時と」

「あれは悪かったと思ってるよ。ところでまたこの飲み物かよ、飽きて来てしまうじゃねえか」

私はエクレアに聞いた。

「これ、どんな飲み物なのですか」

エクレアはグラスを回しながら呟いた。

「未成年でも飲めるアルコールね。オリガはお酒は大丈夫かしら?」

「はい、一応大丈夫ですよ」

「なら弱いのはエクレアだけ、ということになるね」

セリヤはそう言って大袈裟に笑った。そんなセリヤの頬をエクレアが抓る。

「私だってすぐに強くなるよ、きっと。強くなってみせる」

エクレアはそう言ってグラスに口をつけて流し込んだ。私達が微笑みながらエクレアを見つめていると、エクレアは突如目をうとうとさせ始めた。

「どした?」

「なにこれ…急に眠気が…」

エクレアはそのまま顔を机に押し付けて眠ってしまった。マフィンとセリヤは何かしらの異常に気づいた様で辺りを見渡す。そしてセリヤが小さな声で呟いた。

「もう、来てるみたいだな」

「そうだね、僕らのこの飲み物にもきっと睡眠薬が入れられているんだろうね」

マフィンはそう言って私を向いた。その瞳には先程までとは異なった真剣さが感じられた。

「僕が囮になるよ、君達は一目散にここから東に向かって走り出してくれ。いいかな?」

私とセリヤは頷いて、立ち上がった。そこで周囲には私達を向く視線がいくつもあるということが私にも分かった。

「折角だから、オリガは見ていたほうがいいんじゃないのか?怪物という存在の残酷さを知っていた方がいい」

「なら、オリガはここにいるといい。僕が必ず守ってみせる。安心しろ、オリガ」

マフィンが頷くと、セリヤはエクレアを背負って外に出た。すぐに銃声が鳴り、私は体をびくつかせた。そんな私を見てマフィンは笑った。


「オリガ、君が今から共に歩もうとしている怪物の真実の姿を、しっかりと目に刻んでおくといい」


そこから先は強烈だった。

突如マフィンが光り、目を閉じたがすぐに開くとそこには見たことも無い化け物の姿があった。

こんなのはマフィンじゃない。

怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

嫌だ。

嫌だ嫌だ。

あんなに優しくかっこよかったマフィンがこんな姿なんて。

マフィンの姿は表現しがたかったが、上手に表現するなら巨大化したやもりの様だった。

舌を伸ばし、その舌の先からよだれが垂れている。

それはまるで蟻という人間を求めるアリクイの様だった。

悲鳴が起きた。

周囲の人間は悲鳴を上げながら逃げはじめた。それでもマフィンは追い掛けようともせずただただ四足歩行でその状態を見つめていた。

私がマフィンに話し掛けようとすると、丁度特殊警察がレストランに武器を持って入ってきた。マフィンはそれと同時にその人物の元に目で追うことも出来ないような速度で走って行き―――――――。


一番前に立って指揮していた青年の体を噛み潰した。

舞う鮮血。

切断された内臓まで。

スローモーションで私の視界に映っていた。

その後も、元気良く武器を持ってレストランに入ってきた先頭要員は首を断ち切られた。

マフィンはまるで一人殺せばまた次へ、というように人を殺して行く。

なんの躊躇いもなく、ただただ人を殺していた。

私は半分気を失いながら立ち尽くしていると、もともと人間の中に入っていたと思われる腸が私の目の前に降ってきた。

小腸はは気味の悪い音を立て地面に落ち、中に入っていたであろう緑色の液体はレストランのカーペットに異色の染みを作った。

吐き気がした。

人が死んで行くのを目前で見て、本当に吐き気がした。


私の視界が吐き気で曖昧になった時、“マフィンだった生物”は私の元に戻って来て低い悍ましい声でこう言った。


「撤退スルゾ。死ニタクナケレバ掴マレ」


そこで私は怪物と話しているという巨大な恐怖と暴れだす好奇心に気を失った。

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