156話 天女の贔屓
漸く明かされた最都の戦力妖怪。知っている妖怪、妖怪なの?っていう妖怪、ガチでヤバい怪物を手懐けた玉藻前の実力は恐ろしいもの。メデューサはどうするのか?これに関しては、まだ伏せます。
明日は家族の誕生日なので、お休みさせていただきます。次の投稿は3月2日に致します!
3月8日は自分の誕生日なので、その際、pixivの短編集で特別なイベントを開催します。以前やったような、他作品のキャラクター達の談笑会のようなものです。この作品と、オリジナル、二次創作を掛け合わせたものなので、ご了承ください。
天女は少し嬉しそうに声を漏らす。
「んふ、よく知っていること」
認めたのだ。
そして、メデューサは心底から震える。
「今から100年前……怪都の守護者交代の時に誕生した誰も知らない第四の都市。人間界で最も知名力と無尽蔵の凶暴性を持つあの集団の親玉が……まさか、天女様とは⁉︎」
笑みが悪魔のようにも思え、先程の怒りが鎮火していく後引きを感じた。
「天女様と言われて嬉しいぞ。だが、その先を知りたければ、もし、その伝承から解き放たれたければ…話は別だがな?」
選択肢を与える。
メデューサに断る理由がなかった。
自らの憎しみを思い出させてくれた恩人であり、互いが人間を憎む同士として敵心など一切ない。
寧ろ、心の底から彼女に救われたという気さえ感じている始末。
それが自らの意思ではない事に気付かず………。
「教えて…くれるんですね。でしたら……私のこの身体をまず…」
強い憎悪で立ち上がった体は既に限界など超えている。気を失いかねない状況に違いない。
意識が途切れそうになり、思わず地面に倒れかけた。巨体である体が天女へ倒れる。
しかし、フワッという柔らかな感触に地面を阻まれる。
天女は自らよりも体の大きいメデューサを尻尾で支え、自らの神聖な狐尾に頭をもたれさせる。
とても大きく、メデューサという怪物の巨体を軽々と支えている玉藻前が微笑む。
「無理はなさらないこと。ワタシはあなたの味方です。その身を蝕む陰陽術の毒を取り祓い、その肉体を癒しましょう」
声に変化が起きた。
優しく心地のよい声が耳に入ってくる。メデューサは思わず他人かと思い、その人物を見ようと気をしっかり持つ。
「っ‼︎殿上人……⁉︎」
不意に支えられた感覚を感じ、目が一時的に元の視力まで戻った。
メデューサの目は天女と思い込んでいた人物を映した。
その目で見た瞬間、メデューサの心は完全に堕ちた。
天女以上の想像上の姿だった。
白い衣と青い羽衣のような装束を纏い、その身に豪華な金色はなく、純白を着飾った魔術師のような霊装。
霊装だけに狼狽えたわけではない。
その圧倒的な神聖な妖力の存在感と神々しい尻尾の存在が強く印象に残る。
見たことがなかった。これ程までの存在感を放つ妖怪や人間は見たことがなく、邪蛇である妖怪とでは妖力の純度が桁違い。神話の怪物であるメデューサを飛び抜けた神聖な聖獣を感じた。
それもその筈。天女と思われていた人物は妖界における超危険人物として名を知らしめている妖怪なのである。
「ワタシの片割れが無礼を働きました。どうかお許しいただきたい」
先程の人間への恨みある人物ではなく、お淑やかに謝罪する女性がいた。
雰囲気が全く違う彼女の態度に、メデューサは顔を赤らめて戸惑う。
「い、いいえ……」
「少々強い衝撃を感じられると思いますが、今から浄化致します。堪えて貰うことを強要するでしょうがご辛抱のほうお願いします」
そう告げると天女は自ら腕を切り込み、メデューサの口に天女の血を飲ませる。
血に浄化能力があり、如何なる呪いや陰陽術にも絶大な効果をもたらす。
天女の血を飲んだメデューサの体から蝕むものが消えていく。妖力を息を吸うように取り込めるようになり、急速な回復が起き始める。
「ワタシの血には陰陽術に対する解毒作用があります。これを飲み、あなたの体は元に戻ります。そして、是非ともメデューサ殿のご協力を仰ぎたい」
「……はい」
天女の頼みにメデューサは嫌な顔一つせず返事をした。
天女…否、玉藻前はメデューサの懐柔に成功したかを確認し、自らの野望を打ち明ける。
「血濡れた身体をまずは洗浄させて貰います」
玉藻前が体に触れると、一瞬で血が綺麗さっぱり消え、服は新たなものに取り替えられる。元々着てはいないが、白いローブで巨体の裸部分を隠す。
「ありがとうございます」
「これで話す立場は一緒。今から話す内容と条件として、次に、あなたに新たな人生を与えましょう」
「人生?ですか…」
「はい。今から、あなたに名前を授けます」
しかしこれは、“ある禁忌”に部類される『名付け』である。
メデューサは動揺を隠せない。自らに禁忌を向けられるとなると焦るのは当然だ。
「何をおっしゃると思えば…あなたは禁忌を犯してこの私を殺す気ですか⁉︎」
名を受けた妖怪の末路を知らない筈がない。玉藻前を無知な妖怪だと一喝する。
しかし、玉藻前は禁忌を呑ませる思案を持っている。
「安心しなさい。ワタシを天女様と崇めてくれたあなたを殺すことなどあり得ません。ワタシは『九尾狐』の末裔の純妖ですが、この世界の神秘の秘術が扱えます。禁忌に触れず、あなたの全盛期の力を与えることが出来る力を持っている。その力を持ってすれば、“ある禁忌”など恐るに足らないこと。どうです?受けてみては」
手を差し出す。この手を握る事を承諾の意があるとして差し出したのだ。
メデューサは玉藻前に疑問を投げかける。
「それは、本当に出来る…ものですか?失敗などすれば私は…」
不安がまだ根付くメデューサに玉藻前は優しい微笑みをみせる。
「失敗などしたことがありません。現に『両面宿儺』と『ファントム』、『ドワーフ』、『メガロドン』、『ロボット』、『カリュブデス』、『エキドナ』と、ありとあらゆる形で自由を与え、最都へ招きました。もっとも…『両面宿儺』は、現代でその名が広まり続ける妖怪の為、今や“三妖魔”を凌駕する強者に至っていますが」
「現代妖怪、日本妖怪…西洋妖怪、それに…私と同じ神話の怪物が従っていると⁉︎」
「そうです。彼らの望みとワタシの利害が一致しているから従ってくれているのです。勿論、従わざる者もいたので、ワタシが直々にお相手しました。力による支配も容易いですが、出来れば対等で友好な関係を望みたいのです。人間以上の感情をぶつけて腸を見せるのもいいと思いますが?」
玉藻前は手懐けた妖怪を自ら明かす。
この事実は誰も知らない秘匿情報。そもそも、日本妖怪や西洋妖怪に属する妖怪を最都へ招く事自体が異例そのもの。
通常、三都市に属した妖怪はその都市から抜ける際に厳重な手続きが必要であり、“放浪者”や他の罪で追放される以外、容易に都市や荒野に移動することは禁じられている。
玉藻前が挙げた現代妖怪を除き、他の妖怪は彼女の独断と身勝手に連れ出して抜けた者達。
特に、『両面宿儺』の妖都抜けは大問題となり、密かに來嘛羅や他の太古の妖怪が探し回っている危険妖怪。その伝承は過去と現代の混合した伝承を持つ。
人災、災害、厄災と恐れられ、日本の都市伝説で最も災害を引き起こした妖怪。
妖界で一度も死亡しておらず、“太古の妖怪”ですら滅ぼせない。
それを危惧した來嘛羅や天狗、鬼が三人がかりで監視していたが、忽然と姿を消した。
見つけ次第、討伐が指定されている。
『メデューサ』もその一人に指定され、怪都より幾度なく妖怪や人間を派遣されている。
誰一人として、彼女の元に辿り着くことなく亡き者になったが……。
この事実を明かすということは、玉藻前がメデューサを引き抜く事を意味する。
メデューサの覚悟は定まらない。玉藻前を見たまま口を閉じる。
「………」
迷いに揺れる瞳。そして、希望を抱く時の縋りたい葛藤があった。
その態度を見て、玉藻前は彼女を手懐けられると確信する。
「迷いあるのならば止めても構いません。ワタシはあなたを責めることも致しません。名を捨てて望むものが手に入らないと思うならば、この場より立ち去って貰いたい」
敢えて後を退く選択を言い渡す。
だが、これは玉藻前の巧妙なやり口である。
最初に感情を引き出させ、それに乗った者に自らが出向いて恩を売る。その後、恩を感じた者がたじろぐのであれば逃げる選択を与える。
罪悪感を抱かせて逃げるのであれば、その妖怪はその程度でしかない。
恩を感じた者ならば、取る行動は必然的に絞られていく。
「天女様。私に名を付けることは、貴女様の力にはなれないかと…。もしこのままであれば…」
「それでは永遠に苦しむでしょう。今は万全な状態に戻ったとしても、いずれ人間に滅ぼされるか守護者に討伐されるかの苦渋の選択。ここでひたすら逃げて怯えますか?」
「もう……怪物扱いをされたくない。せっかく理性を取り戻せたのですから、この意識を永遠に味わっていたい」
怪物としての本能ではなく、理性ある妖怪としての智解。ここで逃げ、ただ待っていても、いずれは恐怖に支配される。守護者を快く思わず、人間に憎しみを抱く今、その憎しみを晴らしたい。
逃げれば繰り返す転生と苦しみ。だがしかし、この手を握れば………。
………。
……。
…。




