36.
「あのね、リーヴィアとわたしは…幼馴染なの。」
「知っている。」
「ずっと仲が良かった、ほんとうに。」
記憶は八年前を掘り起こす、それは例えるのなら桃源郷、泉に映るは懇意の関係…
「あのね、わたしって…生まれつきこうなの、髪の毛も、目の色も。」
「見れば分かる。」
「眼皮膚金皮症…アルビノの一種なんだけどね。」
それはかつて、放浪すら経験していないリーヴィアとの永遠にも思える時間。
「光に弱くて…身体も弱くて、それでもリーヴィアはわたしと普通に接してくれた。」
「さぞ嬉しかったろう。」
「もちろん、名前も付いてない湖でね、毎日遊んでた。」
思い返せば幾百と蘇る、若き日の麗人が見せた呆れ顔。
「あそこの水は冷たくて…気持ちよかった。」
「永遠とは、没落するものだ。」
水辺に映るのは若き日の自分、それは、いつも笑顔だった。
「いつの日だったかわすれちゃったけど水浴びした後、わたしは濡れた身体を拭かなかった。」
「冷えちゃったわたしの体は体調を崩して…次の日は遊びにいけなかった。」
「…言えなかったの、ううん、言わなかった。」
雨が降っていた、それでも麗人は待ち、友人の居場所を雨風から守っていた。
ここが壊れれば、あの友人は病床だけが全ての世界になってしまうから。
そう、思ってしまったから。
「ごめんね、って言えたら、どうなってたかな。」
「その日からリーヴィアは、遊びについてきてくれなくなっちゃった。」
「矮小な綻びだな、つまらんいざこざよ。」
「それでも、わたし達にとっては大きい断裂だったの。」
過去の過ちは消えず、たった一言口に出来なかっただけでヒトは仲違いを起こす。
しかし、当事者にとってはそのたった一言が何よりも重大なのだ。
「仲直りしたい、またリーヴィアと遊びたい。」
「わたしはどうなってもいい、なんて言わない。」
「無傷でわたしとリーヴィアを助けて。」
欲望の声は止まらず、神格が受肉した人間が人間らしく振る舞う。
「…あなたになら、出来るでしょ。」
「………」
「わたしの中に居る私さん。」
驚嘆の小さい叫びが漏れる、身体を共有した同居人の叫びだ。
「気付いてたよ、ずっと。」
「…なるほどな、貴様の意図が分かってきた。」
「だったら話は早いよね、王様。」
何も出来ない、何も出来なかった少女の首に正負剣が突き立てられる。
「…わたしは赤裸々にはなしたよ。」
「そろそろイチジクの葉を脱げ、ティファレトよ。」
「………乗せられちゃったね。」
自己と他者を区別し、それを比較する意識。
それがイチジクの葉の本質。
「対価交換だ、小娘。」
恥を覚えた原初の人間は腰に葉を巻いた、そして今、彼女らは葉を下ろす。
「私達を手玉に取るなんて、凄いね。」
原罪は消えない、私は裸だ。
裸である私は恥ずかしい。
されど、羞恥を知り私は人間と相成った。
「完成された小娘よ、未完成の人間として"お前"を認める。」
「そして、契りを交わせ。」
「一つ、必ず死ぬ事。」
「二つ、必ず苦しむ事」
「三つ、必ず失敗する事。」
原罪を背負いながらも腰に巻いた葉を脱ぎ捨てる、その代償は苦難が付き纏うだろう。
「おめでとう、キアラちゃん、そして…さようなら。」
「私からも、約束ね。」
「愛を尊ぶ事。」
「芸術を生む事。」
「挑戦に価値を見出す事。」
けれど、その苦難には愛し、学び、作り、慈しみ、星を見上げれる肉体が必ず在る。
「これを破った時、必ずお前を殺す。」
「これを破っちゃったら、悲しくなっちゃうな。」
今、無垢で幸福な存在から、最も自由で最も苦患に満ちた存在へとキアラは昇華する。
「ふふ、もちろん。」




