26.
官邸、アイリスの花が咲き乱れる庭にて。
「南西つったって!どこ目指すんだよ!」
「…もうここらで良いだろう、ヒマリよ、聞け。」
「っは?な、なんだよ、急に…」
王はひまりを見下げ御言葉を授ける。
「良いか、これより我らが目指すは白亜の教会だ。」
「はく…またそれは何で。」
「これを見よ。」
王の手中に収まるはテットの計測器、去り際に官邸から接収してきたのだ。
「いや、盗みじゃん。」
「言を慎め、さっさと液晶を見よ。」
手持ちサイズの計測器は解像度の粗いイタリア地図を映す。
そして赤や青の色が分布となり地図を埋め尽くしていた。
「…なにこれ?」
「"確率値"とやらだ、何でも深い青の地帯は何が起ころうが道理となるそうだ。」
現在地である官邸は吸い込まれるような青に染まり、運河を跨いだ先の市街地は赤く塗り潰されていた。
それは暗に、王当人の存在が如何に現実へ影響を及ぼしているかを示していた。
「…?あ、そういうこと、じゃ青色のとこ行きゃいんだな?」
「そうとも限らん、現に…」
いつの間にか現れた収束剣のサメフが微弱に発光しながら振られる。
液晶は途端に減少した確率値に反応を示し、警告音を響かせる。
「こうして、隠匿が出来る。」
「んじゃどうすんだよ、相手が隠れてるかも知れないんだろ?てかそれ使えば良いじゃん」
「今、節制は消失した、お前のくだらん隠し事を使い切ったからな。」
収束剣が起こす事象は蓄えられた、言わばリソース式の機密によって引き起こされる。
そしてひまりが王へ伝えた機密は官邸への移動、書類、賽、先の秘匿にて、既に枯渇している。
「ふーん…え、またあたし秘密言わなきゃいけないの?!」
「その必要は無い、同一の者は二度と蓄えれんからな、…というよりアレ以上の機密等無いだろう。」
「じゃ一旦戻るか?他の奴から秘密聞けば…」
「その必要も無い。」
冷徹に吐かれた言葉は直ぐに空気を静寂へ変える、花のざわめきがうるさくなるほどに。
「…尾行者!これ以上の不敬は許さん、御前にてその身を顕せ。」
息を吸い、張り上げられる声。
彼の者は告げる、執務室を出た時からの気配へ。
「キキキ…」
「うわぁっあ!?あの時の!」
「…やはりな、訳は知らんが何のつもりだ無礼者。」
花畑から顔を覗かせ、歯を見せた笑みを浮かべるは先に離席していたダンテ当人である。
「キキ…まぁそう憤るなmonarcaよ、ここは一つ、その装置を見逃す事で穏便に済まそう。」
「良い、手打ちにしてやる、そして余は皇帝ではなく王である、覚えておく事だ。」
交わされた手はどこか軽薄で、掴み所の無い印象を抱かせる。
「余の情動は手打ち、が訳への問いは未だ残っているぞ。」
「え無視!?なっなんだよさっきまでめっちゃあたしに構ってたじゃん!てかあのテンションはどこに…」
「それは言えないな、何せ国家機密だ。」
彼の笑みはどこか、イナと共通した要素を思わせる。
政府関係者である彼の、曖昧な発言は日々の答弁で鍛えられたのか、はたまた…
「…嘘を吐いたな、先の尾行は私的な物だろう。」
「キキっ…それも言えない、何せ国家機密だからな。」
「…このまま無視されるパターンね。」
動向すら、尾行の真意まで煙に巻く態度は憤りを増長させる。
「なに?貴様はただの為政者であろう。」
「私こそが国家だ、そして国家の外には人間的、精神的、情報的価値は無い。」
紡ぐ言葉は民主主義の国家、その為政者とは思えない意味を孕んでいた。
「思想つよ〜…」




