11.
「はい口開けてー…君、筋弛緩剤でも投与されたいのかい?」
頑なに触診を嫌がるクルミ、それは雨眠が医者ではない事が原因ではなく、もっと別の何か。
「ぁ…ねぇクルミ、ふゆちゃんは?」
「ん?居るけど、お医者さんがこわ———」
「———はい隙あり。」
突っ込まれたのは固定器具、クルミの顎が開かれたままになる。
「んが、あがぉごがげ、ぐぐぉがご。」
「いや、後でで良いから…取り敢えず、先生に伝えとく…なんかうるさくない?」
理科室の外から聞こえる、小さい悲鳴に謎のどよめき。
「いやあぁあ!お医者さんいや!いやです!」
音の主は案の定と言うべきか、ふゆだった。
「ちょっ…落ち着けふゆ、あいつは医者じゃないから…」
「むしろいやです!」
「ha-ha!これぞdoctor phobiaってな!」
異常なまでの拒絶は、高取姉弟の診察時にクルミと到着した際から続いていた。
「なに…どうしたのふゆちゃん。」
「あぅぅ…!ゆ、ゆきよさっ…助けてくださいっ…」
「一旦落ち着…ける訳ないよね、先生、1回離してみて。」
ぱっと拘束が外れ、崩れ落ちるふゆ。
それはまるで、注射を嫌がる愛玩動物のような姿
「…ふゆちゃん、あのね、怖いのは分かるよ?でも…ほら、私は何もされてない、でしょ?」
諭すような口調に、生来の声。
パニック状態の人間は、きっと大多数がこれで落ち着くだろう。
「ふーっ…ふーっ…」
「大丈夫、ちゃんと診察出来たら…」
「はい次、さっさと来たまえー。」
クルミの診察が終わった事を告げる声、雪代に肩を貸され歩を進める。
「…先生、why…ふゆ、は医者をscared?」
「あぁ、昔の手術が関係してるらしい。」
「Surgery?」
開腹手術、一旦何の病理だったかは不明だがふゆはその時その場で地獄を味わった。
「術中覚醒と言ってな、麻酔関連でミスが起こると覚醒しちまうんだ。」
「それは、良くないSituation、では?」
「勿論、腹を切り裂かれる痛みに、臓器を弄られてるのが動けないまま続くんだからな。」
苦患の果てに、苦痛への閾値が振り切れる。
医学的に証明はされていないが、ふゆは後天的な無痛症を獲得したのだ。
「元々ビビりだったのが、それで…って事だろう。」
「hm…ふゆには、優しくしてあげたい。」
「ああ、存分にな。」
その時だった、理科室から頭を撫でられながら話題の人が出てくる。
「も、もうやりたくないです…」
「ん…次もまた一緒に居てあげるから、ね?」
今日この日で雨眠の診察は終わり、そして今、エネアド生徒会がアトゥムを除き揃った。
なれば、行うことは一つ。
「よし、それじゃあ今回の任務を始めるぞ!」




