37.
「いだだだだッ?!おい!力強過ぎなんだよこの…このー…女!」
「リーヴィアだ!さっさと覚えろ!」
火花散り、剣戟咲き乱れる戦場はいつの間にか防戦一方と相成っていた。
"女子一人担ぎ、不慣れな剣で未だ抵抗するか!尊厳死を選べば介錯してやったものを!"
迫る幼童の剣術は褒められた物ではない、では何故ここまで追い詰められているのか。
その理由はただ一つ。
勢いだ。
隙はあった、脇下、側頭、踏み抜く脚部。
それを踏まえても尚、手負いの獣が如くただ前進を繰り返されていた。
「っぁああ…ッ!」
"おお、豪気!"
膠着というには余りにも押されていた状況を鑑みてか、負傷前提で即興の燕返しが行われる。
直後、走り。
遮蔽へ一直線に。
なりふり構わず隠れる。
一瞬の動作だった。
「っいいから早く使い方を…!」
捻り出した語句は真に困窮極まっていた。
「ああもう…!分かったからそれ貸せ!」
鞘を失った刀がひまりに手渡され、激しい徒労の果てに刀身に残された損傷を見て悲哀が巻き起こる。
「うっわ…こ、これ…これマジか…一つで三桁万円するのに…」
「なっ…わ、悪かった、だが手元に剣が無かったんだ。」
「ぁー…じゃ使い方だけど、そもそも鞘の無いこいつに機能は無い!あれ取ってこなきゃ本領発揮なんて夢のまた夢だ。」
指差す先には無残にも転がった機械式の鞘、同時に、光圧体ブレードの柄までもが落ちていた。
「鞘さえありゃあたしでも加勢出来る、今は…こいつしか。」
懐から先に幼童を貫いた拳銃が取り出される。
「…お前、剣士じゃなかったのか。」
「は?いやあたし侍でも武士でもねぇし…」
無銘の黒い銃身が両手で持ち上げられ、スライドが引かれる。
「いくぞ、鉄床戦術だ。」
「…囮作戦か?!」
「もちろん、囮もとい鉄床役は…任せな。」
物陰から一人の女が姿を見せる、手の震え、下肢の痛みをもってして。
「おら来いよ金髪慧眼!あたしはここだぞ!」
叫ぶ語句は虚勢そのもの、だがしかし、それが幼童の心を奪った。
"…良かろう、劇には道化が居なければならぬ。"
鉄床戦術、それは低機動かつ耐久力のある兵科を囮に敵を引き付け、対して高機動の兵科で叩く昔ながらのドクトリン…
"ローマの第5代皇帝たる余が眼前の女子と相対しんぜよう!"
この様子を、鉄床とそれを叩く槌に例えたのが語源である。
そして、当状況下において鉄床はひまり、槌は…
「頼んだぞ。」
「…頼まれた。」
鉄床の影に隠れ、飛び出す機会を伺う麗人その人。
「第5代…ね、紀元前の人間と戦うのは初めてだぜあたしッ!」
"極東の人間と逢瀬を儲けたのは余も初だッ!"
鬼が出るか蛇が出るか、ひとまずこの場においては、ヒトのみがその身を白日の下に晒していた。




