40.
さて、状況を整理しよう。
相手は幼童、持っている武器はおそらく不可壊の片手剣、グラディウス。
聖句を記したページは効かず、物理での攻撃もまた同じ。
神秘はおそらく劇場という自分が好き勝手に出来る空間の顕現、何の聖遺物を喰らったかは不明だがネロを自称。
引っ掛かる点、一つは物理攻撃、二つは…勝てるかどうか。
脇腹に当たった戦車のせいで骨がズタボロ、光圧体ブレードも限界寸前。
使える思考リソースも切れてきた、何故キアラが兄と共に現れたのか、その兄は何故唐突に消えたのか…
「勝つしかないって事か?ふん、上等。」
辿り着いた結論はただ一つ、電話とやらを待ち、耐え凌ぐ。
"では行くぞ。"
迫る轟音、右と左。
避けるのも交わすのも無理、なれば
「でぇいっっ!!」
根性あるのみ、右を斬り伏せ、左が到達する前に叩き斬る。
「ローマの歴史が!職人が6世紀掛けた剣だ!」
「そう簡単に壊れてもらっちゃあ…っ困るんだよッッ!!」
次々と襲い掛かる火矢に投槍、関係ない、それら全てを真正面から迎え討つのだから。
「お気にでも召してみろッ…皇帝!」
"……騒々しい。"
「狂詩曲は嫌いっ…らしいな…っ!」
持てる全てを賭け挑む、培った全てを用いて近付く。
進め、進め、どれだけその姿が醜いとしても、手負いの獣ほど美しい生命は居ない。
"くどい、くどい、くどい…"
劇場、それは作家の想像力が及ぶ限り世界を構築出来る至高の舞台。
"しつこい、しつこい、しつこい…"
されど、才能無き者には梯子が降りない。
"ここはッ!余の劇場だぞ!"
共演者に暴言を吐くようでは、無論ままならない。
"死ねと言ったら死ぬのだ!余は皇帝ぞ!"
「わがままも…っいい加減にしろ、ここはローマじゃない!」
麗人が合間、石を振りかぶり…
「貴様はただの―――」
投げる、決め手と言える激情の攻撃。
「傲慢な子供だッ…」
"―――ふざけ…!」
長引いた戦闘に血飛沫が舞う、ただの石が無敵とも思える幼童の顔面にめりこんだ。
「はぁ…はぁ…っQuesta è la fine.」
幼童は転げ回り、痛みに声と称せない声で叫ぶ。
その時だった、一つの着信音が鳴り響く。
電話だ。
「pront?」
「リーヴィアちゃん。」
キアラの声だ、しかし、違う。
どこかが。
「ダメだよ。トドメは。」
「…誰だ。」
「…そうだね、せめて言うなら。『キアラちゃんじゃない』かな。」
声色、音の強弱は同じ、しかし口調がおかしい。
そう直感が告げていた。
「だいじょうぶ、私は味方。」
「みーぎ、ちゃぷん。」
発したその語句は聞き慣れた、あの湖で何百回も行った遊びの一節。
リーヴィアの身体は反射的に右へと傾く。
「なっ……!」
困惑と驚愕が入り交じった声で鼻血を垂らす幼童、それもそのはず、不意討ちの投槍が避けられたのだ。
「じゃあ、頑張ってね。応援してるよ。」
「なぜだ!なぜだ!いっいま!余は…っ!」
電話の向こうで、ノイズが走る。




