第十九話……デッドリーレイス
デッドリーレイス。
巨躯を誇る巨人族の髑髏を三つ持ち、それを巨大な魔法の衣が包んでいる。
空間魔法系を操る不死の化け物。
その衣の中身は、誰も見たことが無いという……。
通常の魔法を受け入れず、剣で攻撃しようにも実態をつかむのが難しい。
そんなことが、トムから借りた書には描かれていたはずだった。
俺はそんな桁外れな化け物に対していた。
「えぃ!」
とりあえず、地面にあった大きめの石を掴み投げてみる。
デッドリーレイスの衣に吸い込まれた石は、何故か俺の後頭部に当たった。
……痛てぇ。
くそう。
やはり奴は空間を操る。
「ククク、所詮ハ小者ヨノ。直々ニ、手ヲ下ス必要ハ、アルマイ……」
魔物はそう言うと、地面の中から腐った死体や、骸骨の化け物を召喚してきた。
一つ一つなら怯えるに値しない低級な化け物だが、数が凄い。
ゆうに100を超える数だった。
……隠すわけにはいかないか。
俺は背中に背負っていた鞘から、退魔の剣を引き抜く。
「どりゃあ!」
白く輝く剣はきらめきが月の光にも勝り、地獄から蘇ってきた魔物たちの体を、次々に引き裂いた。
俺は剣を振り回し、それに伴い、まばゆい光が次々に弧を描く。
「くたばれ!」
腐った死体や骸骨の魔物たちは、退魔の剣に触れて引き裂かれ、その傷口から、浄化の白い炎の光に焼かれていった。
さすがは、その名の通り退魔の剣。
不死の魔物に対し、恐るべき効果を発揮した。
……もしやこれならば、デッドリーレイスに勝てるか!?
俺は無尽といえる数の魔物を叩き伏せた。
あとは親玉のみ……。
「……ククク、ヤルデハナイカ! デハ、我ガ地獄ニ誘ッテヤロウ!」
魔物の親玉はそういい、禍々しい赤い炎を吐いてきた。
「そうはいかぬ!」
片手でポコを抱いた魔女が、魔法で出来た障壁を張ってくれた。
炎は魔女の障壁に当たり四散する。
「……ナンダト!? 魔女ヨ、貴様ハ敵カ?」
「そうなんだよな。彼女は魔族寄りだが、俺の味方だ。ちなみにそこのタヌキもな!」
俺は驚く魔物に言い放つ。
つまりは三体一で、きっとこっちが優勢だ。
「でやっ!」
それは退魔の剣で魔物に切りつける。
……が、切り裂いたのは衣のみ。
そもそも、本体がどこにあるのか分からない奴だった。
せめて、核である魔石の位置でも分かれば……。
「……ホウ、魔石ノ位置カ? イイトコロニ気ガ付ツク奴ダナ!」
……そうだった。
奴は此方の気持ちがわかる可能性が高かったのだ。
「おう!?」
敵はなにもしてこないと思いきや、何もない空間から突然に巨大な骸骨の手が現れる。
その骸骨の手は俺の顔を狙うが、寸前のところで躱す。
だが、顔は免れたが、その手の鋭利な爪で、わき腹の肉を表皮組織ごと持って行かれた。
「……いてて」
強化繊維の皮膚が切り裂かれ、血管が破れる。
同時に青色の血が噴き出す。
「……ン? 貴様、人間デハナイナ?」
魔物は首をかしげる。
血の色が気になるのだろう。
こちらは痛みでそれどころではないが……。
「誰が人間だと自己紹介した? 俺はしてないぞ!」
「フン。魔デモ人デモナイ異物メ。早ク地獄ニ落チロ!」
俺は左手で脇腹を抑え、反撃に転じる。
だが、いくら剣戟を浴びせようとも、有効打の感触はない。
「無駄ヨ、無駄! ……ククク!」
俺は素早く動き回ったが、魔物はそれを巧く捌きながらに笑った。
【システム】……次元跳躍の用意が整いました。
……しめた。
俺は素早く補助脳にワープを指示。
一気に化け物の背後へと瞬間移動した。
「げ!?」
だが、魔物は裏側にも顔があった。
顔といっても表情のない髑髏なだけだが。
その髑髏は口を開き、灼熱の炎を浴びせてきた。
奇襲を行ったのはこちらだったため、とっさには逃げ場がない。
「あぢぃぃぃ!」
俺の胸部と顔が炎に焼かれる。
顔の皮膚は爛れ、頭の皮膚の一部が剥がれた。
「キヒヒ、貴様モ我々ノ仲間イリダナ」
……痛てぇ。
頭皮からの血が目に入り、目の前がよく見えない。
【システム】……可視光線から、赤外線センサーに切り替えます。
俺に備わった戦闘システムが、次々に自動で残存機能を統合。
少しでもマシな行動をとれるよう準備してくれた。
……ああ、魔法でも使えたならなぁ。
ここで俺は、真面目に魔女に魔法を習わなかったことを悔いた。
すこしでも優位に立つべく修練すべきなのに……。
「燃え盛れ!【劫火】」
魔女の火炎魔法が魔物を包む。
俺が前線で戦ってくれる間も、魔女は常に後衛として支援してくれた。
だが、やはり魔法は、あまり効いているようでは無かった。
……いかん。
このままでは負ける。
何とかしなければ……。
『魔を滅したいのか?』
……うん?
誰だ?
貴様は!?
それは俺のこころに直接話しかけてくる声だった……。
「……ナニヲ、ゴソゴソ言ッテオル。死ネ!」
そんな時でも魔物は襲い掛かって来る。
こちらが距離をとろうと飛び退くも、相手は瞬間移動で間を詰めてきた。
突如、なにもない空間から現れる鋭利な魔物の爪。
そして、本体も距離を詰めて、灼熱の炎を吐いてきた。
出血も酷い。
この戦い、長くはもたない。
何とかしなければ……。
『魔を滅したいのか?』
……まただ。
誰だ貴様?
何が言いたい?
俺は心に話しかけて来る相手に、真剣に問うたのだった。
☆★☆
お読みいただき有難うございます。
お気に召しましたら、ブックマークやご採点をいただけると大変嬉しいです。
誤字脱字報告も大変感謝です。




