29.
「うわっ…!ポーション切れおった!」
「ヤバいですって!それ以上逃げたら発狂しちゃうっす!」
「んなん言うてもしゃあな…あっ!」
現時刻は午後の8時50分、浴場より出でた者共は未だゲームを続ける二人を目撃する。
「くそっ死んだ…後頼むで。」
「いやっちょ!無理が…あ、死んだ。」
知り合ってから僅か数時間、その間に肩を預け合うほどの仲を構築していた。
「…ミチルを見つけたのは良いけど、ほんとに協力してくれんの?」
「どうだろうね、あの様子だと…」
風呂上がり、クルミのぽつりと呟いた一言が菓子を食らうミチルの耳に入る。
「俺はもう帰るで、ゲームもやったしな。」
「えっマジですか、そんなぁ…」
残念がるひなを横目に、男は続ける。
「エネアドには関わらんって決めとんねん、こいつは別やけど。」
「ふっ…貴様の事情は知らんが、余はその態度に責任の是非を問おうぞ。」
「何言うてんねんちびっ子、お前語彙終わってんで。」
困窮していながら救いを求めない者は実在する、この時困窮者はミチルであり、救い手は王だ。
「責任なら何もあらへん、もう20やで俺。」
「…いいや、違うぞミチル。」
猫塚ミチル、成人した自分の公的記録は残っていない、燃やし尽くした、はずだった。
「これを見てみろ。」
佐都の手には三つの書類、それぞれミチル当人の三年間の成績表だった。
「あ?だからなんやねん。」
「お前は留年扱いだ、二度目の高校二年生だぞ。」
「ハ!道理が通らんな、単位が足らんであろうよ、サト。」
王の指摘は至極真っ当、ここがエジプトの地で、キノヤクアカデミーである事を除けばだが。
「ふふふ…ミチル、お前の卒業には俺の捺印が…」
「卒業してないから何やねん、なら俺はこのまま不登校コースやカス。」
道を決めた者にそう易々と手を差し伸べる事は出来ない、同じようにミチルも関与しない方へ歩を進めていた。
「…てか、何様やねんお前、今更教師気取りかいな。」
「今更?先生、前の生徒会と面識があったの?」
雪代の問いは、教師の頭を悩ませた。
「ミチルくん、責めるなら私だと思うよぉ…」
「うわっびっくりした、どういうことや?」
無音で背後に現れたその女は、タオルで水に濡れた体を拭くことすらせずびしょ濡れの雨眠だ。
「4年前…つまり君が高校一年生の頃、元々はその時に佐都くんが出張する予定だったんだよ。」
「でも、こいつが駄々を捏ねた、だからといって俺に責任が無いわけじゃない。」
「………」
床を濡らす雨眠に布切れを渡して、佐都は頭を下げる。
「…ミチル、悪かった、生徒会の件は俺のせいだ。」




