第5夜
スタジアムの雰囲気に見とれるサーシャは、レオンに肩を叩かれはっとした。目の前に巨大な半円の建物がどんと構えている。綺麗な装飾を施され、色とりどりの旗が立てられ、それを照らす照明がたくさんあって辺りは昼間よりも明るかった。ドームからいくつものサーチライトが空を指していた。見上げると、雨の勢いは落ちて霧となり今にも止みそうだった。
レオンはだんだんと人気の少ないほうへとサーシャの手を引いていく。出演すると言っていたし、裏方へ向かっているようだった。辺りに人がいなくなり、アレックスがいつの間にか姿を消していたのにサーシャはこの時気がついた。
「あ」レオンが知り合いを見つけたようで声を上げた。
「Mr.ナイトリー」
「おお、ライオネルじゃないか」
引いていたサーシャの手を離し、レオンはナイトリーという男に握手の手を伸ばす。「双子の様子はどうだ」ナイトリーは力強く手を握り返すと、レオンの耳元で囁いた。
「残りは7つです」
「大分減ったな」
「いや、まだ半分も終わっていませんから」
先はまだ長いです、と続けて言ったあとレオンの表情が曇った。なんの話なのかさっぱりで、サーシャは交互に二人を見つめるしかできなかった。手持無沙汰に感じて思わず意味もなくレインコートを脱いだ。
そんなサーシャを顎でさして「そちらのお嬢さんは?」とナイトリーが尋ねる。
「うちのバカが拾って来たんですよ」
「捨て猫ならぬ、捨て娘か」
ほう、とナイトリーはなめるようにサーシャを頭から足先まで眺め「名前は」と言った。
「あ、えっとアレクサンドラと申します」
「なるほど」
彼も結構、引きずるタイプなんだな。ナイトリーが不適に笑う。「そろそろ失礼、本番が近いので」そう言って立ち入り禁止と記されたドアの中へと一回は入って行くが、すぐにまたドア越しに顔を出す。
「そうそう、席はいつもの場所だ」
暗闇の中を指して、裏方を通った方が近いだろう早くしないと舞台が始まるぞ、と言ったあと今度は完全にドアの向こうへと消えた。
「俺達はこっちだ」
ナイトリーが指差した先のもう1つ別の関係者入り口にサーシャは手を引かれ入っていく。中は狭くて薄暗い廊下が一本あるだけで、蟻の巣のようにたくさんある部屋を関係者らしき人物達が慌ただしく出入りしている。
「邪魔にならないようにね」サーシャ達はスタッフ達をかき分け、人の動きが激しいドアを避けてど真ん中を歩いていく。突き当たりの幕をくぐり舞台の目の前にでる。ずいぶんと大きな舞台だった。他の席に目をやるとほとんどの席が埋まっていて列は大分後ろまで続いていた。皆、今か今かと開演を待っているようだ。
そんな中最前列のど真ん中にぽっかりと2つ席が空いている。
「あそこが?」
「そうさ」
開演がまもないことを知らせるアナウンスが響く。
サーシャ達が足早に席に座ると、眩しかった照明がぱっと消えて一瞬真っ暗になる。左右から迫力のある楽器の伴奏が聞こえ、それに合わせてゆっくりと舞台に光があたる。
舞台の真ん中に、小柄な女性が1人立って小鳥のさえずりのような声で歌を歌い出した。
「白雪姫だよ」
レオンが横から耳打ちしてくる。どうやら舞台の演目は白雪姫のようだった。




