10.
「私は雪代、神秘は無いけど、クルミのサポートしてる。」
横着した状況に言葉という打開策を講じたのは囁き声、揺らいでいるような、つい眠くなってしまう、そんな声。
「あと、掘削部の部長もしてるから、堀削抗に行くんだとしたら私に一声掛けて、はいおしまい。」
「………」
「…柊人君、自己紹介…出来そう?」
ふう、と喉から突き抜けるような溜息を漏らす陰気な男、言葉という重い腰を上げる。
「…小森柊人、黒曜石のナイフで胸を貫くと毒ガス出せる。」
あまりにも、あまりにも短い自己の開示。
それは社交性が無いというより、眠気や退屈が来ている人間のそれだった。
「…じゃ、雨眠んとこ行くぞ。」
「ok、付いていく…を、する。」
歩を進める佐都とエネアド生徒会の面々、置いていかれた2つの小さな影は冷房を満喫していた。
「んー…至って普通だねぇ…少し塩分を控えたら健康だから、気を付けたまえよ。」
第一理科室その室内。
既に雨眠のラボとなったそこで少し早いかひなの健康診断が終わっていた。
「はいです、ありがとうございました!」
深々と頭を下げるも、ずり落ちる気配の一つないヘルメット。
「…入るぞ。」
「やぁやぁ佐都く!…それにエネアドの皆、こんにちは。」
「…?こんにちは?」
まずは高取姉弟、弟の方から。
身長体重血圧共に異常無し、姉も同様。
「はいじゃあ次。」
手招きに応じた小森柊人、口腔内の炎症多数あれど健康そのもの。
アカデミーと言えど軍事組織、その中でもトップに位置するエネアドのメンバーはやはり健康体が多い。
「…君、もう少し口を開けるかい?」
「え…あ、はい。」
雨眠の興味を惹いたのは雪代の喉、声帯だった。
「詳しい所は検査しないと分からないけど…君、声帯の両側外転位、つまり気息性嗄声が多くなる。」
「いや…つまりの意味も分からないんだけど。」
「それに…君の声はどうやら1/fゆらぎに近いらしい、偵察員としては上々この上ないねぇ…」
次ぐ饒舌は止まらない、雪代自身は自己が何を有しているのか、分かっていない。
「要するに、君の声は常に囁き声で落ち着くノイズと同じ、と言うことだ。」
「ふーん…そっか、何か悪い所は無いんだね?」
「誤嚥や誤飲が多いけど、気を付ければなんてことはないよ。」
特筆すべき点はそれだけ、もしするとしたら…
雨眠の背後、苛立った目で見つめるクルミの存在だろう。
「ゆーきーよー…?何他の人に体触らせてんの?」
「え、いや…これは違うでしょ、色々と。」
「違わない、浮気だよ浮気。」
痴情のもつれ、と言うには状況が子供じみていた。
「君たちの同性愛には興味が無いから、早くしてくれるかい?」
「なっ…なんだとこのヤブ医者!」
「私医者じゃないよ。」
「え?」
ここで一つ、エネアド生徒会の全てが思慮を抱く。
"この女、医者でもないのに健康診断をしていたのか?"
と。




