Ⅸ
前書き
『マフィンの不思議で不可思議な物語』も二十話まであと一話となりました!このお話は僕なりにすごく楽しく書かせて頂いています。
僕なりに煙たしことエクレアが好きです。サヤや点滴も好きなのでやっぱり迷いますね…。
そんな話はどうでもよく、この前読み返しているといろいろとキャラ達が暴走しているなあと思いました(汗)
八月中に一斉修正を更新したいと思います!
今後ともこの作品を宜しくお願いします。
「目覚めました?」
ぼんやりとした意識の中から唯一確認できたのはそんな声だった。意識が朦朧としていて僕は返事することも出来ない。なんとか顔の向きを声の主の元へ移動すると、僕の視界には一度も見たことのない僕と同い年ぐらいの少女が僕を心配そうに覗いていた。
彼女の足元には僕の為に作られたであろう朝食のようなものが置かれている。僕はそれを見て一気にお腹が空いてきた。一体何日寝ていたのだろう。
「何か食べたいものはございますか。なんでも、申し付けくださいませ、ご主人様」
ご主人様?一体ここはどこの世界なのだろう。僕の夢が生み出した世界なのだろうか。もうなんでもありだな。
甘いチョコレートのような匂いもした。僕が寝ている世界ではなくその少し奥の部屋からである。
「君は、誰」
僕が何とかそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。そして僕の問いに答える。
「私はエスプレッソ。マカロン嬢のメイドリーダーを勤めております。本日からマカロン嬢の御命令として姫が了承の合図を出すまで貴方の側にいさせて頂きます」
「え、ごめん。話が全然分からない」
「失礼致しました。まとめると、本日から貴方の身に起こる危険を全て私が排除致すということです。いわば、マカロン嬢の代わり。女性としての振る舞いと戦闘力はマカロン嬢に引けを取りません」
「マカロンと力は互角ということですか。そんな事って…」
「一応ですが私は不可思議型です。決して、矛盾型のような選ばれた才能の持ち主なんかじゃないんですよ」
彼女はそう言って僕の前にお粥をおいた。僕は半分体を起こしてそれを啜る。
「…美味しい。これも貴方が作ったものですか」
「エスプレッソで構いませんよ。これからエスプレッソと呼んでいただけましたらいつでもどこでも飛んで行きましょう」
「頼もしいかぎりです。すごいですね、料理も戦闘も出来るなんて。まさに才色兼備」
「お褒めの言葉を頂きました。ありがとうございます。ところで、マカロン嬢や点滴様のお話によると貴方はいきなり気を失ったと伝えられていますがそれは正しいのですか」
僕の真上のシャンデリアが甲高い音と共に赤と青の光を反射しながら軽く揺れる。
「ええ、ですが、その中で見た夢のことは何も思い出せないのです。辛かったものなのか、美しいものなのか。なんだかずっと僕は無の世界に投げ飛ばされてしまった様なのです」
「心配なさらず。人間は容易に夢を覚えたまま起床することはありません。そして了解しました、今日は動けそうですか」
僕は手首と足首を軽く動かして小さく頷いた。どうやら小さな苦痛はあっても動くことには支障はきたさないらしい。
「そうですか、しかし今日は少し休んでおきましょう。私からマカロン嬢に貴方が起きたことを伝えておきましょう」
「ありがとう、マフィン達にも連絡を頼むよ」
「マフィン嬢にも連絡しておきましょう。貴方はお休みなさってください。ゆっくりと、ゆんるりと」
「了解。ありがとうな。僕はもう少し寝転んでおく事にするよ、エスプレッソ」
彼女は「了解致しました」と畏まって言ってメイドのように礼をした後速やかに出て行った。僕はもう一度一息ついて寝転ぶ。
そしてこれからのことをよく考えて行こうと思っていると、僕は呆気なく睡魔に襲われて眠ってしまった。
次の日、僕は自然的に目が覚めると、自分の周りに沢山の人がいることを知り、もういちど目を閉じる。すると、エスプレッソと思われる少女の声が聞こえてきた。
「ご主人様、お友達が来ていますよ。迎えてあげてください」
「ノーネーム、俺だ。元気にしてたか尋ねに来たぞ」
僕は最も四階層で話していて疲れない相手が来てくれたと思い、嬉しくなって一気に顔をあげる。が、その予想も相変わらずバカらしく僕の横には四階層の面子全員とマカロンが面白いものを見るかのように僕を覗いていた。僕はそれを見て大きく頭を抱える。
「…何このカオス」
「いつものメンバーじゃない。まさかの記憶喪失の記憶喪失?やめてよねー二回も同じネタは面白くないから」
「一回でも面白くないですよ!」
いつものノリで話し出したマフィンに結構ガチめに返答しながらもう一度目の前にいるメンバーを見渡した。なんの変わりもない、誰も欠けていない…と思ったが今日は一人だけ来ていない様だった。
「空は?」
「今日は部屋から出てこなかったのよね。連絡は送ったんだけど」
「もともと彼女は全く出てこなかったからね。二度連続で出てくるだけでもすごいと思うよ」
ミズキと点滴が効率よく話してくれる。何だか自分の事には空はなんでもしてくれるだろうと自惚れていたので少しばかり悲しかった。
「で、どうなのよ。体調は」
イデアはさっきから不機嫌そうな表情でカードをいじくってばかりいる。僕は少し怖じけづきながら言った。
「悪くないですよ。肉体的というよりは精神的苦痛を味わいましたから。ところで煙たしは元気かな?」
「う、うん。元気だよ。私はあの時アルコールに酔っ払っちゃってあまり記憶がないから」
「それに越したことはないね。あの光景はちょっとで忘れられるものじゃないから」
僕の発言に彼女はゆっくりと首肯した。煙たしも少しばかり疲れているのだろうと思い、僕は小さく笑って言う。
「僕も紅蓮のように戦闘要員ならよかったんだろうね」
「戦闘要員は選ばれし者のみの職業です。ご主人がわざわざ戦闘要員にならなくても私が必ずお守り致しますよ」
「力強いねエスプレッソ。でも相手はかなりやり手みたいだけど大丈夫なのかい?」
今度は紅蓮が大きく首肯した。エスプレッソは自身満々という風に微笑んだ。
「私は『この不思議で不可思議な世界』でのマカロン嬢に次ぐ戦闘要員です。私を越えるものはこの幾千もの世界に沢山いるでしょうがそれでも時間稼ぎは出来るほどの力は有しています。ご心配なく」
「最近は私がリハビリを全くしていないもので、この子にもはや抜かれちゃったのよね。だから実質私の最強のボディガードね。大切に扱いなさいよ」
「扱うなんて物騒な言葉を…」
「いえ、私は扱われて当然の身分でしたから」
エスプレッソは正座の膝元に手を置いて続けた。
「かつて私は戦士でした。いえ、戦争の部具というのが正しい言い方でしょうか。私は生まれてから故郷で生命体の対応をされなかったのです」
「ッ!そんなことって」
「これはフィクションじゃないわ。だまって聞いていなさい」
マカロンは僕を鋭い視線で指摘した。僕はなくなく黙り込む。エスプレッソは多少申し訳なさそうな表情になったが僕に一礼するとそのまま話を続けた。
「私はある日一握りの米と武器を抱えてこの世界へと戦争に来ました。私の強さは一応故郷一位でしたので特攻隊として、ですね。家族が人質として捕まっていましたので、抗う術などありませんでした」
そう言って彼女は昔を懐かしむように笑った。
「私は故郷最強の矛としてこの世界の創始者であるマカロン嬢に剣を立て戦いました。マカロン嬢はその時防御しか出来ませんでしたので、私はただ一方的に剣を振りました。それは最強の盾と最強の矛がぶつかり合った瞬間でした。そこで先に砕けたのは盾ではなく矛でした」
四階層の面子も食い入る様にして彼女の話を聞いていた。イデアでさえもこの先どのような展開になるのか分かっていない様だった。
「私の能力は精神を削って攻撃力を上昇させる、所謂バーストというものでした。そのバーストを作動させつづけ、マカロン嬢のシールドを木端微塵に砕こうとしたその時、私の精神は尽きたのです。目眩がして地面が近づいて来ました。地面に倒れたという感覚も全て、熱さと意識の喪失でその時は感じませんでした」
「その後、私は私の元に来た援軍にこの子は私の部下であるとつげて、雇ったという訳ね。彼女の強さは知っていたし、何よりあれだけの火力を故意的に生み出す戦士など私は知らなかったから。その上彼女は誠実で、私の我が儘をなんでも聞いてくれたわ。現在もだから聞いてくれる、が正しいかしら」
マカロンは話のオチを無理矢理とって手を二三度叩いた。しかしエスプレッソは話のオチを取られたのに関わらず冷静に「お見事です」とマカロンを褒める。僕は今までこの世界に来てから最も大人びた女性らしい人だと思った。
「それからエスプレッソはマカロンの元で働いているということですね」
「はい、美味しいご飯の作り方も教えて頂き今が幸せです。私には私の生存価値があるということをマカロン嬢から教えて頂きました」
僕はマカロンを見ると、彼女は自慢げに無い胸を反らして見せた。こいつはこれを言ってもらう為に僕を止めたんじゃないだろうかと不安になる。
「まとめると、エスプレッソとやらはそれだけお強いということだね?僕ら四階層の面子が安心して彼を預けられるほど」
気づけば点滴がいつもと異なった少し真面目な表情でエスプレッソを睨んでいた。彼は自分が信用している人しか本当に信用しないのだろう。彼らしいことだ。
「ええ、私がバーストを発動させるとマカロン嬢に連絡が入るようになっております。たとえ私の命がはかなく散ろうとも、私の限界を尽くしてご主人様をお守り致します」
「なら、宜しく頼むよエスプレッソちゃん。なら僕らもそろそろ帰るけど、君もまたいつか会いに来てくれよ」
「ああ、しばらくしたらまたそこらをぶらぶらすることにするよ。マフィンは今からどうするのかい?」
マフィンは急に僕に話題に入れられて戸惑ったように辺りを見渡した後、「予定はないよ」と言った。僕はそこで満足そうに頷く。
「なら、甘いものを食べに行こう。マカロンちゃんがお金は持ってくれるみたいだしね」
「残念ね。私が持つのは貴方一人分だけよ。他の女は持たないわ」
マカロンがニヤリと笑うのを見てエスプレッソが小さく笑った。この二人、本当に良いペアかもしれない。
「なら今日はゆっくりしとこうかな。下手に動くのも疲れてしまうからね」
「テレビゲームなら地下三階に用意されております。皆さんももう少しゆっくりして行ったら構わないのですが」
「僕は帰るよ。イデアもたしか用事があるんではなかったかな?」
「ええ、私はテレポートで帰るわ。貴方は電車で帰りなさい」
「それはないでしょ。テレポートで他人を送るのは楽って言ってたじゃん!」
イデアは不敵に笑ってその場で幻のように消えて行ってしまった。点滴は「ちょっとぉ」と頭を抱えて見せたがすぐに落ち着いて自身のカードの中身を確かめはじめた。何ギル持っているか確認しているのだろう。
「…僕もじゃあ帰ることにするよ。本当に、彼女は子供だなあ」
「イデアってそんなに子供らしいというイメージが湧いてなかったのですが、そうだったんですか」
「まあね、彼女は大人びた雰囲気を漂わせているけども実際は子供のようだからね。僕も彼女には疲れてしまうよ」
点滴はやれやれというようにわざと両手を広げた。僕とマフィンがそんな彼に笑いそうになった時。
三人の間に突然魔力の煙幕弾が打ち込まれた。
またあの日と同じ、平和の一端で大きな矛盾が振りかかったのだ。
「なんだよ、これ!」
点滴は疑問をそのまま叫んだ。煙幕弾はどんどん煙幕を打ち出していき、僕の視界はすぐに目の前のエスプレッソが見えなくなるほど煙っていってしまった。近くでまた点滴の叫び声が聞こえる。
「エスプレッソちゃん!彼を守ってくれ!」
「お任せを。マカロン嬢はこの魔力で生み出された煙幕弾を取り除いてください」
「分かった。任せたわよ、エスプレッソ」
マカロンは僕の元から消えて行った。そこでエスプレッソが震える僕の手を急に掴む。彼女はゆっくりと僕に顔を近づけて微笑んだ。
「安心なさってください。煙さえやめばなにも心配することなんてないもの。煙はすぐにマカロン嬢が消してくれます」
「他のみんなが…!」
「今はご自身の無事を祈ってください。ほら、マカロン嬢が煙さえ取り除いていただけたら…」
そこで突然不安がる僕の視界いっぱいに黄色の光が広がる。その光はまるで全てを包み込むようだった。マカロンは僕の遠くで何やら目を閉じて詠唱しているようだった。
するとまるでお伽話のように煙は急な広がりを見せるとともに空中に消えていこうとしていた。エスプレッソの僕の手を握る力が強くなるのを感じた。
「そう、煙さえ消えれば、煙さえ…」
エスプレッソが少し緊張しながら言う。煙は止み、僕らの視界が明瞭に広がると彼女は安心するように目を開け、武器を構えた。
すると、彼女の準備もはかなく視界には長剣を二本抱えて斬りかかってくる少女が映っていたのだった。
美しいフォームで、美しい水流のように斬りかかってくる両手剣の少女が近づいてくる。その剣先は明らかに僕の方を向いていなかった。僕はそれに気づき叫ぼうとするが、声はあまりの恐怖で出ない。僕はその瞬間に必死に手をのばそうとした。
僕はその斬りかかってくるなんとなく見覚えのある少女になにも動けずにいると、少女は躊躇なく僕ではなくエスプレッソの首を吹き飛ばした。
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