第二話……冒険の準備
――ちゅんちゅん。
「んー、朝か……」
翌朝、俺は鳥のさえずりで起きた。
カーテンの隙間からの日の光がまぶしい。
俺に備わっている人工心臓も拡張機能肺も好調だ。
いい目覚めである。
窓の外には、美しい緑の大地と青空が拡がる。
少しだけ、火星の赤茶けた大地が懐かしいが……。
「お目覚めになりましたか?」
「ああ」
伯爵家のメイドが顔を洗う水を用意してくれた。
至れり尽くせりである。
「……ふう」
冷たい水が顔に心地いい……。
顔を洗った後に食堂に案内され、私は朝ごはんを済ませた。
こうして新しい世界での私の一日が始まったのだった……。
□□□□□
朝食後。
俺は特殊鋼のナイフを磨いていた。
元の世界から持ち込めた武器はこれのみ。
大事に使わねば……。
その後、トム爺さんが部屋に入って来た。
「勇者殿! これをすべて読んでくだされ」
「え!?」
夕方から伯爵の護衛として旅立たないといけないのに、トム爺さんが勧めてきたのは分厚い本だった。
ページを開くとモンスター辞典のようだった。
気味の悪い怪物の絵が描かれている。
「全部とはいわんが、ある程度は覚えてくだされ」
「ああ、わかった」
敵は魔族と聞く。
知らない敵をある程度学ぶのは、当然のことであった。
「あとこれをお持ちなされ」
トムじいさんは小さな皮袋を差し出してきた。
「これは魔法の皮袋でな。見た目より沢山モノが入るのじゃよ」
「ほう、凄いな。ありがたい」
俺は礼をいって魔法の皮袋を受け取る。
早速、前金で貰った金貨を入れてみた。
……ん?
皮袋の重さが変わらない。
まさか消えたんじゃないだろうな。
慌てて袋を逆さまにしたら金貨が出てきた。
それを見たトム爺さんがニッと笑う。
「あとこれじゃな。剣と皮鎧じゃ」
「……ほう」
俺は左目に内臓されたスキャナーのスイッチを入れ、剣を【鑑定】してみた。
【調査結果】……鉄で作られた剣です。
「……ふむ」
「お気に召しませんかな?」
俺は鉄の剣を手に取り、軽々とひん曲げて見せた。
戦闘用アンドロイドの力を見くびるんじゃねねぇ、と思ったら。
「おお! 流石は勇者殿! 頼もしい限りです」
と言われた。
驚かれると思ったのだが、そうはいかない世界感らしい。
……がっかりだ。
というかこの世界の勇者って凄いのだろうな。
俺にやはり務まりそうにない。
「まぁ、武器はともかく皮鎧は頂くとしよう」
俺が皮鎧に手を伸ばし、袖を通そうとすると、
「あ、少し待ってくだされ」
トム爺さんが俺の動作を制した。
そして、鎧の革ひもを調節し、俺の体のサイズに合わせてくれた。
俺は調節された皮鎧を着て、部屋にあった古びた鏡で見てみると、意外とカッコいい代物だった。
「お似合いですな」
トム爺さんが褒めてくれる。
本当は鉄の鎧とかが良いと言ってみたら、泳げなくなるからだとか、色々と皮鎧のメリットを教えてくれた。
……いやあ、俺の体は機械化部分も多いから水に浮かないのだが。
まあ、そんなことをいうと混乱させるから辞めよう。
そうこうするうちに伯爵様が現れた。
こちらはなんと金色に輝く金属鎧姿だ。
赤いマントもカッコイイ。
誰だ、泳げなくなるから皮鎧が良いって言った奴は。
まぁ主従を解りやすくするために、身なりの差を考える必要があるのだろうな。
「勇者様、そろそろ出発しませんか?」
相変わらず自信なさそうな雰囲気でやってきた。
要らない世話だが、こんな様子でご領主様ってやっていけるのだろうか。
「伯爵様よ、俺にはカーヴって名前があるんだ。次からはカーヴと呼んでくれ」
「じゃあ、僕のこともアーサーってよんでよ」
伯爵様がキラキラとした目で言ってくる。
きっと良い奴なんだろうなぁ。
「ああ、いいぜ!」
俺はそう返事をして、出発に向けて荷造りをはじめた。
その後。テントに毛布、ランタンや水の入った樽などを馬車に積み込む。
やはり水は特に重要だ。馬は人間の何倍も必要とするからだ。
ところで、御者は当然に俺だ。
慣れなくて、幾ばくか不安だが、まさか伯爵様に御者をさせるわけにはいかない。
俺は馬にやる水を運び、すこしでも馬になれるようにしたのだった。
途中、館の衛士に睨まれる。
当然だろう。
伯爵の護衛の役は、本来は彼等なのだ。
俺はぺこりと頭を下げて、愛想笑いを作った。
相手は「ふん!」といった感じでどこかへいったが、逆の立場ならわからないでもない。
そうこうして、出発の準備が整う。
俺の手の甲には馬に噛まれた痕がみっつも出来たが……。
「いってらっしゃいませ!」
「ああ、行ってくるよ」
トムと数名の美しいメイドに見送られ、俺と伯爵は馬車にて旅立つ。
館の敷地までは石畳があるが、門を出て外堀を渡るころには土の道となった。
雨上がりなのだろうか。
若干ぬかるむ道を慣れない手綱さばきで進む。
「不安ですね……」
「悪いな!」
伯爵が俺の手綱さばきに文句があるのかと思ったら、これから現れるであろう魔族のことであった。
……まあ、そうだよなぁ。
こんな良い奴は死なないほうが領地の為だな。
俺の思ったことを証明するように、畑を耕す領民が手を振ってくれた。
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