第十六話……宝箱
「ギギギ……、マタ人間ガ魚ノ餌ニナリニキタカ?」
「何だと?」
リザードマンたちは、以前に討伐に来たであろう人間たちの装備品を持っていた。
なめした革袋に毛布。
マントの切れ端、場違いな農具など。
だがこれは、魔物と人間との生活圏を賭けた殺し合いなのだ……。
俺はこの世界の厳しさを思い出す。
「低級魔族どもよ、かってこい!」
魔女がニヤッと笑い相手を挑発する。
彼女に馬鹿にされたリザードマンたちが、魔女向けて一気に距離を詰めて来る。
「そうはいくか!」
俺は先ほど倒したリザードマンの槍を振り回し、走り寄って来るリザードマンをなぎ倒す。
……1匹。
2匹、3匹、4匹。
魔女の魔法との連携で、5匹目を叩きのめしたところで、ポコが敵に捕まってしまった。
「武器ヲ捨テロ! サモナイト、コノタヌキヲ殺スゾ!」
リザードマンはポコの首元にナイフを当てる。
「……くっ」
どうしようかと思ったところで、ポコが突然石化して小さな石像となった。
「今だ!」
ビックリしたリザードマン達に、魔女が電撃魔法を放ち、勝負の大方は決したのだった。
ポコは再び元の姿に戻り、何事もなかったかもように、後ろ足で顔をかいている。
「あれはタヌキの石化の魔法じゃな」
「石化?」
「ああ」
魔女にそう教えてもらうが、相手を石化するならともかく、自分を石化して身を護る魔法など初めて見た。
まぁ最悪、ポコは俺たちの足を引っ張らない術をもっているということか。
「さぁ、先に進むポコ!」
「……ぉ? おお」
元気なポコの先導で、洞窟の奥へ奥へと進む。
どこにも灯が無いので、松明を濡らさぬように気を遣った。
ところどころ立ち止まり、羊皮紙に丁寧にマッピングしていった。
「それはそうと、何故、主殿は今回の仕事を引き受けた?」
魔女に突然聞かれた。
「なんでって?」
「いつもの主殿なら、報酬がないと駄目じゃろう?」
……ああ、そうだ。
普段の俺は金にがめつい。
火星での地位も金で雇われた傭兵に近いものだったのだ。
戦士が金で雇われるのは卑しい。
そう思われることもある。
だが、茶色い不毛の大地で、家族を養える仕事は少ない。
多くの戦友たちは、家族を養うために戦士となっていたのだった。
……金。
それは俺たちの明日の生活を養う、とても大切なものである。
されど金、という奴はたいていに裕福な家の生まれに決まっていた。
「……ああ、そうだな。だが、その金の払えない奴はどうする? ただ敵に蹂躙されて死ぬだけか? そうじゃないだろう。そういう貧しい人達の為にも、俺はこの拳を使う」
俺がそう言うと、魔女は少し驚いた顔になった。
「……おお、ただ金に汚い男じゃなかったのだな。あはは」
「……あはは、じゃねぇ。殴るぞてめぇ」
そう言うと、魔女は悪い悪いと宥めて来る。
「もちろん金が貰えたら、それに越したことはないよ」
俺は鼻を啜ってそう答えた。
魔女は大げさに、ウンウンと頷いてくれた。
そんな……、きっと、くだらないことを話しながら、ポコを先頭に俺たちは、更に洞窟の奥へと進んだのであった。
□□□□□
「死ねや!」
「ギャー」
もう何匹目の魔物を倒しただろうか。
俺の服は粘っこいリザードマンの血で、濃い緑色に染まっていた。
そんな戦闘後の枝道の突き当り。
俺達の前に、装飾が施された大きな箱があった。
「おお!? 宝箱か?」
「凄いポコ~♪」
俺達のテンションは爆上がりだ。
ちなみに俺は、娯楽である映画以外で初めて宝箱というのを見る。
「こういうのって罠とか無いのか?」
俺は創作物によくあった罠の存在を魔女に聞いてみた。
「そうじゃのう。古代の遺跡物だったら、まず仕掛けてあるとみるべきじゃろうのう……」
……やっぱりそうか。
しかし、トラップ解除のスキルなんて持ってないぞ。
前の世界でも、爆発物解除なんて出来たためしはなかった。
「ポコに任せるポコ~♪」
タヌキのポコが小さな枝を宝箱の鍵穴に突っ込む。
そして、何かしらゴニョゴニョとすると、ぱかっと宝箱が開いたのだった。
「……ぉ!?」
「開いたぞ!」
俺は箱の中を覗く。中身は赤い布切れだった。
「これってなんだろ?」
布を広げて魔女に聞いてみる。
そうすると、魔女は布をしげしげと見て言った。
「……多分、これは燃えない布じゃな。商人に高く売れるぞ!」
「おお!」
俺と魔女は喜んだが、一人怒ったのはポコだった。
「これはポコのマントにするポコ!」
「……ぇ?」
確かに燃えないマント。
魅力的である。
……が、それをタヌキが装備するのか。
「ま、いっか」
「次の宝は、わらわが欲しいぞよ!」
てめーらも、俺に負けず金品に弱いじゃないか。
ぷんぷん。
それからも俺たちは洞窟をくまなく捜索。
もはや、本題の魔物退治はどこへやら。
次なる宝箱を、総出で血眼になって探しまわっていたのだった。
「扉があるポコ~♪」
「「おお!?」」
先頭で松明を掲げるポコが大きな扉を発見。
きっとこの先には宝物が……。
俺は期待を胸に、ゆっくりと扉に手をかけたのだった。
――ギギギ。
ゆっくりと扉が開く。
しかし、扉の向こう側に現れたのは、宝箱などではなく。
しなびた態の、動くのもやっとであろう老いたリザードマンの姿であった。
本来の目的である討伐対象なのだが、俺も魔女もその場でがっくりと膝をついたのであった。
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