35.
「ここは…っ!?」
瞼を開けた先に広がる光景は白とも黒とも称せない単一の知覚不能色で埋め尽くされた場。
「余の前である、まず場所の問いより平伏しろ。」
響く声はどこまでも届き、躯体を震わせる。
「っく…な、何…いったい…」
「貴様を助ける義理も恩も無いが、『内』には用があるのでな。」
「どういうこと…!隣の人はだれ…っ!」
『お気になさらず、■はただの語り部…王の従者に過ぎませんが故。』
「っあたま…いた…!」
「人の身でマルクトの声を知覚するはさぞ苦しかろう、耳を貸さない事だ。」
謁見の間にはいささか適さない場ではあった、しかし獅子は獅子、虎は虎という言葉が示す通り王ありし所に玉座ありである。
「さて小娘、余は2つほど問いが貴様に残っている。」
「……それは?」
困惑下にて、諦めにも近い応答が返される。
「1つ、貴様の中に居る、或いは同化している存在について。」
「2つ、貴様が何を成したいのか。」
「…ずいぶんと抽象的だね、意図がわからないな。」
提示された問い、その一つが過去の記憶をまさぐり追いかけ回す。
「貴様が知り得ようがいまいが関係は無い、さっさと出てこい、ティファレト。」
「…だいじょうぶって、言ったでしょ。」
「言うは易く、だ。」
行うは難し、事実一方では乱戦の真っ最中、剣と剣がしのぎを削る渦中に友人が置かれている。
旧友であるリーヴィアを助ける事も出来ず、成した事はひまりへのか細いモーニングコール。
「あの子なら、ちゃんと切り抜けられるよ。」
「『きっと』の間違いであろう、虚言はよせ。」
自己に宿る者が何なのかすら分からず、身体も弱く、何も出来ず。
その実態は枷を付けられた囚人に近く、最も乖離していた。
「黄金の太陽が見るも無惨だな、調和を謳っておいて、貴様とお前はまるで同化出来ていない。」
「手厳しいね、それで…どうしたいの?結局。」
「余にはお前へ手を加える王権が、責務がある。」
部下の不始末を上司が処理するように、監督責任を王は分離という体で負おうと剣を取る。
「…この子とこの子を離したら、本当にただのか弱い人間になっちゃうよ。」
「…人間の事なぞ、毛ほども興味はない。」
正負剣の刀身が露わになる、言葉の末尾はどこか憂いを含んでいた。
「然らば…然らば死ね、ティファレト。」
「―――まって!」
声が響く、それはまるで、獅子に立ち向かうイナゴのよう。
「…ふたつめの質問、こたえるよ。」
「ほう、容姿に恵まれただけの凡夫である貴様が何を言うか。」
息遣いは揺らぎ、震える手は怯えを表す。
しかしその目には、曇りの一切が消えていた。
「救いたい、リーヴィアを。」
「わたしだけじゃ無理、だからあなた…あなた達の力を貸してほしい。」
「高慢な、何故余がそれをしなければならん。」
「ふふ、じゃあ訂正するね、わたしの指示に従ってほしい。」
切られた啖呵には自信が溢れんばかりに注がれ、小さいながら強固の拳は胸の前で握られる。
「これはわたしのエゴ、わたしの都合で、わたしのわがままであなた達を従わせる。」
「…聞こう。」
「うん、言われなくても聞かせる。」
決心の源泉はどこから湧いたのか、どこまでも傲慢で、驕り高ぶり、虚飾に満ちた…
されど、偽りのない自語りが始まる。




