第四話……古城の死霊
ガシャーン!
石でできた門を潜り、中庭のような場所にでると、突如背後の門に鉄格子が降りてきた。
しくじったか!
逃げ道を塞がれた。
門扉が閉じていなかったのは罠だったらしい……。
「……ど、どうしよう」
「まぁ、そんなもんだ」
慌てる伯爵様にワザと呑気な返事を返す。
不味い状況であるほど、恐怖を助長しないように明るく努めねば……。
中庭は枯れた木々などが目立ち、この古城が廃墟である状況を補完してくれる。
さらに、急に空が曇り、薄暗い空から小雨が落ちてきた。
歩き疲れた体に、冷たい雨は堪える。
体温が徐々に奪われ、不味い状況が加速していった。
……。ガサガサ。
ガサガサ。
雨の音と共に茂みから音がした。
その方角を凝視すると、茂みの土がだんだんと盛り上がる。
そして、土の中から武装した兵士姿の骸骨がワラワラと地表に這い出てきた。
「ひぃいい!」
怯える伯爵様。
そして、カラカラと音をたて、ゆっくりと4体の武装した骸骨が近づいてくる。
「ギャハハ! 馬鹿ナ侵入者メ、ココデ躯ヲサラスガイイ……」
「!?」
なんだ、この化け物。
人間の言葉を喋るのか。
「お前たちのボスに用がある。お前たち雑魚に用はない!」
化け物を挑発してみる。
実は俳優のふりをして、一度言ってみたかっただけなのだが。
「用ガ、大有リジャネエカ! 殺シテヤル!」
正面の骸骨は剣を振り上げ、その刃を俺に振り下ろしてきた。
「いい太刀筋だ」
俺は刃を手の平で受け止め、そのまま剣を握りつぶした。
バリバリと音をたて、金属製の剣が割れて崩れ落ちた。
「貴様、人間ジャネェ!」
……。
一体どの態で言ってんだ?
俺の皮膚は難燃性の超強度生体繊維。
安物のレーザーサーベルだって弾いて見せるぜ。
俺は黙ったまま、骸骨の頭部を殴り破砕する。
そして、中から現れた魔石を握りしめた。
「マ、待ッテクレ。ソレヲ潰サレテハ、俺ハ滅ンデシマウ!」
なんと骸骨の化け物が命乞いをしてきた。
映画でも見たことのない展開だ。
ズッ。
どうしようかと悩んでいたら、死角から他の三体の骸骨が俺の背中に刃を突き立ててきた。
トムじいさんから貰った皮鎧が裂ける。
「クックック。油断シタナ。死ネ」
正面の崩れかけた骸骨が高笑いする。
歯の抜けかけた顎がカタカタと動いている。
……しかし、俺の上皮組織はびくともしない。
「やっぱり死ぬのは俺じゃない」
俺は掴んでいる魔石を握り潰した。
「ギャアアァァァアア!」
壊れた管弦楽器のような、骸骨化け物の断末魔の声が響く。
俺は体を捻り、回し蹴りでもう一体の頭部を破砕。
残りの二体は、右の正拳突きで胸部を破砕した。
「グエアァァァア!」
三つ揃った魔石を踵で踏み抜く。
ジャリジャリと小気味よい音を立てて魔石は割れた。
トム爺さんの本にあった通りだ。
モンスターは起動の核たる魔石を壊せば倒すことができる。
人間で言ったら心臓に当たるのだろうか?
「……ああ、ありがとう」
お礼を言う伯爵様の足ががくがくと震えている。
「ま、先に行こうや」
俺は伯爵様の肩を優しく叩き、励ます。
別に俺だって怖くない訳じゃない。
シチュエーション的には小便ちびりそうだ。
戦闘が終わった頃には、辺りに濃い霧も出ていた。
標高が高いせいだろうか。
日光が遮られ、見通しはさらに悪くなった。
中庭に敷かれた石畳に沿い、俺たちは歩を進めた。
そして、道は立派な建物に突き当たった。
朽ちかけていたが、城主の館と言った立派な様相である。
残念ながら、この扉は閉まっている。
ガチャ。
扉の冷たい金属製のノブに手を書けたが、どうやら鍵がかかっている。
「……ん!?」
背後に嫌な気配を感じたと思ったら、俺たちは無数のゾンビたちに遠巻きに囲まれていた。
……クソ。
アンデッド相手には、生体センサーの類が通じない。
体温も無いので、赤外線センサーにも引っかからないのだ。
言い訳としては、小雨の音と、霧が出ているのが手伝って、ゾンビたちが近づいてくるのが分からなかったのだ。
「ど、どうしよう?」
大きな声を出し、慌てる伯爵様。
……というか、あんたも戦場では指揮官階級だろ。
あんまり慌てないでほしいんだが。
なんといっても、俺までビックリするじゃないか。
ゾンビとの距離が近づくにつれて、だんだんと相手の様子が分かる。
体全体が衣類ごと腐っており、体組織が壊死しており紫色だ。
体表のあちこちに虫も這っている。
……き、気持ちわりぃぃぃ。
全部で23体と言ったところか。
のそのそと足を引き擦りながら近づいてくる。
見たくない気持ちもあるが、冷静に指差しながらに数えた。
こちらに有利なのは相手の動きが遅かったことだ。
「伯爵様、壁を背にして!」
「わ、わかった!」
怯えて足が動かないんじゃないかと危惧したが、流石はエリートといったところか。
肝心なところで機敏に動いてくれた。
俺と伯爵様は館の壁を背に、ゾンビたちと対峙する。
骸骨の化け物たちと違って、こいつらには意識や自我が無いようであった。
……いや、待て。
小さいながらに声が聞こえる。
よく耳を澄ますと、その声はゾンビ達からであった。
「……タ、助ケテ」
「体ガ痛イ。オ母サン、助ケテ……」
戦場でよく聞く悲鳴にも似た声であった。
こいつらは誰かに操られ、死ぬに死ねないのかもしれない。
こんな声を聞けば殴るのは気がひける。
というか触りたくないしな……。
「……よし」
俺は奥歯に隠したスイッチを入れ、口を大きく開く。
そして口腔の奥から、灼熱の炎を吐きつけた。
この炎の正体は、高温の気化熱ガス。
ガスは霧状で扇方に周りに拡散され、一気にゾンビ達を焼き払った。
「カーヴは魔法も使うんだね?」
敵を焼き払い、落ち着いたところで、伯爵様が話しかけて来る。
「ああ、そうだな」
御免。嘘です。
魔法の類は、一切使えません。
その後。
俺たちは力ずくで館の扉のカギを壊し、大きな門扉を開けたのであった。
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