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Taboo(タブー)  作者: ゼルダ
第1章【魔女たちの夜】
12/18

第12夜

出かけるときに机の上に出しっぱなしにしていった買い物袋から、パンや野菜を取り出して並べるとレオンは腕を組んで(うな)っていた。ずらりと並んだ食材を眺めながら今夜の夕飯の献立を考えてたが、そもそも時刻は既に真夜中をまわりそうで今さら作るのもあまり気乗りはしないとろこだった。


「サーシャはお腹すいてる?」


キッチンからリビングに声をかける。

アレックスの服に着替えたサーシャが顔を覗かせた。サイズが少し大きそうで、ハーフパンツに至っては歩く度にずり落ちて今にもパンツが見えてしまいそうである。


「お嬢さん、パンツ見えてますけど」

「え?」

「いや、何でもない」


サーシャに、おいでおいでとレオンが手招きをする。


「お腹出しなさい、優しいレオンさんがゴム結び直してあげるから」


はい、と何の抵抗もなくサーシャはシャツをまくり上げる。冗談半分に言ったレオンも肩透かしをくらう。素直なのはいいが、無防備すぎるのはいささか問題である。

これはアレックスが手を焼くだろうな、紐を結びながらレオンは途方にくれた。とんでもない娘を拾って来たものである。


「まったく女の子なんだから、ちゃんとしないとダメでしょうに」

「はーい、すみません」



サーシャはあくびをすると、眠たそうに目をこすった。

やる気のない返事である、この様子では夕飯は作らなくて良さそうだ。


「なんだ眠いのか? ほら寝る前にお風呂入っておいで 」


ぼーっと立っているサーシャを風車のようにくるりと回して、その背中を風呂場の方へと押す。


「って、保護者か俺は」


なんだかなー、レオンがため息をはく。これではまるで幼稚園児の面倒を見るイクメンパパのようである。

アレックスではなく、自分が手を焼いていては話にならない。とりあえず脱衣所にサーシャを放り込み扉を閉める。これが子供なら服を脱がせるまで手伝うところだが、相手は立派なレディなのでそれは出来ないのである。


「よし、偉いぞ俺」


正直男として、裸は見たい。だが、あんな無防備で純粋な娘の風呂場を覗くなんてことはできない。 そう、レオンは欲望に打ち勝ったのだ。


「ん? おっと手が勝手に」


しかし、気がつくといつの間にか脱衣所の扉を薄く開けている自分にレオンは気がつく。


「いかんいかん、負けるな俺」


と自分に言い聞かせつつも覗く、悲しい男の性である。

むしろこの状況で、覗かないのは失礼に当たるのではないか。などととんでもない持論を展開させる始末だ。




サーシャに危機が迫っているとは露知らず、一方でアレックス達は神父との話を済ませ、礼を言って帰ろうとしているところだった。サラがランプの明かりで出口まで誘導する。先ほど2人で必死にこじ開けた扉を、小さなサラはたった1人で意図も簡単にほぼ全開にしてしまった。


「すんげー馬鹿力」

「名前といい、ターミネーターみたいな奴らだな」


サラ本人には聞こえないように2人はぼそぼそと会話する。力で敵わないとなると怒らせたら大変そうである。


「え、何か言いました?」

「なんでもありせん」


2人はピシッと伸ばした背筋で声をそろえて答える。

そして帰る間際にサラが、ちょっとお待ち下さいと腕を制して止める。


「明日は日曜です、お時間があればぜひ」


アレックスが一瞬考えて「ああはいはい、そういうことね」と相づちを打つ。

それを見たサラが一礼して道を開ける。ビスは首をかしげたままアレックスと一緒に外に出た。2人が振り返るよりも早く大きな音を立てて寺院の扉がしまる。


「なあアレックス、さっきのって……」


ビスが言いかけた時、寺院の上をしゃがれた高い笑い声が通りすぎる。ヒッヒッヒッとまるで短いしゃっくりのようだった。神父と話をしている間に雨は小降りになってはいたが、まだ止んでおらず空は暗く曇っていた。恐らく今のは正真正銘の魔女だろう。


「魔女め、動き出したか」


魔女は土曜の夜に“サバド”と呼ばれる集会を行うと言われている。サバドでは新たに魔女になるものの洗礼が悪魔の名のもとに行われる。

サバドの開催地はバラバラで、周期もこれと言って決まっている訳ではない。一週間おきに行われる場合もあれば、前のサバドから一年以上間隔が空く場合もある。

ただ行われるのは決まって土曜日の夜だという。

そして魔女は自分達にしか分からない方法で場所と時間を教え合う。 それは黒猫やカラスを使ったものだとも、あるいは悪魔を使ったものだとも語られる。要は誰にも分からないということだ。


魔女はよく子供を拐っていく。子供は騙されやすく力もなく捕らえやすいからだ。更に魔女にとって、子供は数々の使い道があるいい材料だ。子供の血や涙は上級の魔法薬を作る上で必用不可欠であり、赤ん坊に近いほど上質なものが採れるらしい。

肉は柔らかくみずみずしく、煮ても焼いても美味い。脂は食用としてだけでなく美容や道具の腐食防止にも魔女達は使用する。


無論、子供は狙われやすいというだけで必要とあらば男だろうが女だろうが魔女は欲の為に簡単に人を殺す。


「サバドの開催場所が近いのかもしれないな、どうするアレックス?」


今回のサバドはこの街で行われたか、あるいは別の街に向かっていったのか、サバドは終わったのかそれともこれから始まるのか――それは定かではない。


「朝まで待つのは面倒だな」

「一応来るときに用心してナイトリーの部屋から持ってきた聖水のボトルがいくつかトランクにあるけど」

「それだ」


2人はトランクから聖水を出し、車に流しかける。持っていたボトルが空になるまですべて流し終え、車に乗り込む。


「出来ることといえばこれくらいだな、あとは雨が弱い内に抜けるしかない」

「まあ仮に出くわしたとしても俺には一座の印がある、わざわざ危害を加えるようなマネはしないだろう」


ビスの右耳のピアスが揺れる。印とはナイトリーの一座メンバーが片耳に着けているピアスのことである。

デザインが共通しており、メンバーごとに使われているクォーツが異なる。ビスのピアスにはスモーキークォーツが使われており、ナイトリーの魔力が込められているという。強力な魔力を持つナイトリーは魔女達の間でも危険人物として有名らしく、印のピアスことも知っている者は割りと多い。


「スモーキークォーツは強い魔除けの効果もある、聖水もかけたし、こっちから近づかなければ魔女と出くわす確率は低いさ」


それよりも、とビスが車のエンジンをかけると尋ねる。


「サーシャは大丈夫なのか? レオンと2人きりなんだろう?」

「なんのことだ」


だって、とビスが少し言いにくそうに笑う。


「ほらレオンって女好きだろ? サーシャに手だしたりしないかと思ってさ、いやアレックスが気にならないなら別にっていうか……そもそもサーシャってアレックスとどんな関係か知らないけど」


沈黙で気まずくなるのを避けたいのか、ビスが無理矢理に途切れなく話を続ける。後半の言葉はアレックスの耳にほとんど届いていなかった。

まさか、とは思うがあり得ない話ではない。家にレオンが一晩限りの女を連れ込んだことは今まで何度もあったからだ。一抹の不安がアレックスの胸をよぎる。


「アレックスってば」


強めに声をかけられアレックスがはっとする。


「いや、その……車のスピード上げようか?」





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