第七話……魔女とタヌキ
「なんだお前? 何をやっている?」
俺は相手が小さいことに安心感を覚え、小柄なタヌキに問うてみた。
「僕はポコ。お薬を貰いに行くんだポコ!」
この妙なタヌキ。
名前をポコというらしい。
「母上が病気なんだポコ。魔女にお薬を貰うんだポコ」
「……ぇ? 魔女だって?」
「うん」
俺は魔女という存在を、実際に存在するとは初めて聞いた。
空想の絵本の中に出てくるそれは、きっと怖いお婆さんと言った感じだろう。
「よし、俺も一緒に行ってやろう!」
「本当ポコ?」
「ああ」
別にタヌキに同情したわけではない。
魔女なら魔族に関しての手がかりがある程度掴めるであろうとの目算だった。
奇しくもタヌキが歩く方角は、魔法の方位磁石が指し示す方角と同じだった。
これはアタリだ。
俺はそう確信した。
□□□□□
険しい森を抜け、冷たい沢をふたつ越えた先に魔女の家はあった。
それは、石と木の板で作られた小さな小屋ではあったのだが。
「こんばんはポコ~♪」
ドアをノックするタヌキ。
俺は少し下がり用心をして備えていた。
ギギギ……。
扉が開かれたと思うと、中から出てきたのは半裸の美少女であった。
いや、後で知ったのだが、ビキニスーツと言った類の衣類らしい。
そして、目は澄んだように青く、髪は金髪であった。
しかし、少女とは思えないくらいの大きな胸。
まぁ、人間ではない俺が思うのもなんだが……。
「なんじゃ?」
魔女と思しき美少女は、あどけなさもなく、落ち着いた態でタヌキに接した。
「病気を治すお薬が欲しいポコ~♪」
「いやじゃ!」
すっぱりと断る美少女。
美少女の口調はどちらかと言えば、老女のそれだった。
やはり魔女なのだ。意外と実際の年齢は凄いのかもしれない。
「ええ~、こまるポコ。意地悪しないで薬をくださいポコ」
「薬とてただではないんじゃ。……そうじゃのう。わらわと喧嘩して勝ったらくれてやろう」
「ようし!」
タヌキはそこらへんでちいさな木の枝を拾い、魔女をペチペチと叩いた。
もちろん、何事も起きない。
「……つまらん」
魔女は片手にもった杖でタヌキを一蹴。
あっというまに勝負は決した。
「勝負はついた。薬はやらんぞ!」
「酷いポコ」
泣いてしまうタヌキに、同情はしないぞとの雰囲気の魔女。
タヌキに同情したわけではないが、俺はこの魔女に対して少し興味が湧いた。
「じゃあ次は俺が勝負だ」
「……ん? タヌキの連れか? 良かろう」
勝負を何にするかと問われたので、俺は腕相撲と答えた。
魔女と魔法で勝負するわけにはいかない。
腕力であったら勝てるだろうという目算だった。
俺は魔女に腕相撲のルールを説明する。
「……よかろう。お前が勝ったら薬をくれてやる。しかし、負けたら命を貰うぞ!」
……ぇ?
ちょっと待って?
負けたら殺されちゃうの?
「頑張ってポコ」
タヌキの訴えるような眼差し。
なんだか退けるに退けなくなってしまったようだった。
「用意、始め!」
タヌキの号令一下。
大きな石の台座にて、魔女と腕相撲を開始する。
開始早々、俺は有利に立ったのだが……。
「……ふふふ、勝ったと思うなよ! 【変身】じゃあ」
魔女は怪しげな魔法を唱えると、大きな逞しい牛の魔物に変化した。
物凄い体躯だ。
体重も600㎏はありそうな巨体であった。
……俺は途端に劣勢となる。
凄まじい力だ。
凡そ逞しい人間のそれと比較にならない。
「あはは。馬鹿な人間よ! 命をわらわに吸われるがいい。……だが、もしも勝てたなら、このわらわの体を好きにしても良いぞ! そんなことあり得はせんがな!」
「……くぅ」
俺は、胸部にある人工心臓に命令。
補助動力路である小型の核融合炉を点火した。
同時に爆発的なエネルギーが全身に迸った。
メキメキと人工筋肉が唸りを上げる。
「どりゃあ!」
同時に牛の魔物の腕をへし折った。
魔物の腕の肉が裂け、血が噴き出し、骨が露呈した。
凡そ喧嘩と呼べるような平和な解決方法ではなかったが。
「うぎゃああああ」
魔法が解け、元の姿になり、腕を抑える魔女。
痛みはあれども、怪我はしてない様子であった。
「勝負あったな。薬を貰おうか?」
「……よ、よかろう」
魔女は仕方ないといった様子で、小屋の中から魔法の薬を持ってきた。
俺はそれをタヌキにくれてやる。
「ありがとうポコ~♪ すぐに母上に持って行くポコ」
タヌキはすぐに前足で薬をもって走り去っていった。
奴は二足歩行でも歩けるらしい。
……しかし、あの薬は万能薬なのだろうか?
俺はタヌキの母親の症状を知らなかったし、魔女も知らないであろう。
そんなことを考えつつ、ふと目の前を向くと、そこには全裸の魔女の姿があった。
……しかし、こんな童のような女子に心を動かされるものか。
「約束通り、わらわの体が欲しくないのか?」
「……ああ、欲しくない」
「変わった奴じゃな」
魔女は露出の多い服を再び身に纏い、俺に近づいてきた。
俺の頬に手を当て囁くように問うてくる。
「……じゃがのう。わらわは命を掛けた勝負に負けたのじゃ。なにかしてほしいことはないか?」
つまり魔女は、俺に欲しいものは無いかと聞いてきたのだ。
「ならば、……」
俺は今、聖剣を探している旨を伝えた。
そのために良き協力者が欲しいと。
力ある魔女ならば、良き助けになるだろうと俺は踏んでいたのだ。
「……よかろう。どうせ暇じゃしな」
「有難い」
魔女はなぜか少し残念そうであったが、協力者として同行してくれるようだった。
「……では、契約をするぞよ」
魔女は顔を少し赤らめる。
まるで俺が彼女の初めて見る人間のような仕草だ。
……ぇ?
契約?
何のことですか?
その時の俺には、この言葉の意味の訳が分からなかった……。
☆★☆
お読みいただき有難うございます。
お気に召しましたら、ブックマークやご採点をいただけると大変嬉しいです。
誤字脱字報告も大変感謝です。




