第7夜
一方その頃、アレックスはまだ舞台裏にいた。衣装は濃い紫の闇の色をしたボロボロのローブだった。ローブのフードを顔の半分までかぶり、除いている針のように細長い鼻。手には杖とリンゴの入ったバスケット。
アレックスが代役を勤めたのは魔女の役だった。上演中はほとんどフードで顔を覆っていた上に、声も変えていた為サーシャは気づかなかったのだ。
「やあ、お疲れアレックス」
狩人の役のビスが声をかけてくれた。
「なあビス小道具はどうしたらいい、それに化粧を落としたい」
「ああ、それならこっちへ」
ビスに案内されシャワーや 洗面台のある水場へと向かう。 アレックスの手には長いつけ爪までしてあった。黄ばんでひび割れた魔女の爪だ。
シワを表現するために、薄い皮のようなシールが手の甲全体に貼られていた。中で蒸れてとても気持ちが悪かった。邪魔くさい付け鼻を外して一息つく。
それから化粧を落とし、椅子に座ると手を差し出した。その手からビスが馴れた手つきで付け爪を剥がすのを手伝ってくれる。
「演技よかったよアレックス、台詞も完璧だ」
「俺用に大分削ってくれたからな」
「それでも大したもんさ、あれだけの量を短期間で覚えるなんて。 それに魔女は重要な役だ」
「顔の傷大丈夫か?」ビスが自分のほほを指で指す。アレックスの顔でその位置にはギャング達に殴られたアザがあった。
「大したことないさ」
「ならいい、この後は団長の所へ行くんだろ」
「ああ」
「なんていうか……その、気を付けてな」
ビスが苦笑いを浮かべて「なんだかさっき、舞台裏でいつになく上機嫌だったんだ」こそっとアレックスにそう耳打ちをする。
「そりゃ、気が重いな」アレックスが疲れたように肩を落とす。
「これは言っておこうと思ってさ、無事を祈ってるぜ」
よし終わり、とビスが椅子から立ち上がる。手も爪も綺麗に元通りになっていた。
「ありがとうビス」
アレックスも席を立ち、まだ衣装のローブを着たままその場を後にして団長であるナイトリーの部屋へと向かう。とある事情からアレックスには彼の手助けが必用なのだが、アレックスはナイトリーがどうも苦手だった。
それはビスも同じらしい。
自分はこうして用があるときだけ顔を合わせるくらいだが、ビスのように劇団の人間として毎日会うと思うとゾッとした。




