38.
「生きてた頃と同じ!鉛でも食らってな!」
第二幕の開幕は、発砲音で行われた。
そして、撃ち出された銃弾は懐に忍ばされていた短剣で容易に弾かれる。
"ふむ…時に極東の女子よ、そのバリスタのような鉄の弓は何だ。"
「はっ!こいつは銃ってんだよ、あんたの時代には…てかなんで日本語…」
"なるほど、此れと同じ様な物か?"
刹那、ひまりの頬を掠める何か。
「……ぁ」
予備動作は無かった、はずだ、しかし現実は顎に血を伝わせる。
"pilum…重投槍とでも訳そうか。"
"余は歌人ぞ、古今東西の者に劇を伝えなくては名折れも名折れ。"
"しかし予想外というべきか、失望と称すべきか…"
刃毀れの刀と銃を持ち飛び出しては相手に越され呆れられる始末。
"飛ぶ鳥を落とす、まぁ余の場合、飛んでもいない雛鳥を潰した訳だが。"
「くっ…」
"というより、余は先の麗人と剣を交えていたはずだが?"
「…一つ教えてやるよ、雛鳥っつーのはな、巣で親鳥を待つもんだぜ。」
口を開け餌を待つ雛鳥に毒牙を見せる蛇…
「私は槌では無かったのかぁっ!ヒマリぃーっ!」
啖呵と共に、蛇を啄まんとする親鳥が助け舟を投げる。
"っ鞘…まさか…っ?!"
「明朝家流居合抜刀術が三本目。」
片割れに浴びせた構えからなる睨み、ネロは瞬時、直感で理解した。
「"無心無刀"」
「ぁが…ッ」
威圧とも、恐怖でもない。
『斬る』という意思の強制伝達。
生物は、恐怖に対し闘争 逃走 凍結、fff反応と呼ばれる中のいずれかを起こす。
「余にっ…なにを…」
「それは言えない、門外不出だからな。」
あの時と同じ、ダンテの名を騙る聖遺物喰らいへ浴びせた獲物が切られたと錯覚させる一手。
「っ…決まったぁ…!」
「…調子の良いヤツだ。」
「へっ、まぁほら、早いとこトドメでも頼むぜ。」
アイコンタクトで催促される決め手の一撃、しかし今のリーヴィアには一つ思慮が残っていた。
あれだけ剣と剣の応酬をした、肉を切って骨を絶ち、感覚はあった。
手応えがあるのかないのか、確かに在るはずなのに、攻撃の結果が緩衝されているような。
勘や直感がこんなにも違和を告げているのに、あっさりと終わるだろうか?
「………」
「お、おいっ?何やってんだよこれ結構キツいんだぞ?」
答えは否、経験則上あり得ない、拘束は出来て、攻撃は通らない。
何か、仕組みがあるはずだ。
「…くく、この余がまさか磔にされようとはな。」
「さてどうする麗人よ?」
「敵はここだ、それも首を曝け出している、絶好の機会ではないか。」
幼童はわざと硬直した体を捻らせ首筋を見せつける。
「…っ!」
理由は自分でも分からない、しかしその仕草がどうしようもなく神経を逆撫でした。
「ぁああっ!望み通り叩き斬ってやる…っ!」
刀身短き光圧体の剣が幼童の首に振り下ろされようとしていた、その時だった。
「fermati!」
聞き慣れた言語が陽の落ち切ろうとしていた劇場に鳴り響き、リーヴィアの手が止まる。
「なっ…ヴァージル?!」
「ヴェルギリウスです!リーヴィアさん!」
声の主はいつぞやの、在りし日に出会った男。
「っうえ…た、たすけに…きたよ…」
そして、男が担ぐは顔色の悪いキアラ。
"くはは…っ!ようやっと隙を見せたなぁ!"
どよめく刹那の状況、ひまりの集中が寸での所で途切れる。
「ッやべぇ!避けろ!」
先に届くのは怒号か、幼童の仕込んだ暗器か。
………さて、見物だな。
ここからどうするかはお前次第だぞ、小娘。




