42.
「みぎっ!ちゃぷ!」
ちゃぷ、は軽く。
「ひだりっざぶ!」
ざぶ、は力を入れて。
「みぎななめざば…っ!」
ざば、は全力で。
水鳥が天敵であるハヤブサから水上で逃げる様を、遊びとして捉えた2人だけのスキンシップ。
今は、飛来する投擲物を回避する為の戦術。
「とまれっ!」
「っと…!」
指示は4つ、ちゃぷ、ざぶ、ざば、とまれ。
これらを左右、正面後面、斜めを含め跳ねる方向とする。
"妙技!なんと不可思議な回避か!"
視野角の外から飛んでくる槍や剣の数々はキアラのバックアップで補完。
"なれば…物量はどうだ?"
幼童の背より現れる無尽蔵の武器等、死線を幾多も乗り越えたリーヴィアにとってそれは単なる障壁の一つに過ぎない。
「押してダメなら引いて見ろという言葉を教えてやる…っ!」
電話口で何故情報の応酬が出来るか、その問いはこの際些細な事象である。
原因はただ一つ、王たる者が力を寄越せと自らを訪ねた少女に下賜を与えたから。
「ぁあああっ―――!」
数々の武器を掻い潜り、宵闇に光る光圧体の刀身が迫る。
"ははっ…!まるで城壁だっ!"
その姿は、水鳥の優雅さとハヤブサの力強さを秘めていた。
「Questo è il colpo di grazia!」
「…今っ!」
"なっ―――"
断頭のその瞬間、端末から細い、白磁のような色の手が伸びる。
光圧体の剣は幼童の皮膚をいとも容易く切り裂き、皮下組織に到達…
筋肉、血管、頚椎へ刀身が通っていく。
「にがさない…っ!」
そのか細い声は最早どちらとも取れず、ただ伸びる手が幼童の顔を両手で包む。
「終幕だ皇帝ッ!!」
"まだだッ!余の劇は…これからなのだっ――!"
「そんなことない!もうおわりだよッ!」
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ぐるり、ぐるり。
世界が回っている
視界が回っている
頭が回っている
「おい。」
"っ!"
「何を呆けている、さっさと来い。」
瞼の裏には、白い空間が広がっている
"貴様…は?というより、余は…」
「余は王、お前は皇帝、違うか?」
茶会の椅子が在った、在ったからだ。
茶会の机が在った、在ったからだ。
王と皇帝が居た、居たから。
「…あの2人は」
「片方は余が補佐した、もう片方は知らん。」
「そうか、貴様は…あの女子の王か。」
机上に短剣が置かれる。
「遺言は?」
「………」
「案ずるな、道は違えど同じ大衆を統べる者同士、介錯はしてやる。」
それを取れば、あなたの劇は終わる。
悲劇にするか、喜劇にするかは自由。
それを喉に突き刺せば、あなたの人格は保護される。
「っはは…ふふはは…っ」
「今際の際であるぞ、何が可笑しい?」
「いいや、前と同じだな、と。」
「戯言を。」
「まぁ良いではないか、貴様の言う通り今際の際である。」
赤みがかった金髪が靡く、その2度撥ねられた首に、もう一度だけ。
刃を。
別れを。
「Qualis artifex pereo.」




