41.
「もしもしっ…リーヴィア、聞こえてる…?!」
「…あ、ああ、聞こえている。」
電話に出た、というより"代わった"のは違和感の無いキアラその人。
「あのね、そいつには普通の攻撃が…」
眼前には、遁走しようと地べたを這う幼童。
「どうすればいい?」
自分でも恐ろしいほど落ち着いていた、ランナーズハイとやらか、或いは別の何かか。
「ぁ…えっと、伝えるのが難しいんだけど。」
「待て、そもそも何故情報を知っている?」
双方今際の際とも言える状況で、片や息を切らし片や冷静に電話でやり取りを交わしていた。
「それはっ…その…ッ!ひだり!ざぶ…っ!」
再度、湖での遊び、その一節がリーヴィアの身体を左に飛ばせる。
「あぁ、あぁああ゛…!」
その叫びは投擲した槍を避けられた事による悔しさか、或いは。
「なぜ…私はこいつに勝てると、思っている?」
自身の用意した劇より完成度の高い現実への絶望か。
「…そいつの神秘はね、感情が高ぶるとそれを現実にできる、っていうもの。」
「タテベさんから聞いた、って事にしといてくれる?」
「対抗策は…こっちも感情を奮い立たせるか、神秘を上回る神秘か。」
不明点は多々、しかし解決の糸口から蜘蛛の糸が垂らされる。
「リーヴィア…聞いて?」
「…何だ。」
「ずっと言いたかった、なんて事は言えない。」
電話口に聞こえる深呼吸、今この場だけは、全ての喧騒が消える。
「ごめんなさい。」
「っ…!」
「あの時の事、覚えてるよね?」
湖での逢瀬、それはリーヴィアにとっても、引摺り続けた過去。
言ってしまえばただの子供と子供のいざこざ。
しかしそれは時に、仲の断裂になりうる。
「来れなかった、のか。」
「それについても、ごめんなさい。」
「来なかったんだな。」
あの時、あの場で起こった拗れはいつしか、一生分の諍いとなっていた。
「…また、遊んでくれる?」
「………」
その語句は、あの時のまま。
変わっていない、仲直りの言葉。
「水鳥遊び、しよ?」
「冷えるから、少しだけだぞ。」
その語句も、あの場のまま。
変わらない、水魚の交わり。
「えへへ…」
「さて…」
「「やろうか。」」
刎頸の友同士、眼前の敵に対し再度同心協力。
「皇帝、ステージに上がれ。」
真に良作は、逸脱者も浮浪者も愚者も関係無く舞台へ昇華させる。
差し伸べられた手は大きく、歴戦の古傷が刻まれていた。
「…余、は。」
打ち砕かれた心に、心を揺らす劇は有効だろうか。
「…心とは、何だ。」
しかし、既に解は得ている。
「どこにある、余の歌には何故無い。」
魂を、或いはそれに準ずる。
神秘を揺らせば良い、それだけのこと。
「ああ、そうだった…余の劇場は、街が燃えた後に建設したのだったな。」
振り絞れ、どうせ後も無い。
神秘を燃やせ。
自身の持つ全てを賭けろ。
「貴様に、応えよう。」
麗人の手を取り、幼童は立ち上がる。




