第十七話……リザードマンの降伏
「殺戮の儀、ここまでにして頂きとうござる」
現れた老齢の魔物は、驚いたことに流暢な人間の言葉を話した。
流石は長く生きているだけある。
「悪いが、こちらはお前たちを皆殺しにしたい」
変な言い方だが、俺は人間側の要望を伝える。
「もう我々に戦士はいない。お前たちに殺されつくした。あとは女子供だけだ。何卒、情けをかけて欲しい……」
老齢の魔物は膝をつき、服従の意を示した。
……この態度、俺にはできねぇ。
仲間をあれほど殺されたのにだ。
確かに一族の為、立派な選択とも言えた。
見るべき人物、もとい魔物であるかもしれない。
さしずめこの先は、女子供しかいないフロアということか。
……さて、どうしたものかな?
皆殺しに出来る絶好の好機でもありえた。
「どうする?」
俺は魔女に聞いてみた。
「わわらはどうでもいいぞ。わわわは人間ではないしな」
「ポコもどうでもいいポコ~♪」
「……ふむ」
……よく考えたら、俺も人間じゃねぇな。
しかし、魔物相手とは言え、根絶やしの虐殺ってのも寝ざめが悪いな。
「……よし、その代わり、今晩のうちにここから退去してもらうぞ。雇い主には退治したって報告するからな」
「有難うございます」
老齢の魔物は、俺の左手にいくつかの珍しい宝石を握らせてきた。
……わ、わかってんじゃねーか。
今の俺は不道徳な笑みをしているのだろう。
ポコの目線が生暖かい。
……まぁ、退去も自体も、この辺りから魔物を一掃するってのには違いない。
任務成功といったとこだろう。
それに、沢山の宝箱を漁れたしね……。
俺達は洞窟にて来た道を帰る。
ちなみに洞窟の地図は完成していた。
安い傭兵の賃金にしてみれば、これだけでも褒められるべきことだった。
「おお! なんと! リザードマン達を皆殺しに!?」
「ああ。明日からは心配いらないぞ!」
「凄いですぞ! カーヴ様様ですな! 早くこのことを、ご領主様に報告せねば……」
俺は入り口で待っていたジョーに任務完遂を報告。
完成した地図も渡した。
それを含めてとても喜ばれた。
「カーヴありがとう!」
「傭兵さんありがとう!」
「カーヴ、流石だな!」
その後、俺達は村々の人々から感謝される。
アギー男爵からも感謝され、帰った日の晩は、盛大に晩餐で饗応してもらった。
翌日。
俺達は御礼をお貰い、馬車に乗り、村々を後にしたのだった。
□□□□□
俺達はしばらく流浪の旅をしていた。
魔法の方位磁石を頼り、聖剣探しにあっちへウロウロ、こっちへウロウロといった具合だ。
捜索の成果としては、錆びた剣だったり、ボロボロの巻物だったりだ。
その捜索の合間に、俺は魔女から魔法の遣い方を教えてもらっていた。
「迸れファイアーボルト」
火炎魔法を詠唱するも、あまり効果的な炎が具現化できない。
料理用の薪に火を付けるくらいの用途なら構わないが、とても戦闘に仕えたものじゃない……。
「イマイチじゃな……」
魔女から『できそこないめ』みたいな冷たい視線を受ける。
「ファイアーエンチャントウエポン!」
その代わり、おれは【魔法付与】の才能には優れた。
武器などに炎を纏わせる術だ。
これも間接的な魔法攻撃といっても過言ではない。
「おぬしは魔法付与だけなら一流だな。わらわより上じゃ。きっと生来の才能じゃのう……」
……えへへ。
本職の魔女に褒められると嬉しいね。
そんな感じで、魔法修行をしながらも、俺達は聖剣探しに東奔西走したのだった。
□□□□□
ある日の夕方。
「おーい! 待ってくれ!」
俺達の馬車が街道を行くと、後ろから一騎の騎馬が駆け寄ってきた。
「うん?」
「誰ポコ?」
「おーい。俺だ俺、ライアンだよ」
その声を聞き、俺は馬車を停める。
久々の友との再会だった。
「よし、今日はここで一泊するか」
馬車を停め、俺は急いで夕食の準備をする。
遠路から来た友とご飯を食べるのは嬉しいしね。
干し肉を沸かした湯で戻し、パンをちぎって皆に分けた。
今夜のスープは、羊のミルクに豆を入れたものだ。
「……で、あれからどうした?」
スープを配りながらに、俺はライアンに聞いた。
「ああ、あれからな。お前さんのお陰で、クリフォード家に雇って貰えたぞ。今では衛士隊長だ!」
「よかったな」
俺はライアンの肩を温かく叩いた。
「それでな、あの闘技場での宝剣……」
「どうだった?」
「王宮魔術師の鑑定を受けたんだが、探していた聖剣では無かったらしい」
「そうか」
……まぁ、闘技場の商品がそんないいものな訳はないよな。
俺は少しがっかりした。
「まぁ、話は最後まで聞け。意外なことにこの剣は良いものだってわかったんだ」
「……ぇ!?」
「この剣は死霊系の魔物に顕著な効果のある退魔の剣というらしい。その素質のある者が握ると、白い魔法の炎に包まれるらしい」
「へぇ、で、ライアン。お前はどうだった?」
「……駄目だった。全然光らねぇ」
「あはは」
まぁそうだよね。
そうそうあることじゃないよね。
笑いながら俺がその剣を受け取る。
――ドンッ。
いきなり剣の刀身から白い光が迸った。
「凄いポコ!」
「なんだお前? 一体何者だ?」
「……お、おぬし、退魔の才能があったのかの?」
皆が驚きの眼で俺を見る。
「……え、え!?」
俺は慌てて剣を鞘に仕舞う。
そうすると、剣は輝くことを止めた。
「カーヴ、お前に退魔の能力があるのか?」
「……いや、無いだろ? ははは」
俺は、そんな訳はないだろうと笑った。
この世界では、そもそも退魔の能力とか、聖職者に備わるものだったのだ。
その点、俺は金に汚いし、女も大好きだ……。
「似つかわしくないのぉ~」
「似つかわしくないポコ」
「……だな」
ライアンを含めて、全員一致の反応だった。
俺自身、似つかわしくないと思う。
……だが。
俺が再び剣を握ると、剣は眩いほどの白い光を発したのだった。
☆★☆
お読みいただき有難うございます。
お気に召しましたら、ブックマークやご採点をいただけると大変嬉しいです。
誤字脱字報告も大変感謝です。




