第三話……ゴブリンの襲来
俺は馬車に揺られ、街道沿いの街に入る。
ここは既にクリフォード家の影響下では無い地域であった。
街の外からでも聞こえる祭囃子の音。
どうやら、ここの街では秋の収穫祭の宴が開かれていたようだった。
「お兄さん方、ブタの肉はいらんかね?」
「二つほどもらおうか?」
俺は近づいてきた露天商の親父に銀貨二枚を手渡す。
引き換えに貰ったのは、黒い雑穀パンと豚肉のローストだった。
庶民からすればとても贅沢な品だ。
俺もここ一か月は、大豆由来の合成蛋白質しか食べたことが無い。
「旨い!」
俺も以前も今も一兵卒の兵士。
黒い雑穀パンも美味しく食べることが出来た。
「……」
だが伯爵さまは、小麦100%の白パンに慣れているようで、雑穀パンには苦笑いである。
俺はパンをかじりながらに、ゆっくりと街の通りに馬車を走らせた。
「カーヴ、宿をとりませんか?」
「ああ、わかった」
伯爵さまの意向に沿い、手ごろな宿泊宿を探す。
もう日が暮れかかっており、水平線に近い雲は赤く焼けていた。
「一泊お一人様2ポンドだよ」
「ほらよ」
俺は宿屋のおかみに銀貨を二枚支払う。
馬を馬屋に繋いで部屋に入ると、床には防寒用の藁が敷いてあった。
「だいじょうぶかい?」
俺は伯爵様に問う。
伯爵様の館の床には立派な絨毯が敷かれていたからだ。
「……ああ、うん」
良いとも悪いともとれるような笑みを浮かべる伯爵様。
悪いがこのような街の宿に、貴族の屋敷のような環境を求めるのは酷だった。
藁敷きの部屋で一晩を過ごす。
俺はゆっくり眠れたが、伯爵さまはあまりよく眠れてはいなかったようだった。
「おはよう」
「おはようカーヴ」
朝には馬車にて街を発った。
寝不足の伯爵さまは毛布にくるまって荷台で寝ている。
まぁ、山賊でも出ない限りは特に人手がいる旅でもなかった。
そんなこんなで俺たちは、二泊三日の旅程を終えようとしていた。
□□□□□
三日目の晩。
俺たちは泊まれる宿を求めて、暗がりの山道で馬車を走らせていた。
【探知】……敵対生物がいます!
俺の脳の一部である機械化センサーが呟く。
慌てて俺は眼を赤外線用に切り替えた。
「伯爵様、敵が出たぞ!」
アーサーと呼ぶように言われていたが、俺は貴族階級を呼び捨てにするのには抵抗があった。
「どこどこ? 真っ暗で見えないよ」
「前に4体、後ろに6体いる! はやく剣を抜け!」
俺はそう叫びつつ、少し考えた。
馬車で振り切るか?
いや一、前後から挟まれている。ここは戦うべきだ……。
俺はそう決断すると馬車を停めた。
そして、大きなたいまつに火を付け、乾いた地面に投げつける。
月明かりもある程度あったので、敵の姿がうっすらと見えた。
緑色の小鬼、この世界の書物の知識によるとゴブリンという魔物だった。
「……ひえ!」
怪物の顔を見るなり怯える伯爵様。
彼の様子を見るなり、戦力として数えるのは難しそうだった。
「掛かってこい!」
俺は馬車から飛び降り、馬の傍でナイフを構えた。
この時点では馬が襲われるのが、もっとも自分たちにダメージが大きかったからだ。
「ギギギギギ……ギィ……」
犬歯を擦りながらに威嚇してくるゴブリン。
……先手必勝!
俺は素早く目の前のゴブリンとの距離を詰めた。
「ギャアアア!」
手に持ったナイフでゴブリンの首を掻っ切る。
青色の血液が首の断面からドッと吹き出す。
彼等も知能があるのだろう。
ゴブリンたちも簡素な皮鎧を身に着けていた。
……が、俺にとって皮鎧の防備など薄い絹に等しい。
利き腕の前腕のみを高速振動させ、手に持ったナイフを高周波カッター化させる。
「ギャアアアッァア!」
俺は怪物の胴体部を皮鎧ごと紙のように切り裂き、続け様に首を刎ねていった。
敵は不利を悟り、木々の陰に隠れるが、微量の赤外線をも探知できる俺には関係ない。
「死ね!」
半ば樹木ごとゴブリンの急所を突き刺し、弱ったところを首を刎ねた。
「……ギギギ! ギャギャ!」
6匹目を確実に仕留めたところで、敵は逃げ去った。
俺の皮鎧は返り血で真っ青である。
「……いや、ごめんね。どうにも怖くて……」
伯爵さまは震えながらに助勢できなかったことを詫びてきた。
「気にするな、ただの雑魚だ。それより怪我はなかったか?」
「……う、うん」
伯爵さまは俯きながらにそう答えた。
まぁ、暗がりで複数の襲来者に遭ったのだ。
初めてなら怯えて当然だろう。
むしろ勇を誇って、突出して怪我でもされたらたまらない。
「僕、狩りとかも苦手なんだ。こんなので貴族としてやっていけるのかな……」
「狩りは練習する必要があるかもしれんなぁ」
俺は無責任に適当に応対した。
それより怪物の血で臭くてかなわない。
俺は馬を落ち着かせた後、急いで森を抜けた。
危険な地域はなるべく早く抜けた方が良いからだ。
俺は小川で体を洗った後、再び御者台に座る。
四日目の晩が明けるころには、目標の魔族が棲む古城が見える丘までたどり着いた。
古城は小高い丘にそびえ立っていた。
少し近づいてみると、破損や汚損が多く、捨てられた建物だということが判別できた。
薄気味悪く、用事が無ければ立ち寄りたくない場所だった。
俺は馬車を降り、荷台から必要なものを選別する。
「これから先は、徒歩で近づくぞ!」
「う、うん」
俺は伯爵様を連れて、朽ちかけた古城の門を潜ったのだった。
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