23.
「言っている意味が分からないな。」
その場に張り付けられたように俯くリーヴィアを横目に、渦中でも尚そのペースを乱さず氏は言葉を返す。
「わたしはわたしだよ、役職…とかはあんまり分かんないな」
「論点を変えちゃうけど、あなたこそ自己崇拝に興じているんじゃないのかな?」
睨みを意に介さず、その緩んだ糸のような声は続く。
「じぶんを王様だ〜…って、それにさっきの言葉は人格否定、だよ?」
「傷付いちゃうな、そういうの。」
限界まで張り詰めた空気の中、菓子を齧る音がその緊張を解く。
「っキアラ…」
「しー、だいじょうぶだよ、リーヴィア。」
ようやく凍結に近い恐怖が解けたリーヴィアは口をその細い指で塞がれる。
「あなたも。大丈夫だよ、私は此処に居るから。」
「…読みは当たったな。」
「あの山羊の子とはもう会った?私は二元性を貰ったの。」
「だから…良いの。ね、だいじょうぶだから。」
それは確かに同じだった、声色、口調、表情の全てが。
しかし10余年もの間時を同じくした幼馴染であるリーヴィアは彼女を"別人"と認識した。
「…悪かった、二度と同じ真似はせん、これは余の過失であり過ちと見做せ。」
しかしリーヴィアは黙る、剣すら握らず。
そうした方が良いと思ったのだ。
「うん、なかなおり、だね。」
両者の対話が終わった時、ほんの少しだが不快な熱が冷めたような感覚が広がる。
「このお菓子、おいしいよ?おなかは空いてる?」
眩しかった金髪が、輝いていた王冠がその光を少しだけ収まった。
「…ああ、貰うとしよう。」
そんな気がした。
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「くぁ…ふぅ、で、ここからどうするのさー…」
建部が執務室へ戻り、今後を思慮する一言を小さな欠伸と共に投げ掛ける。
「…いかんせん、相手が相手だ、殆どの情報が分かっていない。」
「聞き込みを出来てないしー…そもそもあの子は誰なのー…」
「個人が何であるかはこの際良いだろう、あやつは手練れだ、明言する。」
高く評価を受けるひまり、しかし現状は…
「………」
「ぺ、ペンネームは星きらきら…あぇ、これ違うか…ぁ、あ!実家にめっちゃデカい鯉居る!名前はー…えと、あの…」
「な、なあっ!?何か言ってくれよ?!あたしもう結構話したぞ!?」
「………」
にこやかに微笑むイナの一挙手一投足に怯え、"取り調べ"を受けていた。
「え゛っそのスプーンなに!?いや〜…!助けてくれぇ〜…!」
彼女の悲鳴はただ密室に消える、地下の薄暗く冷たい雰囲気に呑まれて…
「…あの女の子はその、せいいぶつくらい?に会ったんでしょ?囮にするのはどうかな?」
「は!笑えるがそれをするのなら余が適任であろうよ。」
「ふふ、またそれはどうして?」
上階は地下とは打って変わって非常に和やかな空気に包まれ、冗談すら交わされていた。
「推測に過ぎんが、もし奴が神秘に反応し能動的に攻撃を行う原始的存在であれば…"節制"」
覚えのある閃光が走り、瞬きのうちに書類がひらりひらりと空を舞い机上に着地する。
「便利な物だね、それ。」
「ど、どうしてもっと前から使わなかったのー…」
"生体に未知の物質を発見、含有量は100%"書類に記された文は、覚えのある筆跡で記されていた。
「強い神秘に強く反応する、それが道理だ、あくまで仮説に過ぎんがな。」
「…タテベ、あの室長に伝えてくれ、落書きを抑えろと。」
「う、うん…」
続く文章は王の生体を詳細に記述していた、が途中で挟み込まれる冗長で回りくどい補足と極めて幼稚な落書きが品格を落とす。
「良い機会だ、神秘について語ってやろう。」




