39.
「attenta!」
幼童の袖から飛び出る刃先を男が蹴落とす、早い。
「ないすお兄ちゃんっ!」
見れば担いでいるキアラと同じ髪、同じ瞳を持っている。
リーヴィアはこの男を知っていた、幼少の頃何度も見聞きしていた、キアラの兄だ。
バチカンの枢機卿である彼が何故ここに?その問いは、この時点では不要だ。
「助かった!感謝する!」
「礼は後でお願いしますよっ」
横目に光る男の光輪、それらが残像を作るほど早く、鋭い風切り音が鳴る程の回し蹴り。
「っリーヴィア…これ…っ!」
顎に蹴りを食らい吹き飛ばされた幼童の傍ら、キアラから手渡される端末。
「はっ?電話?」
「…信じて!」
単なる一言、これまでならどこ吹く風であった。
しかし、どうしてかたった三文字の言葉には純粋で混ざり気のない心が込められていた。
「うわわっちょ、なにこ…」
途端、男は光に包まれ担いでいた妹をぽすんと落とし跡形もなく消える。
「ッあぶねぇ―――!」
「―――っわ…」
瓦礫から飛来する一つの刃、キアラの頭部に到達するより先に動いた者が居た。
「あぁクソ!い゛ってえ…!おい゛!あたしこいつ連れてくからなっ!」
「…ああ!」
自らの肩を犠牲にキアラを救い突き刺さった刃が与える痛みに咆哮を挙げる、ひまりだ。
「っリーヴィアぁ…!みずとりあそび…っ!」
「なっ…」
両者にしか通じない合言葉を口にして、キアラの背はひまりと共に小さく遠ざかる。
そしてその刹那
"Ibis ad crucem"
握り拳で親指を天に掲げ、静かに激怒する幼き容姿の皇帝が土煙から現れる。
「でんわっ!でてっ!」
"余の忍耐も最早これまで、劇の理を破壊せし道化など、歌劇に要らぬ。"
過ぎ去るひまりとキアラには目もくれず、その矮躯は麗人に向かって歩を進める。
"次から次へと出てくれば、即座に退場…機械仕掛けの神もここまで来ると見るに堪えぬな。"
「………私に上訴権は?」
"今、この場においては抵抗のみだ"
第5代のローマ皇帝を自称する幼童から告げられた死刑宣告。
しかし麗人は、どこからか無尽蔵に湧き立つ希望を抱いている。
「Bene. Facciamola finita.」




