第五話……魔族
……ギギギ。
重たい扉を開け、中へとゆっくりと歩を進める。
そこは大きな部屋だった。
天井に目を向けると、古びた燭台が吊るされており、蠟燭の炎でうっすらと明るい。
足元には赤い絨毯が敷かれ、この部屋だけは人が住んでいそうな気配だった。
持ってきた松明に火を灯す。
館の奥がだんだんと見えてきた。
目を凝らすと、奥の台座の椅子に青白い顔をした男が座っていた。
「誰だ!?」
俺は怖さを紛らわせるために、大声で問うた。
「誰だとは、おあいにく様だ。貴様らの方が侵入者ではないか?」
低く澄んだ良い声が返ってくる。
「ああ、邪魔したのは悪かった。ところでアンタ。女性をさらってはいやしまいか?」
「……ああ。攫っている」
クソ。
意味なく正直な奴め。
ということは、こいつが魔族様というわけだ。
「さっさと女性を返してもらうか? こっちの用はそれだけなんだ。何か条件があるならきいてもいいぞ!」
こっちもタダで返してもらえるとは思ってはいない。
しかし、戦闘が避けられるなら、それもまた一興であった。
「……くっくっく、おかしなことをいう奴だ。お前たちの目当てはあの女ではあるまい? この聖剣が目当てだということは分かっているぞ!」
相手は訳の分からないことを言いながら、一振りの剣を見せてきた。
「いや、女性さえ返してくれたら、なにもいらん!」
そう返すと、
「そんな訳があるまい。伝え多き占い師に、美しき蒼き星より転移してきた伝説の勇者が、今宵のうちに魔族を滅ぼしうるこの聖剣を求めて来ると聞いたのだぞ!」
美しき蒼き星だと?
コイツ、何を言っているんだ?
「……いや、俺が他所から来たのは正しいが、俺の故郷は赤茶けた大地だ。青い所なんて一か所もないぜ!」
そう答えると、青白い魔族の男は牙をむきだして、突如怒りに震えた。
「この偽物勇者め! 謀りおったな。 紅蓮の炎で焼き尽くしてこれん!」
魔族の男は魔法を唱え、大きなドラゴンに変化。
そのガタイに似合わぬ素早い動作で、真っ赤な炎を吐きつけてきた。
「……あ、危ない!」
なんと炎の行きつく先は、伯爵様の方向だった。
流石は『魔』と名のつく生き物であった。
「伏せて!」
俺は伯爵様に覆いかぶさると、急いで【電磁バリアー】のスイッチを入れた。
これで炎による熱は遮断できたはずであった。
この万能とも思える電磁バリアーの弱点は、空気も通さぬこと。
長く使い続けると窒息の恐れもあった。
「……き、貴様。そのような力を顕現し得ながら、勇者ではないというのか?」
こちらが炎に無事なのを見て、ドラゴンはそう言い、更に背中の羽を大きく広げた。
「もうよいわ。貴様等には用はない!」
そう言い残し、ドラゴンは天井に穴をあけ、夜空へと飛び立とうとする。
「逃がすか!」
別に逃がしてもいいのだが、個人的な感情だ。
俺は一度、ドラゴンというものを、やっつけてみたいのだ。
所謂、ドラゴンスレーヤーという奴である。
俺は飛び上がるドラゴンの尻尾を掴み、その先を切り飛ばした。
「ギャアアアア!」
「こらまて!」
残念ながら、俺はドラゴンに蹴飛ばされ、地面を転がってしまう。
そして、すぐに心配した伯爵が駆け付けてくれた。
「カーヴ大丈夫?」
「うーん、大丈夫かな? それより王女様を助けなきゃ」
「ああ、そうだった」
伯爵様が再び魔族のいた部屋に戻ろうとすると、俺はすぐに彼をおしとどめた。
「どうしたんだ、カーヴ?」
「いやなに、これを持って行って。ドラゴン退治の手柄はあんたのもんさ! 尻尾しかないがね……」
そう言って、伯爵にドラゴンの尻尾を手渡す。
「え、僕が倒したことにしていいの? 僕は何もしてないよ」
「まぁ、なに。二人で倒したことにしましょうや。その代わり礼金は弾んでくれよな」
「ありがとう!」
……まぁ、伯爵様が従者一名のみを連れて、化け物が巣食う古城から、王女様をお救いになりまいたとさ……。
なんかこっちの方が、お話としてもスッキリするしね。
「……でも、王女様はどこかなぁ?」
はいはい。
お任せください伯爵様。
と思いながら、【赤外線センサー】のスイッチを入れる。
もちろん王女様に体温がないわけがない。
彼女は近くの地下牢にいた。
どうやら、もう化け物の類は出ない様だった。
「俺は表を見張っていますね」
「ああ、頼むよ」
王女様と伯爵様を二人きりにして、俺は古城の中庭で焚火をした。
いろいろあったせいで、外の雨はやみ、空は夕暮れとなっていた。
そういや、昼飯食べてなかったんだよなぁ。
こんなんだと故障してしまうぜ……。
俺は魔法の皮袋から干し肉を取り出し、火に焙った。
炙った干し肉をかじりながらに、水袋に入れたワインを楽しんだのだった。
その晩。
すぐに古城を発ち、昼夜分かたず馬車にて駆けた。
金子に余裕があったので、集落ごとに馬を替えていった。
地下牢暮らしで体力の弱った王女様を、いち早く王城に届けるためだ。
まさか、王族を野宿させるわけにはいかなかったのだ。
――こののち、王女を助けたクリフォード伯爵は、ドラゴンを倒した勇者と称えられた。
やっぱり俺は、勇者様じゃなかったようだ……。
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