42.
「…エジプト神話における、あらゆる存在の起源か。」
「そうや、勿論オグドアドにもおったで。」
名字を持たず、下の名前ですら預かりもの。
それが、オグドアドにおけるヌン、スズという男だった。
「人間としてのヌンはスズちゃん、やけど…物体としてのヌンを求めたんや。」
神秘濃度の高い場では、ありえない事が必然となる。
それは伝承にも当てはまり、実際に砂漠神であるセト、その化身である動物が敵意を持ち掘削の阻害をしている。
「あいつら、スズちゃんを殺した。」
「そのバディのライちゃんもや。」
「ちょ、ちょっと待った、今誰ちゃんって?」
呼び止めるクルミ、その真意は聞き覚えにあった。
「小麦川ライ、ナウネト担当の女や。」
「…先生、『アレ』じゃない?」
「確かに、『アレ』かもな。」
その正体は正に、所謂学校の七不思議というものの一つ。
『ロッカーのライちゃん』に由来する。
「旧生徒会室…ま勝手にそう呼んでるだけ。」
一行が訪れたのは、備品は古くそれでも清掃の行き届いた一室。
「ほら、あれだよあれ…午前7時から午後の9時までにノックをすると会話が出来るロッカー…!」
指差す先には大きい用具入れ、がたりと揺れたのは気のせいか。
「…あれが、ライちゃんとどう関係あんねん。」
「ちょっと見ててな、今分かるからさ〜…」
数回のノック、直後にくぐもった短い悲鳴が聞こえる。
「ひゃうっ…だ、だれ…?!」
「………ぁ」
たった一つの声、それでもミチルは、旧友の存在を確信した。
「こいつがライちゃん、何をしても出てこなくて一回プラズマカッター使ってみたんだけど…」
「―――ライちゃん!」
「なに…っ…また知らない人…!?」
「ちゃうって!俺や!猫塚ミチル!」
戸を開けようと藻掻く、しかしどうにも堅く閉ざされているらしい。
「み、ミチルくん…?!ぃや、そんな訳ない、怪物さんだ…!」
「ぁー…そうそう、ミチル先輩?こいつあたし達の事怪物って言うんだよ、何してもな。」
呆れ顔を示すクルミ、彼女達が入学してきた頃から在ったこのロッカーは中に人が居る、はず。
「誰が怪物や!開けて顔見りゃええやろって…!」
「だめっ…だめなの、怪物さんはそうやって騙すの…!」
「…いいからはよ開けろや!!あぁ?!!」
「ひゃうっ…!?」
ロッカーを蹴り飛ばし、暴行を加えるミチル。
一行は傍観に現を抜かしていた。
「そ、そもそも、ミチルくんは関西弁じゃないもん…!」
「………」
「残念でした、怪物さん…ばーか、ばーか…」
その煽りが、逆鱗を撫でくり回した。
「…クルミ、ジャベリン持ってこい。」
「あいあいさー」
「ふぇ?」




