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Taboo(タブー)  作者: ゼルダ
第1章【魔女たちの夜】
11/18

第11夜


窓の外を見ると、街灯以外の明かりはほとんどない。暗闇の中から大きな雨粒がポツポツと車のガラスを叩いていた。湿気でフロントガラスが少しずつ曇っていく。

ビスがエアコンに手を伸ばしたところで、ここまでしばらく続いていた車内の沈黙が終わる。


「家にいなくてよかったのか?」

「ビスの方こそ、これで日付が変わる前に帰れなくなった」

「ナイトリーにはうまく言うよ」

「俺はこうして、いつも誰かに迷惑をかけてばかりだな」


また沈黙が続く。寺院に着くまで、二人はそれ以上会話を交わすことはなかった。

雨に続いて雷まで本格的に鳴り始める。外から見ても寺院は真っ暗で、人の気配はなかった。雷光が辺りを照らす。地響きを感じるほどの大きな雷鳴に二人も一瞬首を縮めた。


「どこかに落ちたかもな」ビスが遠くの空を見つめた。

「早いとこ、済ませよう」


傘もささず、車から降りて寺院の入口まで走る。10m以上はあろうかという巨大で重々しい扉はアレックスとビスが2人がかりで必死に引き、ようやく 人が1人通れる隙間だけ開けることができた。

雷光が暗い室内を一瞬真っ白に染め、奥にある祭壇の偶像達に影が入る。


「神父様!」


アレックスの声は寺院の高い天井にこだました。雨音も遠く曇っており、礼拝堂はシンと静まり返っていた。慎重に足を踏み入れる二人の小さな足音でさえ、響くくらいだった。先ほどのアレックスの呼び掛けには返事もなく、誰かが出てくる様子もない。

ビスは目が暗闇に慣れてきたのか率先して奥へと進んでいく。祭壇の前で止まり、祭られた巨大な絵画とその頭上に吊るされた十字架を見上げる。

絵画と十字架を守るように数体の天使の像が配置されている。金や銀の鮮やかな色で彩飾された美しい祭壇は暗闇の中でもその存在感と精彩さを放っていた。

アレックスは辺りを警戒しながら、少しずつビスの元へと歩み寄る。


「どうした」

「あれが神様ってやつか」


見上げた十字架には(はりつけ)にされた男性の像があった。


「そうらしいな」

「ふーん初めて見たよ、神様ってのは人間にそっくりなんだな」


ビスらしくない、妙な口ぶりだった。アレックスがビスの横に並び視線を向ける。暗闇の中、ぼんやりと浮かぶ彼の横顔見つめる。

暗闇に慣れてきた目で、その表情に憎しみが宿っているのをアレックスは感じとった。先程浴びた雨粒がひとつ、まるで涙のように頬を伝って落ちていく、なんだか悲しい気持ちになった。ビスは自分とは違う側の人間だと勝手に思っていたからだ。いつも明るく笑う彼は誰かを憎んだりあるいは憎まれたり、そんなものとは無縁に生きているのだとばかり思っていた。

ただ知り合って長いというだけで、アレックスとビスはお互いの本当のことを何一つ知らないのだ。そう改めて感じる。

もしアレックスの過去を知ったら、ビスはどんな顔をするのだろうか、今まで通り彼は接してくれるだろうか。


「誰もいないな……そろそろ」


帰ろうか、と続けようとしたその時だった。再び雷光が辺りを照らす。その一瞬をアレックスは見逃さなかった。部屋の奥で男がこちらに銃を構えていた。


「ふせろ!」アレックスがそう叫んでビスの頭を無理矢理下に押しつける。そのすぐ後に雷鳴よりも早く銃声が響き、弾が頭上の祭壇をかすめた。

すぐさま立ち上がろうとするビスをアレックスが力尽くで引き留める。


「待ってくれ、俺たちは敵じゃない」アレックスが両手をあげて先にゆっくり立ち上がった。それを見た男が構えていた銃をおろす。


「サラ、火をくれ」


ボッと奥で明かりがつき、男との間に流れていた殺気のようなものはそれと同時に消えたようであった。サラと呼びれた少女がランプをもって男の元へと近づく。ランプを受け取った男は顔を確認するようにアレックス達に近づいて光を当てた。


「君たちは魔女じゃないと?」


男の問いにアレックスが手を上げたまま頷く。


「そうですかそれはすみませんでした、こんな土曜の夜に現れるものだからてっきり……早とちりしてしまったようです」そう言って男がにこりと笑う。身なりからしてどうやら神父のようだ。引きった笑いのままアレックスも手を下ろす。


「あ、ははは……すんませんね、紛らわしくて」


それにしてもいくら怪しいとはいえ、聖域でしかも神父が人に向かって銃を撃っちゃうってそんなのありかよ、1人心中で突っ込みを入れる。さすがナイトリーの紹介だけはある。この神父ただ者ではあるまい、ぶっ飛んでる。

そんなアレックスと違ってビスはあからさまに厳しい目を神父に向ける。


「おかしいですね、一瞬確かに獣の臭いがしたんですけど」

「獣?」アレックスが首をかしげる。


ビスが神父に向けていた目をさらにキツくした。「寺院には俺達しか入っていませんが」と神父に冷たく返す。


「ところで君たちは?」

「ああ、Mr.ナイトリーにあなたを紹介されて聞きたいことがあって会いに来たんだ、俺はアレックス」


ジョン・コナーだ、神父がそう言って差し出した手にアレックスが握手を返す。

先ほどサラと呼ばれていた少女が雨で濡れたアレックス達にタオルを渡してくれる。シスターのような服を着ているが、年はアレックス達と同じかそれ以下のように見える。

サーシャやティナより少し背が低めなのがその理由かもしれない。


「そうか君達はナイトリーのところの……ああ、遠慮せずに腰掛けてくれて大丈夫だ」


2人は神父の言葉に甘え、すぐ近くにあった参拝者の長椅子に座った。木でできた椅子はカチカチに固く、座り心地はそれほど良くはない。ビスはかなり居心地が悪そうだった。大丈夫か、とアレックスが小さく耳元で声をかけるが、ビス声もなく静かに頷くだけだった。





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