38.
「…思い当たる節が多過ぎるんやけど。」
「はっ、じゃ一番目からだな。」
笑い飛ばす三田の前に、一躍時の人と相成った男が目線を合わせる。
「まず…お前ロシア人なんか?」
「まずで出てくるのそれかよ?!」
「だって気になるやんか!ロシアンルーレットとかべ、べれぞうぃか?とか!」
幾つか予想はしていたが、あまりに斜め上。
激闘の果てに、聞くことが人種という事は今までにあっただろうか、いや無い。
「ぁー…ややこしいんだが、ハーフだ。」
「なんや混血か、日本との…って感じでもないな。」
「ああ、この赤髪はイギリス、言語は日本人の父親譲りだ、…まぁ親とは会ったことねぇがな。」
「で、育ちの地がロシアっつー訳かいな。」
親はイギリス系白人、父親は日本系スラヴ人、育ちはロシアと、何ともややこしい出生である。
「いや、それは少し違う。」
が、訂正しなければならない事項が一つ。
「俺が生まれたのは…ソ連時代だ。」
「………?」
「あぁそうそう、言ってなかったかな?彼女50歳は超えてるよ。」
「なんやて…!?」
「え゛っ?!」
「what?!」
「ほう!」
一行が驚嘆に包まれる中、ウナのみが感心したように頷いていた。
遡り五十年前、米ソ冷戦真っ只中の冬日。
三田は『ベレゾヴィカ』なる辺境の地で生まれ育った。
「まこの見た目で50歳以上ってもおかしいけどな。」
「wait wait wait…私の、目測…では、8歳程度に見えるが…?」
「無理もねぇな、お前らアメリカのヒーロー映画見たことあるか?」
所謂冷凍保存、本来ならばあり得ないことだが、彼女の持つ神秘の代謝がそれを可能にした。
「この…っマチェット二振りで熊とキツネを狩ってた所までは覚えてんだが…」
「ふぅン…私が回収した頃、三田くんはとあるソ連部隊の記章と共に眠っていたよ。」
「…だそうだ、俺にとっちゃあんま覚えてねぇがな。」
五十年に渡る眠りの始まりは、およそ八歳程である。
しかしここで謎が残る、何故齢八ともあろう少女が峻厳な冬と獣に囲まれ生き残っていたか、だ。
「細かい事は良いんだよ、取り敢えず俺は最強だった、それで充分!」
答えは存外不必要である、本人自体がそう思っているのなら尚更。
「ただ…俺は『サンタ』って呼ばれてた、だから…『三田』って名乗ってんだ。」
勿論三田の読みは『みった』、しかし彼女にとってそれはさほど問題ではない。
あの日、あの冬…あの男達におんぶをしてもらって、良く顔を覗き込んだ。
垂れる赤髪と幼き好奇心、そして余りある怪力。
異名にも近しいあだ名である『サンタ』が、三田にとって最も片隅に残った記憶なのだから。




