第6夜
舞台はよく知っている白雪姫の物語だった。
演出や小道具や衣装が華やかで、まるで大きな動く絵本を見ているようだった。話のあらすじは知っているのに、なんだか見ていてサーシャはドキドキしていた。
あっという間に時間は過ぎ、白雪姫が毒りんごを食べてガラスの棺の中で王子を待つシーンでふと冷静になり、そういえばアレックスの姿がまだ見えないことに気がついた。
まさかとは思ったが、白馬に乗って現れたのはアレックスだった。スポットライトを浴びたキメの細かい肌は白く輝き、優しく微笑むその美しい顔に皆の視線は釘付けだった。サーシャは違和感を感じたほどだった。
会場からは女性のため息が聞こえ、キスシーンでは全体から黄色い悲鳴が上がる。
そうしてカーテンコールが終わった後も余韻に浸るサーシャの肩をレオンが叩く。レオンはもう席を立っており、客席もすでにほとんどが空になっていた。
「さて、楽屋にでもいってみるか?」
「いいんですか」
「顔馴染みなんだ、挨拶しにいかないとな」
先ほど通った廊下を逆に戻り歩いていると、先ほど舞台に出ていた役者とすれ違う。狩人の役をやっていた男性だ。レオンとは顔馴染みのようでお互いに歩きながら軽く挨拶をかわす。
先ほどは通りすぎたドアをレオンがノックすると、中から女性の返事が聞こえた。ドア越しに「ライオネルだ」とレオンが声をかけると楽屋のドアが開く、出てきたのは先ほど白雪姫の役をやっていた女性だった。
「まあ、レオン」
中には白雪姫以外の役者さんもいるようだった。
「可愛い娘ね」ふふっと白雪姫は笑った。「私バレンティナよ、ティナって呼んでね」ドレスのままお辞儀をする彼女はまるで本当のお姫様みたいだとサーシャは思った。
「ごめんティナいつもの差し入れは、ちょっと事情があって持ってこれなかったんだ」
「あらレオンそれは残念だわ、あなたのオレンジケーキいつも楽しみにしてるのに」
「そりゃありがたいね、次に来るときは特大サイズだ」
レオンが短く軽快に笑った。
ティナの後ろでまだ王子の格好をしていたアレックスの姿が見えた。目が合うとアレックスがこちらに近づいてきて「やあレオン、今回は久しぶりじゃないか?」とティナの後ろから握手の手を差しのべる。
「え」サーシャの目が点になった。
「初めまして、僕はエイベルだ」
「あなた、アレックスじゃないの?」
「アレックスって兄さんのこと? 僕は双子の弟だよ 」
「それじゃあ王子はエイベルで……」
「そう、王子の役をやっていたのは僕さ、どう? 格好良くできてた?」
エイベルが冗談半分に王子のポーズを決めて見せる。「いやだわ、格好つけちゃって」とティナ達が笑っている声も呆然と立ち尽くしてしまっているサーシャの耳には届かなかった。
「混乱してるみたいだな」
「レオンこれってどういうこと?」
「大丈夫アレックスはちゃんと舞台に出てたさ、今は楽屋にいないみたいだけど」
いつもどおり、団長のところにいると思うわよ。ティナがウィンクをする。
「団長?」
「さっき会っただろ、ナイトリーのことさ」




